表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でチートだが万能ではない  作者: 杏栄
第一部 森の中で
30/96

4.雨のち晴れ/狩猟3

前回のあらすじ。小獣の狩りに失敗した。

※ 小獣の狩猟描写があります。


 全周を魔覚で捜索すると鳥は幾羽かいたが、折角なので小獣を狙うことにして移動する。

 薄い茂みを縫って数mも進まないうちに、また小獣を見つけた。距離25m。

 ゆっくりと、静かに、近づく。20mを切り、そろそろと思っていた矢先に足裏で枝が折れた。

 動きを止め、息を殺す。枝が湿っていたせいか、小獣には届かなかったようだ。念の為、視覚でも探すが、やはり見つからない。

 しかし、目標との間に障害物もない。弓を構える。

 先程は矢の落下を多目に見積もりすぎてしまった。今度は狙いのまま矢を放つ。

 命中音なし。しかし魔素塊は暴れ、ほどなくして動かなくなった。

 体長20cm程の兎だった。兎なのだろう。よく発達した後肢と長い耳朶を持っている。

 矢は胸部を貫通していた。内臓配置も同じであれば、バイタルを貫通している筈だ。

 四肢をだらりと投げ出した小さな死骸を見下ろしながら、泰雅に去来した感覚を言葉に置きかえるのは難しい。

 後半身と耳朶が濃紺の柔毛で覆われ、耳朶の先端は鮮やかなオレンジ色の冠毛に縁取られていて、生きている時の様子は想像できない。瞳は黒い。どんな生体にも不可能な平明さで、天蓋を写している。

「悪クナイ」

 黒猫は、生真面目な口調でそう評した。

 泰雅はその一言で我に返り――そしてその時彼を捉えていた雰囲気は永遠に失われてしまった。兎から矢を抜くと後肢を縛り、首の血管を切った。滴りは土に吸われ、すぐ間遠になり、やがて止まった。

 泰雅は次の獲物を探し始めた。


 半日で小獣5羽、鳩類3羽というのは、新米射手にして破格の猟果であるらしく、フィービが目を丸くしていた。泰雅は午後の半ばを彼女に付き合って、獲物の解体を手伝った。兎の毛皮は鞣すことができないので、洗って木の板に張り付けて乾かすにとどめた。矢傷もついているので売物にはならない。

 午後の残りを泰雅は魔術の訓練に充てた。

 黒猫に教えてもらった、酷く苦い――苦いだけで別に害はない、小さな木の実を皿に盛る。ペナルティだ。

 魔術の発動に失敗することはなかったが、印を結び忘れることはあり、その度泰雅はその実を口にした。

 魔術の練習が終わる時までに、泰雅の口は痺れ切って感覚がなくなり、舌は青黒く染まっていた。夕飯は、折角泰雅の獲った兎を料理してくれたのだが、味も何もわからなかったのである。


次回から、竜と飛行魔術の話です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ