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異世界でチートだが万能ではない  作者: 杏栄
第一部 森の中で
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1.転移/世界地図

前回のあらすじ。転移の仕組みと限界を説明された。


 それは羊皮紙を綴り合せた地図だった。

「世界ハ丸イ。‘地球’ハ‘太陽’ノ周リヲ廻ッテイル――イウマデモナイコトダガ」

 神話的ファンタジー世界ではないらしい。岩石型惑星で体感重力は変わらないようだ。あとで確かめてみよう。

「現在地ハ、大陸ノコノアタリニナル」

 地図には海に囲まれた陸地が1つ描かれている。スケールは不明だが黒猫が大陸というならそれなりに広いのだろう。白、黄、青、水色で丁寧に彩色されてとても綺麗だ。流麗な筆致で書き込みがされているが当然読めない。

 大陸はCの字を描いている。上端と下端は白く彩色されており寒冷な気候を想像させる。中央のあたりは切れ切れの青い帯になっている。密林だろうか。その南北両側には青の2倍以上黄色が広がっている。Cの外縁にも細長い黄色い帯がある。白と黄色の間は、内陸は茶、沿岸は黄緑が入り混じっている。

 黒猫が鋭い爪を1本出して起用に指し示したのは、内陸の一点である。南半球西方の山脈の東麓で近くに湖がある。

「コノ湖マデ、ひとノアシデ2週間ホドカカル」

 先程窓から外を見た範囲では、特に急峻な地勢というわけではなさそうだ。農業主体の里山的集落だろうか。

 2葉目はこの附近の地図だった。ほとんど黒一色で描かれており、例外的に幾つかのコメントが朱書きされている。何かの警告なのだろう。

 湖岸の街から北へ向かう街道から森の中まで分岐が伸びている。明らかに太さ、墨の色味が異なっており、後から描き込まれたものだ。

「コノ家ハ、ココダ」

 黒猫は分岐の末端を爪先で指す。

「街道マデノ道ハ獣道ダ。我々以外辿ル者ハ招カレザル客、猟師ヤ盗賊ノミ」

 泰雅の無反応に、黒猫は溜息をついた。

「街カラ2日トハ言エ、城壁ノ外ダ。衛士モ軍モ、ココニハ居ナイノダゾ」

 無論119番も警察もない筈だ。泰雅は急に不安になった。

「じゃあ……じゃあどうするの?盗賊なんか押し寄せて来たりしたら」

「ココニハ私ト君トふぃーびシカ居ナイ。私ガソノ辺ノ盗賊ニ負ケルトハ思ワナイガ、集団デ来ラレタラ、私ガ片付ケテイル間ハ、自分ノ身ヲ守ラナイト、イケナイナ」

 もっとも、と黒猫はひとりごちた。自分は情報構造体の物理相にすぎない。本当の意味で消滅することはない。ここにいる泰雅もまたオリジナルの情報を強化体に焼きつけただけだから再構築可能だ。

「マア、ソウナッテモ真ニ死ヌノハふぃーびダケダガ」

 泰雅は青褪めた。

 漫画やラノベでさんざん読んだ残虐な場面がフラッシュバックする。反射的に黒猫を非難しようとし、寸前に思い止まる。深呼吸。


世界地図については、三日月型パンゲアを、拡大地図については、ソルトレークシティ近辺をイメージしてください。


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