6.脱出/閉鎖
前回のあらすじ。失敗した木溶接をリカバーした。
昼食後、フィービの指示で倉庫に積み重ねられていた板とハンマー、釘を運び出した。外から窓を塞いで回る。もともと避難小屋だったため、大きな窓は寝室のものしかない。
板は厚さ1cm程もある。長辺も揃えられておらず、なるべく隙間なく並べる順番に一考を要した。釘は一本毎に鍛造した太いものだ。釘頭は大きいが、板の釘穴も何度も使われて広がってしまっている。改めて材料を確かめると、穴のたくさんあいた板が2枚あり、片面は鉄錆でひどく汚れている。これで窓を塞ぐ板を抑えるようだ。釘の長さは板2枚を貫通して余りある。
こんなものを使わずとも、板を溶接してしまえば簡単なのだが、それでは取り外す度に板も窓枠も痛めてしまうだろう。
どうやって窓を塞ぐ板を窓に仮留めしておくのか。
泰雅は一番下にと思っていた板の一枚を、窓枠の下端に押しあてた。窓枠と板の接触面のごくわずか、直径1cm程の、それも表面だけをイメージして木を分解、再線維化する。
手を離す。
しっかりとくっついている。次に、力をこめて引き剥がしてみた。乾いた音をたてて板が剥がれる。留めた箇所が若干ささくれている他ダメージはないようだ。
成功だ。溶接面はもう少し小さくてもよいかもしれない。
ぱたぱたと塞ぎ板を留めてしまい、泰雅はふと違和感を覚えた。森が静かだ。小屋の近くの鳥たちは沈黙している。狩られたばかりのように。
敵が間近に迫っているかのように。
泰雅は留め板を一枚執り、釘を口に含んだ。
血の味がした。内心眉をしかめながら、魔覚の範囲を広げる。フィービは小屋から森までも届かないといっていた。チートな泰雅の魔覚範囲は当代随一。の筈だ。
魔素の塊を見つけたのは、泰雅にとっては目と鼻の先、森の中を50mも入ったあたりだった。
少なくとも8人。街道へ続く道に3人、水場へ続く獣道にやはり3人かたまっているほかは、ひとりずつ。
包囲されている。
泰雅は釘を打ちつけた。いったい何をしているのだろう。魔素の塊は動かない。用があるのなら普通に来ればいいじゃないか、と思う。あんな風に道を塞いで、まるで。
監視しているみたいだ。
泰雅は片側の板を打ち終え、もう一枚の留め板を取り上げた。警戒する側とされる側が逆だと思う。こちらは2人あちらは8人だ。そうとは限らないか、と思い直し、泰雅は改めて更に遠く魔覚を広げる。200mも離れると野生の獣らしい反応が幾つも現れるが、小屋を取り囲んでいる濃密な魔素の塊はない。と思ったら、10km程に幾つもいた。横に移動している。これが街道らしい。
釘は打ち終えてしまった。フィービに相談してみよう。荒事に向いていないのは五十歩百歩だが、少なくとも自分よりこの世界に詳しい。




