5-9 講和(前編)
ハワイ沖海戦で勝利した日本はハワイ諸島を海上封鎖。本土からの供給は途絶え、ハワイの住民は備蓄分だけで生活することになった。更に、日本はホノルル市街に空襲を加えて、住民の不満が高まった。
アメリカ政府はハワイで日本と陸上戦を行い、時間を稼ぐつもりであったが、ハワイ準州の総督トーマス・グリーンはそれに反対。ハワイ戦で日本軍に勝利できる見込みがないこと、補給も途絶えているため犠牲者が無意味に増えてしまうことを予想したからだ。グリーンは本国の指令を無視して島内の軍を武装解除し、無防備都市宣言を行った。その後、オアフ島に日本軍が上陸し、無血占領された。
日本はアメリカ本土攻撃の足がかりを手に入れ、アメリカは手も足も出なくなっていた。
―――アメリカ、ホワイトハウス
「まったくどいつもこいつも、役立たずばかりじゃないか・・・!国民にバレたら私の立場が・・・」
ルーズベルト大統領は自室の中で怒りを露わにする。日本やドイツと開戦して以降、まともに戦果をあげたことがなく、連戦連敗。ハワイを防衛するように命令を出しても、部下はそれに背いて武装解除して降伏。本土への攻撃が現実味を帯び始め、焦りを感じていた。
「大統領閣下!たった今、日本政府から文書が・・・」
そう言いながら入ってきたのは国務長官のコーデル・ハル。アメリカの外交などを任されている長官だ。
「日本から?一体何の文書だ?」
「まだ中身は確認しておりません。急ぎでここまで持ってきたので」
「そうか。それを見せてくれ」
「はい、どうぞ」
ハルはルーズベルトに文書を手渡す。そこに書いてあったのは、
「日米間の講和条約締結に関する提案」
ルーズベルトは目を見開き、題名を何度も目で追って確認した。ルーズベルト自身、早く日本と講和した方がいいと内心思っていたが、相手からそれが来るとは思ってもいなかった。
「大統領、どういう内容でしょうか?」
「日本から、講和の申し入れだ」
「ほ、本当ですか!?」
(まさか向こうから講和したいと言ってくるなんて・・・徹底的に潰す予定だったのに講和するのは屈辱だが、これ以上損害が増えるとこちらが潰されかねない。同盟国を裏切ることになるが、アメリカが優先だ。続きを見てみよう)
「この戦争を終結させるため、両国は次の条項の全てに従い、交戦を放棄し、平和を回復させること。
・ハワイ準州、アラスカ準州の領有を破棄し、日本による占領を容認すること。
・日本によるフィリピンの支配を容認すること。
・パナマ運河、プエルトリコ、カリブ海諸島を日本に永久租借すること。
・アメリカは日本に対して賠償金900億ドルを支払うこと。
・アメリカは全ての同盟、協商を破棄すること。
・北米大陸における先住民地域を解放すること。アメリカの主権、領土は建国当初の東部13州に限り、その他35州には先住民族による自治国家を建設すること」
という内容だった。ルーズベルトはこれを読んで、決断した。
「日本と講和は結ばない。徹底抗戦だ」
「・・・え?」