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異世界でチートだが万能ではない  作者: 杏栄
第一部 森の中で
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3.魔術/銀渦

前回のあらすじ。長弓を練習した。


 適度な運動+早寝=早起き。

 高校生にもなりながら、毎朝父に起こされるという不面目を恣にしてきた泰雅であるが、この朝は日の出前に目が覚めた。身づくろいをして外に出――ようとしたが、扉が開けられない。内側からの戸締りの開け方がわからない。これでは火事に遭ったら丸焼けになりかねない。すごすごと部屋に戻り、床でストレッチをする。すこぶる快適、とても柔軟。ハードウェアはオリジナルより上等だ。パフォーマンスはソフト次第。調子に乗って、腕立て、腹筋、背筋、スクワットを2セットこなしたところで、フィービが廊下を歩く音をききつけた。

「フィービ」

「ヒッ」

 驚かさないよう、そっと声をかけたのに、少女はすくみあがった。空中で半ひねり、こちらを向いて着地する。泰雅は感心した。

「体を洗いたいんだ。水を汲み行くんだったら、連れていってくれないか」

「はい」

 踵を返す足音を追う。扉のところで、何かカチャカチャと動かす音がしたか、と思うと扉が開かれる。温気が融け、夜明け前の涼気と入れかわる。フィービについて外に出て、戸締りするのを待つ。

 梢の先はやや白みかけて、星々はその中に消えかけている。その上に、まだ充分明瞭に残る夜空に、泰雅は嘆息した。

 紛うことなき異世界の証。少なくとも地球ではありえない。過去も未来も、この夜空を地上から見ることは不可能だ。

 全天の過半を占める渦状銀河。

 扁平具合からすると、この恒星系は、銀河平面中心から約30度程離れているようだ。距離は銀河半径の2/3程か。

「凄いねえ」

「はい」

「ほら…この銀河」

「銀の何…このあたりでは星の渦と申します。明け方に南中しておりますから、春も終わりです」

「ああ」なる程、河には見えない。

 泰雅にとっては知識上の存在である銀河を実際に見た感動も、この異世界の住人にとっては日常の光景にすぎない。泰雅は若干残念に思いつけ加えた。

「もしあれを真横から見たら――星の河みたいに見えると思わない?」

 フィービは少考し、頷いた。

「そうでございましょうとも」


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