3-15 米英
―――アメリカ、ホワイトハウス
「大統領閣下、報告があります」
「ふむ、開戦のことか」
ルーズベルトの執務中、秘書が部屋へと入り、そう言った。
「はい。日本政府からの宣戦布告より20分後、ハワイが日本軍により攻撃を受けた、とのことです」
そう報告すると、ルーズベルトの顔がみるみるうちに明るくなり、
「そうかそうか・・・日本のヤマモト長官にはこう伝えてくれ。『よくやった』とな」
と冗談混じりに嬉しそうな様子で答えた。自分の思い通りにいったことが嬉しいようだ。国民も世論が徹底抗戦に結集するだろうと思うからだ。その様子に秘書も少し困惑する。
少しの沈黙の後、ルーズベルトはこう聞いた。
「それで、損害はどのくらいなんだ?」
「それが・・・艦隊司令部によりますと、戦艦6隻沈没、軽巡洋艦1隻沈没、その他1隻沈没など、生き残った艦も損傷が激しいです。他にも航空機200機ほどが破壊され、戦死者は3000名を超えています。更に飛行場や重油タンク、港湾設備も破壊されました。
それと、グアム島への輸送任務中だったエンタープライズが消息不明です。事故、もしくは日本軍の攻撃で沈没した可能性が高いです」
「う、嘘だろ・・・?そんなわけがないだろ。何かの間違いではないのか?」
さっきまで嬉しそうにしていたルーズベルトは損害を聞いて、ガクンと背が崩れた。攻撃と言っても艦載機によるもの。艦載機によって簡単に戦艦が沈没するなど夢にも思っていなかったからだ。
「残念ながら、これは本当のことです。何度も確認しましたが、結果は同じでした」
「ははは・・・まさか、そんなわけが・・・ジャップがそんなにも強いだなんて・・・」
さっきまでの威勢とは一変し、独り言をつぶやき始める。現実を受け入れられていない様子だ。
―――イギリス、ウェストミンスター
「はあぁ・・・何たることか・・・」
チャーチルは部屋で1人頭を抱え、大きなため息をついた。
その理由は、マレー半島での日本軍との戦闘で圧倒的な火力に敵わず敗走、撤退続き。更に、マレー沖での海戦では、航行中の戦艦が飛行機に撃沈されるという、イギリスにとって屈辱なことが起きていた。ドイツ軍との戦いとも重なり、チャーチルはかなりのストレスを受けていた。
「あの偉大なアメリカ太平洋艦隊も、たった数時間で壊滅してしまった。もうアメリカに頼れるとは限らない。ああ、神よ。どうにか私たちをお救いください」
チャーチルはそう祈りを告げた。しかし、イギリス本土は既に弱体化している。マレー半島でも、日本軍を数か月足止めできると豪語していたジットラ陣地を越えられてしまった。神はどちらに微笑むか、それはもう分かっていることだが、彼はまだ屈していなかった。