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異世界でチートだが万能ではない  作者: 杏栄
第一部 森の中で
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2.武術/戦鎚

前回のあらすじ。長剣の基本技能を身につけた。


「ヨシ。デハ戦鎚ダ」

 黒猫はポールアームを示した。泰雅は長剣を置き、代わりに戦鎚と称ばれた長柄を手に取った。

「トリアエズ、振ッテミルカ」

 剣の扱いを心得ている分、いくらかマシではあるのだろうが、それでも思い戦鎚に振り回された。ちょいちょい。黒猫が再び泰雅を手招きする。

「…生臭い」

「肉、ヤランゾ」

 今度は戦鎚の技能を焼き付ける。

「ふむん」

 気合をいれて戦鎚を振る。穂先と石突きによる刺突と、双頭の鎚による打撃、また鎚の根元で相手を引っかけることもできる。

 重量と速度――運動エネルギーを一点に集中することで、硬い鎧の防御力を破壊することに特化した武器だ。重心は著しく先端に寄っている。それを利用した攻撃が最大ダメージになるのは間違いないが、同時にそれは外した時に致命的な隙をさらすことになる。従って重心近くを握って穂先と石突きで相手を翻弄し、とどめの一撃を狙うのがセオリーとなる。それにしてもこの体の筋力はすさまじく、相当重量のあるこの戦鎚をかれこれ小半刻もふり回してゆるぎない。まさか明日は筋肉痛というオチじゃないだろうな…

「アスハ身動キモデキナイツモリカ…」

…フラグだったようだ。

「ソレクライニシテオケ、昼食ニシヨウ」

 フィービの用意したサンドイッチ――あるいはそれに酷似した何かを食べながら、泰雅は地図を眺めているうちに文字が読めるようになっていたことを、黒猫に報告した。サンドイッチの具は、黒猫の言った通り謎肉で、フィービはそれをちょっと類のない香辛料で焼き上げていた。

「…オウ。読メナカッタノカ?コチラノ言語体系ハ焼イテオイタノダガ」

「昨日は全然読めなかった。今朝は急に…」

 泰雅は言葉を切った。フィービに用便の後始末の方法を無理矢理聞き出したのがきっかけだった。

「…ヨクワカランガ、読メルヨウニナッタノナラ、ヨイデハナイカ」

 黒猫は些事に拘らない。

「午後ハ、コチラノ弓デモ射テミルカ」


戦鎚のイメージは、東京文化会館と国立西洋美術館の間にある歩道の街灯です。

長柄武器として戦鎚が一般的な理由は、エストックが好まれるのと同じ理由です。


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