2.錬金術士たちと魔術ギルド図書館/粗相
前回のあらすじ。どこかで進行している陰謀。
異臭で目が覚めた。
サルは泰雅の傍らで丸くなり安らかな寝息を立てている。フィービが手当てしてくれたヒト用の湿布はサルにも効いたようだ。その匂いではない。
見回すと部屋の隅が発生源のようだ。机の上にあった筈のメモが、何故かひとかたまりに積まれている。
「ああ…」
メモをかきわけて泰雅は嘆息した。拳大の糞便が隠されていた。遠い隅でした上で、なるべく臭いが広がらないよう手近なもので覆ったとみえる。捕食者を引き付けない本能だろう。
このサルにそっくりな、妹本人なら怒鳴りつけるところだが、いくら瓜二つでもサルでは仕方ない。自分が拾った手前もある。不満をぶつける相手もいない。メモは上から順に取ったらしく、一番汚れているのが最新のものだ。だいたい覚えてはいるが、正確に残したいからメモを取ったのに。惜しいが諦めるしかない。
2枚犠牲にすることにし、処理槽に捨てるため慎重にくるむ。なるべく手指を汚さないよう試行錯誤していると、フィービが呼びに来た。
「朝食でございます。泰雅様」
「ああ…ええ、ちょっと遅れるかも」
「失礼します」
部屋に入って来たフィービは一目で状況を把握した。
「そのような始末は妾におまかせ下さい。紙は全て処分してよろしいですか」
「いや…なるべく救いたいんで、こっちの方は捨てないでくれないかな」
「わかりました。ではこちらの方は捨ててよいですね」
「ああ…仕方ない」
フィービは躊躇わずに紙ごと汚物をつかみ上げ、そのまま処理槽に放り込んだ。
「ここはあとで水を流して、紙は干しておきます。泰雅様は朝食を召し上がって下さい」
「ああ…ごめん、ありがとう」
「おそれ入ります。このサルにもトイレを躾けておきます。どこでしたらいいかわからなかったのでしょう。賢いからすぐ覚えます」
「ああ…ありがとう、お願いします」
泰雅の困惑を見逃す程度には、フィービも慣れてきている。フィービには頭が上がらなくなる一方だ。




