8.女騎士ってホントにいるんですかねえ
「勇者の様子どう?」
日課になった朝の報告を側近の美少女メイド妖精さん、ベルから聞いてみる。
「ウサギには全部逃げられるし、一日に一匹スライム倒せればいいようで、昨日は奥まで行き過ぎて狼の群れに襲われて逃げ出していましたねえ」
あっはっは。朝食の席でみんなと笑う。
いい調子だな。でもこのままじゃさすがに勇者もダメだと思うはずだ。次のイベントが起こるのもそろそろかな。
「わかった。食料とか、日用品とかも買い込まなきゃならないし、今日は王都行ってみるわ。誰か一緒に来る?」
「私が行きます」
「ベルか。まあ勇者の監視もしてほしいし、頼むか」
「わたしたちも行きたいんですけど……」
「この格好じゃあ……」
うん、君たち見た目魔族そのまんまだもんね……。ごめんね。
「人間の服着たらそれなりに見られるかもしれないな。なんか考えてみる」
「お願いします!」
四天王が喜ぶ。こりゃホントになにか考えないといけないぞ?
「あの……これ……」
マッディーが袋をくれる。
「なに?」
中身を見てびっくりした。砂金、宝石らしいカラフルな原石がいっぱい入ってる!
「それでお菓子……」
「どうしたのこれ!?」
「作った」
すげえ、さすが土の四天王。こんなこともできるんだ。
「魔王様、魔力いっぱいくれるから……」
ぎろっ。
他のメンバーたちの目つきが一斉に怖くなる。
「ちが、ちがう。してない、してないから」
「私たち何も言ってませんが」
一昨日から、夜マッディーが、俺の寝室に来て、一緒に寝てっていうんだよな。
だから添い寝してる。ロリだから。手ださないからね。
ゲームでもこの子とはアレなイベントないからね。さすがに未成年との表現には自主規制があるからね。
そのかわりこの子だけはそれを補って余りあるラッキースケベイベントがあるんだけどさ。朝になるとなぜか全裸になっててかっちんかっちんの俺の俺を寝ぼけて掴んでたとか程度だけどさ。
「ほんっとーになにもない。添い寝だけ」
「どうだか……。って、魔王様魔力分けたりできるんですか?」
「……一緒に寝ると、なんか体に入ってくる」
マッディー、言い方ってものがあると思うんだ。
「うん、最近調子いいみたいで自然に回復してるし、日に日に魔力の最大量も増えていってるね。この世界に慣れてきたかな」
「それならそれでいいですけど、ちゃんと平等に接してくださいね」
水の四天王サーパスさんがふくれっ面です。
「わ、わかった。わかったからあんまりいじめないで」
……平等に接するって、平等に接するって。
つまりそれって、次はサーパスさんなんですかね。
期待しちゃっていいんですかね。
「……王宮に向かってますね」
今日もこっそり勇者を尾行する。
「狩りもまともにできなくて、パーティーメンバーでも頼むつもりかな?」
エロゲやってるはずなのにエロいイベント全くなし!
エロいヒロインとの出会いも無し!
レベル上げもままならず、「さすが勇者」なイベントもゼロ!
やってられっかーってとこですな。
本当だったらもうある程度レベルも上がって、故郷の幼なじみのところに行って、童貞卒業しているころですからな。
勇者、未成年だし、もしかしたらこれが「エロゲーの世界」と気づいてないかもしれないけど、あの女神に送り込まれた男だからなー。
未成年でもエロゲー手出してた可能性も……。
とにかくここは変態異世界人隔離病棟なはずだからな。なにかおかしい性癖あるはずだ。少なくともスマホゲー程度で満足してたはずがない。
この世界の渡り方ぐらいの知識はあるはずだ。
うーん……チャンスがあったらお話してみたい……かも。
レベル上げ手伝いを王宮の誰かに頼みたいところでしょうが、門前払いを食らっておりますな。聖剣を無くすような勇者じゃ、王宮も愛想が尽きるという物でしょうな。
おっ、勇者、呼び止められております。
あ……あれは、女騎士カトリーヌ!!
金髪にナイスバディ、すげえ美人、白銀色に輝く鎧! 間違いない、ハーレム攻略キャラ、女騎士カトリーヌだ!
幼いころから勇者にあこがれ、そのために剣の腕を鍛えて女ながらに騎士にまでなったカトリーヌは、いつか勇者として聖剣を与えられることを夢見ていたが、田舎町に現れた勇者にその栄光をかっさらわれて腹を立てているんだ。
「あの女、この後、勇者に剣での勝負を挑むぞ。勇者に負けたら己の未熟さを恥じ、勇者の仲間になる。女騎士カトリーヌイベントだ」
「えっじゃ妨害しないといけないんじゃないですか!」
「そりゃあ勇者が勝てば、の話」
ちなみに物凄く強いよ。攻略難易度トップクラス。
パーティーで闘うのは不可。勇者がタイマンのガチ勝負で勝たねばならない。
さあどうする?
「私に勝てたら仲間になってやろう。どうだ! 受けるか!」
「受けてやる!」
おうっ、無謀だぞ勇者。
「面白くなってきましたね。見物します?」
ベル、わくわくですなー。
「当然」
「じゃ、認識阻害かけます」
城壁を飛び越えて、中庭を眺める。
向かい合っておりますな。兵士の一人が手を上げて、「始め!」と声をかけます。
ガキッ!
「……一撃かよ」
「話になりませんね……」
だらしなく伸びた勇者が兵士にひきずられて城外にほうりだされております。
あ、ちなみにこのイベント、何度でも挑戦できます。
物語も終盤も終盤、最後に近くなってやっとクリアできるんですよね。
これだけ苦労させて、早くに加入させても勇者が別の女入れようとするごとに激怒したり邪魔してきたり最悪で、そのくせ、明日には魔王城突入って最後の夜まで、なんにもなしなんです。
最後の夜にようやく勇者のことを認めてくれて、いい雰囲気になるんですけど、エロい展開になりそうになると邪魔が入るという……。
なんか隠し条件あったのかな。ファンの間でも割れてましたね。
「カトリーヌには無い」「いや絶対あるはず」ってね。
いや、強いんだけどね。
めちゃめちゃ強いし味方にいるとすげえその後の展開楽なんですけどね。
この人を倒せる頃には勇者もパーティーも、もうすっかり強くなっているわけで……。
いい女なんだけど、ファンの間では地雷キャラですわ。
なもんで、だいたいのプレイヤーは魔王城攻略直前ぐらいにこのイベントやりにきますな。
覚えておこうな。勇者。
カトリーヌは国内ただ一人の女騎士です。
このゲームのシステムは男をパーティーメンバーにできませんので(エロゲだから)王宮の力は借りられないことがこれで決定ですな。
なんというクソゲーでしょう。あっはっは。
勇者、肩を落としてとぼとぼと歩き、革袋を取り出して残りの金を確認しております。王宮からもらった残金も、少なくなってきたかなあ。
「次はどこに行くんでしょう……?」
いやまて、この足取りは……。
「帰るぞ。ベル」
「えっもうっ?」
「予定変更」
有無を言わさずベルの手をつまみ、魔王城前に飛び、ベルの手を放す。
「明日の昼には帰る。みんなにもそう言っておいてくれ」
「なんで――――!!」
そうして俺は、再び王都の街に飛ぶのであった。
次回「9.異世界に来たら卒業できるという童貞の夢」