4.雨のち晴れ/狩猟3
前回のあらすじ。小獣の狩りに失敗した。
※ 小獣の狩猟描写があります。
全周を魔覚で捜索すると鳥は幾羽かいたが、折角なので小獣を狙うことにして移動する。
薄い茂みを縫って数mも進まないうちに、また小獣を見つけた。距離25m。
ゆっくりと、静かに、近づく。20mを切り、そろそろと思っていた矢先に足裏で枝が折れた。
動きを止め、息を殺す。枝が湿っていたせいか、小獣には届かなかったようだ。念の為、視覚でも探すが、やはり見つからない。
しかし、目標との間に障害物もない。弓を構える。
先程は矢の落下を多目に見積もりすぎてしまった。今度は狙いのまま矢を放つ。
命中音なし。しかし魔素塊は暴れ、ほどなくして動かなくなった。
体長20cm程の兎だった。兎なのだろう。よく発達した後肢と長い耳朶を持っている。
矢は胸部を貫通していた。内臓配置も同じであれば、バイタルを貫通している筈だ。
四肢をだらりと投げ出した小さな死骸を見下ろしながら、泰雅に去来した感覚を言葉に置きかえるのは難しい。
後半身と耳朶が濃紺の柔毛で覆われ、耳朶の先端は鮮やかなオレンジ色の冠毛に縁取られていて、生きている時の様子は想像できない。瞳は黒い。どんな生体にも不可能な平明さで、天蓋を写している。
「悪クナイ」
黒猫は、生真面目な口調でそう評した。
泰雅はその一言で我に返り――そしてその時彼を捉えていた雰囲気は永遠に失われてしまった。兎から矢を抜くと後肢を縛り、首の血管を切った。滴りは土に吸われ、すぐ間遠になり、やがて止まった。
泰雅は次の獲物を探し始めた。
半日で小獣5羽、鳩類3羽というのは、新米射手にして破格の猟果であるらしく、フィービが目を丸くしていた。泰雅は午後の半ばを彼女に付き合って、獲物の解体を手伝った。兎の毛皮は鞣すことができないので、洗って木の板に張り付けて乾かすにとどめた。矢傷もついているので売物にはならない。
午後の残りを泰雅は魔術の訓練に充てた。
黒猫に教えてもらった、酷く苦い――苦いだけで別に害はない、小さな木の実を皿に盛る。ペナルティだ。
魔術の発動に失敗することはなかったが、印を結び忘れることはあり、その度泰雅はその実を口にした。
魔術の練習が終わる時までに、泰雅の口は痺れ切って感覚がなくなり、舌は青黒く染まっていた。夕飯は、折角泰雅の獲った兎を料理してくれたのだが、味も何もわからなかったのである。
次回から、竜と飛行魔術の話です。




