3-8 対日禁輸
―――1938年9月初頭、皇居
「陛下、突然お呼び立てして申し訳ありません」
そう言って頭を下げてきたのはこの国の外務大臣、宇垣一成だ。
「うむ。ところで、何があった?」
「はい。実は、アメリカとイギリスが全侵略国に対する石油禁輸を宣言しました。全侵略国には我が国も含まれているようでして・・・」
「我が国は侵略行為などしていない。何かの間違いではないか?」
「いえ。アメリカは、仏印への進駐、更に満州国の建国を侵略行為だと言っているようです」
やはりそう来たか……アメリカはやりたい放題だな。仏印への進駐は、現地政府との協定を結んだ上での進駐だというのに、アメリカは勝手に侵略だと言う。それを口実にして、日本を締め付けたいだけだな。
「更に、アメリカは我が国に対して屑鉄の禁輸を宣言しました。このままでは日本経済は危機的な状況になるかと・・・」
日本は、石油や屑鉄などの資源をほとんどアメリカに頼っている。これらがなくなると、やがて日本の燃料は枯渇し、製鉄業は大打撃を受ける。アメリカはこれを分かっていてやっているのだ。
「国内での石油備蓄量だと、あとどのくらい保てる?」
「詳しくは分かりませんが、採掘量と合わしてもあと3年ほどかと思います」
「そうか・・・駐米大使を通じて、アメリカと交渉するように伝えてくれ」
「はい。かしこまりました」
俺がそう言うと、宇垣大臣は部屋を後にした。ちなみに、交渉したところでアメリカは交渉に応じるつもりはないだろう。アメリカは戦争のための時間稼ぎをするからだ。なので、こちらも戦争の準備をしていく。とは言っても、俺が実権を握ってからずっと戦争の準備をしているのだけどな。石油が尽きないうちに、戦争を開始しなくては。
―――ドイツ、軍司令部
「ハイル・ヒトラー!」
ヒトラーが入ってくると、全員がナチス式敬礼をした。
「諸君、次に我が帝国の領土になるのはヨーロッパではない。アフリカだ」
ヒトラーはそう言い、背後にある世界地図のアフリカ大陸を指した。
「アフリカのイタリア領土にいる侵攻用部隊をエジプトに派遣する。エジプト占領後は英領ソマリランドだ。エジプトへの部隊の指揮はロンメル将軍に任せる」
ドイツは装甲師団を中心とする大軍をアフリカに送っていた。この大軍は、北アフリカと東アフリカで攻勢をするためのものだ。ドイツ軍の他にも、少数のイタリア軍が参戦する。
(ついにアフリカでの戦いが始まるのか・・・)
それを聞いた将官たちはそう思った。ヒトラーはこの計画を前から考えており、アフリカで補給不足にならないよう、リビアなどに兵站基地を多く建設していた。マルタを占領したのも、アフリカまでのシーレーンを安全にするためだ。
こうして、北アフリカ戦線が始まった。