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異世界でチートだが万能ではない  作者: 杏栄
第一部 森の中で
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4.雨のち晴れ/狩猟2

前回のあらすじ。初めて鳥を狩猟した。


 その黒猫は、翌朝早く泰雅を起こしに来た。泰雅は昨晩のうちに揃えておいた弓矢、長剣、ナイフ、スコップを持って、まだ薄暗い屋外へ滑り出た。長剣を左腰に提げ、ナイフは懐に、スコップは右腰に提げた。箙は腰の後ろに留め付ける。

「用ヲ足スナラ待ッテイルガ」

 反論しかけ、思い留まり、森で用を足して戻る。排泄物処理用ではなく、獲物の内臓処理のためにと思っていたのだ。

「ナルホド。ひとノ狩リダト便利ダナ」

「…穴を掘る魔術はないの」

「土ナラすこっぷノ方ガ簡単ダロウ。岩ニツイテハくらす7魔術で加熱、冷却ヲ繰リ返シテ砕クコトモデキルガ」

 黒猫は首を振った。

「直接岩ノ構造ニ干渉スルニハ強イ事象改変力ガ必要ニナル」

「事象改変力?」

「魔術ノ強サハ、事象改変ノ強度ダ。瞬間的ナ強サダナ」

「ふうん。それで?」

「…強イ魔術ノ遣イ手、スナワチ魔術士ノくらすダ。固相構造操作ハくらす4ハ必要ニナル。3万人ニ1人トイウ魔術士ヲ使ウヨリ、木ノ楔ヲ使ッタ方ガ簡単確実ダ」

 1人と1匹は森に入った。昨日の雨が溜まった埃を洗い流し、輝くような青の濃淡を見せている。足元に踏む落葉枯枝も柔らかく、殆ど音を立てない。あちこちで鳥が鳴き交わしている。

「魔覚ノトコロドコロニ塊ガアルダロウ」

 魔覚の反応は木の幹が最も薄く、葉や根はそれに次ぐ。これらに較べ、はっきりと濃い塊がある。頭上を落ち着きなく動くのは鳥達だ。視覚と同調させると、魔素の濃さと体格は必ずしも一致しないようだ。魔格、といったところか。

 同じような塊は地上にもあったが、こちらは視覚ではなかなか見つけられない。ゆっくり動いているものもいるというのに。泰雅の視線を辿って、黒猫はなぐさめた。

「獲物ニナルヨウナ草食動物ハ身ヲ隠スノガ上手イ。食ッテモ不味イ肉食獣モ、狩リノタメニ隠密シテ獲物ニ近ヅクカラ見ツケニクイ。チナミニ今、君ガ目デ追ッテイルハもぐらダ」

 泰雅はやや離れたところで静止警戒している塊に注目したが、どうしても見つからない。肉眼での捜索を諦めて弓を構えた。距離約20m。

 昨日の感覚を呼び覚ましながら狙いをつける。無風だが、葉や枝で逸れる可能性は除けない。

 意を決して矢を放つ。

 ガッ。

 枝に弾かれた感じはなかったが、矢は僅かに逸れ、小獣の背をかすめて背後の木の幹に突き立った。小獣は跳びはねて走り去った。魔覚も折り重なった木々の葉に紛れてしまう。あの程度の魔素濃度だと、森の中で20mというのは知覚ぎりぎりのようだ。

「惜シカッタナ。次ニ行コウ」

 矢を回収しようと近寄ってみると、鏃は完全に埋まっている。矢柄を持って引き抜こうとすると鏃が外れそうだったので、ナイフで掘り起こす。矢柄の歪みや矢羽の乱れはなさそうだ。


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