表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/25

9.異世界に来たら卒業できるという童貞の夢


 ふらふらとした足取りから急にしゃきっとした勇者が歩き出して向かうのは……。



 やっぱりここか。

 娼館街。

 王都一のピンクスポット。


 18禁エロゲ「異世界ワールド・ハレムっちゃおう!」の無駄に凝った仕様の一つに、イベントを起こす自由度がある。

 パーティーメンバーを入れる順序はほぼ自由なのだ。どのイベントを優先してもかまわない。必ず入れないといけないヒロインはいないし、スルーしてもゲームそのものは進行するのだ。

 強者の中には、お気に入りのキャラだけを攻略し、たった二人で魔王城に突入するプレイヤーもいる。

 自分だけのお気に入りハーレムを作れる。それがこのゲームの人気のヒミツだ。

 それゆえ、ストーリーの進め具合によってはエロゲなのに終盤近くまでエロがまったくないという展開もあり得る。


 その救済といいますか、そのためにお金さえ払えば童貞を卒業できるというお手軽なイベントがこの娼館街ですな。

 あと腐れなくエキサイトシーンに突入できるという人気イベントの一つです。

 もう俺も縛りプレイの時はどんだけお世話になったか……げふんげふん。


 これらの娼婦は本来その場かぎりのゲストキャラ的扱いだが、実は通いつめればパーティーメンバーにできる娼婦がいる。

 このゲーム最大の地雷、まったく戦力にならないエキサイト専用キャラ、ミス・ビビアンとイナリーちゃんだ。


 ミス・ビビアン? どうでもいいわ。

 俺のお気に入りのキャラはイナリーちゃんのほう。

 そう、この娘だけは絶対に、絶対に、勇者に取られるわけにはいかないのだ!

 取られないようにするにはどうするか?

 そりゃあもう自分で突撃するに決まってるでしょ。当然でしょ。


 勇者、ピンク街の情報喫茶に入ってる今がチャンスだ。

 俺はさっさと娼館、「獣のラビリンス」の入り口をくぐる。

 「いらっしゃいませ。ご予約はございますか?」

 「予約は無いんだけど、イナリーちゃん、いる?」

 「はい――。ご指名ですね。時間はどうしましょうか?」

 「一日」

 「は?」

 「今日一日、ずっと」

 「はあ……。あの、店外デートでよろしいですか?」

 「それで」

 「はい……。あ、ちょっとイナリーに聞いてきます」


 イナリーちゃんキタ――――――――!!


 「いらっしゃいませ、ご指名ありがとうございます」


 三つ指ついているキツネ耳の美少女さん。真っ白なロングの髪と耳と尻尾の白ギツネ獣人のイナリーちゃんです――っ!


 顔を上げてニコッと笑う。

 本物のイナリーちゃんだ――――! 感動……。


「では二十時間店外デートで、金貨十枚いただきます」


 安いよね……。

 高級娼婦には一晩五十枚や百枚なんて普通なのに。 


「あの、お客様?」

「マオウと呼んでください」

「はい、マオウ様。あの……マオウ様は私、初めてですよね」

「うんっ」

「どうして私を……?」

「前世で、僕は君を愛していたんだ……。君は覚えていないだろうけど」

 ぽっ。

 イナリーちゃんのほほが赤くなる。

「さ、今日は僕の恋人になってもらうよ。いっぱい甘えていいからね」

「はいっ、あ、ありがとうございますっ」


 さすがエロゲーキャラ。チョロインです。


 二人で腕を組んで店を出て、勇者とすれ違いました。

 危なかった……。ギリギリですな。



 その後、二人でカフェで食事して、劇場でお芝居を見て、一流ホテルに入り、レストランで食事して、本当に恋人みたいにデートしてからベッドイン。


 ちなみにここまでのセリフ選択肢はやりつくしたエロゲから学びました。

 現実の女性にあんなセリフ言ったことなんてもちろんございません。

 俺みたいなオタ社畜が同僚OLにあんなこと言ったらセクハラで社会的に抹殺されますから。あんなのは「ただしイケメンに限る」ですから。それぐらいわかってますから。


 イナリーちゃん、君にはもう何度も数えきれないぐらいお世話になりました。

 エロゲの中でね!

 もうスチル全制覇するぐらいの勢いでね!

 弱点も、攻略方法も、全部知ってるからね!


 娼婦だからって変態プレイやハードプレイは隠しパラの好感度が激減します。銀貨五枚一時間のサービスではダメ。こうやって一晩貸し切りにしないとフラグが立たないルートなんですわっ!


 人生で初めて童貞卒業できました。ありがとうございますっ!


 二人で朝チュンして、ルームサービスで朝食を取り、イナリーちゃんの辛い身の上を聞いてあげて、娼婦なんてホントはイヤだっていう涙をキスで拭ってあげて、身請けする約束までとりつけてしまいましたよ。

 さすが俺。イナリーちゃんフラグを一晩で全クリアしてしまいました。



 勇者はちゃんと童貞卒業できたかな?

 一時間銀貨五枚のサービスじゃあ、ご愁傷さまな結果になったかもしれないな。


 俺は店に入って、イナリーちゃんを身請けする話を早々に申し込んで、事前に金や宝石をお金に換えて(マッディーすまん)持っていた千枚を払い、奴隷譲渡証にサインして(イナリーちゃんは館の奴隷だったのだ)譲り受けた。


「さ、これで君は自由だ」俺のサインが入った奴隷証書をイナリーちゃんに渡す。

「破いて」

「でも……」

「いいから、さ、破いてしまいなさい」

「はっ、はいっ。えい!!」

 びりりりり――――!

 これでイナリーちゃんは解放奴隷。自由の身だ。


 はいっイナリーちゃんイベント、クリアです。

 ここでイナリーちゃんの好感度が低いと、なぜかイナリーちゃんは奴隷証書を破りません。

 奴隷で無くなったら俺に捨てられる、そんなふうに考えちゃうんだよね。

 奴隷でない自分に価値なんてない……。そう考えるのがイナリーちゃんだ。

 ここで奴隷証書を破ってしまうのは、イナリーちゃんが身も心も奴隷から解放された俺的おすすめな名シーンだ。俺を心から信頼してくれなきゃこうはならない。

 ここまで駆け足でフツーにクリアしちゃったけど、けっこう難易度高いイベントだよ。


「さっ買い物買い物。必要なものじゃんじゃん買うよ!」

 魔王城で待っている四天王たちの分も大量に買い物して、イナリーちゃんにびっくりされたねえ。

「イナリーちゃんは俺の屋敷で、メイドとして働いてもらいたい。お願いしていい?」

「はい! ぜひ!」


 イナリーちゃん、奴隷から解放されて本当に嬉しそう。奴隷に落ちる前にはメイドをやっていたそうだからね。ゲームでも主人公を上から下まで全部面倒見てくれる専属メイドさんになってくれます。

 戦闘能力はありません。ゲームではまったく活躍しません。

 あくまでモブキャラの一人ですから、戦闘中はいないことになってます。


「じゃ、飛ぶよ」

「え?」

「転移魔法」

「ええええ――――!」


 あっという間に魔王城。


「うわああ――――!」

 イナリーちゃんパニック……。

「大きなお屋敷――!」

 ……でもないか。


 怪しいと思わない? こんなどんより雲の下の黒い、怪しいツタの絡まるお化け屋敷みたいな魔王城が……。

「掃除のし甲斐がありそうです」


 前向きだな――。

 そういうところが、愛らしいんだけどね。


 さあてみんなにどう紹介したらいいものやら。

 ま、正直に言うのが一番いいよね。


「みんな、帰ったぞ」

「おかえりなさいませ……」

「おかえ……」

「お……」


 当然だけどイナリーちゃん見てびっくりだよね。

「今日からここでメイドとして働いてもらうイナリーちゃんだ。みんないろいろ教えて、よくしてやってくれ。頼むよ」

「よろしくおねがいします!」

 ぴょこんと頭を下げるイナリーちゃんにみんな目を白黒ですな。


 最初は反応に困っていたみんなですが、夕食の頃にはイナリーちゃんの料理が並び喜んで食っておりますな。真っ白いテーブルクロス、ナプキン、皿とかフォーク、ナイフといった食器類に盛られたおいしそうな料理。

 これは嬉しいに決まってるでしょう。

 かいがいしくテーブルを回って世話をするイナリーちゃんにみんな大満足です。

 そして、今夜のメインイベント!


「うわ――! ふかふかだ――!!」


 そう、今日からわらを敷いてシーツを広げただけのみんなのベッドが、ふかふかの羽根布団になりました!

 持ってくるのが大変だったよ。俺の異次元空間収納能力のおかげだけどね。


「どう? イナリーちゃん。みんなとうまくやっていけそう?」

「はいっ。みなさん子供みたいに喜んでくれて……でも」

「ん?」

「みなさん、とっても変わっていらっしゃいますよね。なんていうかこう……」

「んん?」

「魔族みたいで」


 正解。

 でも黙ってようっと。




次回「10.異世界における日本人の人口密度について」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ