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異世界でチートだが万能ではない  作者: 杏栄
第二部 街で
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プロローグ

前回のあらすじ。殺した野盗の死骸を埋めた。

 低い銅鑼の音が第四夜警時を告げた。

 宵闇の訪れと同時に南天を覆っていた星渦は、その過半を点々と篝を灯した城壁の彼方に没していた。黒々と寝静まった街には動く影さえない。宿屋の酒場さえとっくに看板を仕舞っていた。

 新市街を囲う城壁の外――施療院建設により玉突きで市街に弾き出されたスラムが、大火災で灰燼に帰したのが7年前。隣国の崩壊により増加する流民対策のため、跡地で始められた闘技場建設は、資金不足で中断されている。

 2階の石積みをほぼ終えたあたりで停められた成長も、その期間が4年もの長きに渡れば、廃墟じみた風景のまま周囲に馴染みはじめていた。

 一応1階の入口は木の板で閉鎖されていた――住民の安全対策というより、石材の盗難防止の為だったが、このあたりの治安は良いとはいえない。どこからともなく入り込んでは小屋をさしかけ煮炊きまでする。時折入る城兵の巡検に見つかれば容赦なく撤去される――中に人が居ようがおかまいなしだ。それでもまたいつの間にか、棲みつくものは後を絶たないのだった。

 この建設現場に奇怪な噂が流れていた。夜の間に住民がいなくなるというのだ。2年以上も囁かれながら、未だに噂のまま放置されていたのは、姿を消していくのが市街地外の窮民であったことと、何の騒ぎも起こさずただいなくなるためだった。それでなくとも、住民同士のトラブルや犯罪に巻き込まれ――あるいは自ら犯罪を起こして命を落とすものは少なくない地域である。住み手を失った小屋は周囲に再利用されてしまい、何かの手がかりが残されていたとしても調べるいとまもない。毎日数人から十数人程入れかわるスラム街の住民から、原因の明らかな音を除いていくと、1人か2人、姿を消す者が多い勘定になる日が続くのだった。


 2つの影が音も無く移動する。視覚にも黒々と星渦の影に紛れ、魔覚に於いても何の痕跡も見せることはない。すっぽりとかぶったマントは、内に秘めた魔素を外に漏らすことなく包み隠していた。

 誰にも悟られることなく――犠牲者さえ無意識から覚めることなく死の淵を越え、また一つ小屋が棲み手を失って周囲に溶け込んでいく。

 そこに誰かがいた痕跡は、住民消失の噂にわずかな厚味を加えるに留まった。

 それさえも、巡検の城兵が蹴散らしていく――。


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