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7.魔王は魔王である前にまず魔族の王だと心得よ


 今日のお昼はシチューだよ。

 肉も野菜も小麦粉も牛乳もバターもチーズも買ってきたからね。みんなで仲良く料理中。

 うーん華やかだわ。全員魔族だけど。


「おいしー!」

 今回も大好評。

 魔族にはチーズも牛乳もバターも無いからなあ。全部輸入品。いや、密輸か。さ、みんなパンも食べな。

 適当な食器が無いので、カップに俺が木を削って作った粗末なスプーンだけどね。

 ごめんね、次王都行ったら食器、買ってくるからね。


「勇者の様子はどうだ?」

 妖精メイドのベルはずーっと料理はしないで、勇者の監視専門にやってもらってる。王都中に使い魔がいるから監視カメラ網で勇者取り囲んでるようなもんだね。


「なんかモメにモメてたみたいですけど、あきらめて王宮に文句言いにいったら、聖剣盗まれたことを逆にめちゃめちゃ怒られていましたね。国宝物の剣ですからねえ――」

「はっはっはっは!!」

「お情けで追加で三百ゴールドもらって、それで皮のよろいと、ショートソード買ってました。もうかんっぜんに一般人からやり直しですわ」


「はっはっは!」

「あははは!」

「うふふ」

「くすっ」

 四天王も楽しそう。


「ファリア、聖剣どうなった?」

「ベスパオ山の火口に投げ込んできたよ。火噴き上げてグツグツに溶けちゃったね」

「ありがと。よくやった」

 勇者はこれで一番のチート武器を永遠に失ったことになる。あんなもん無いに越したことないわ。


「……火山って遠くにあるんじゃないの?」

「スワンに頼んで翼竜借りたから」

 ……なんかすげえな。乗っていくのかな。



「さて今後の方針だが」


「勇者ってこの後どうするかですよねー」

 そうだねベル。


「次は修行(レベル上げ)か……。王都近郊で弱い魔物退治となるとアシラ平原で出歯ウサギ、イシュラル沼でスライム退治ぐらいかな」

「よく知ってるね魔王様」

 ファリアがびっくりだ。


「よし、全員に通達して今のうちに避難しておいてもらおうか。できる?」

「出歯ウサギは言うこと聞くけど、スライムはねー、話してみるだけ無駄かも」

「王宮から遠くてスライムが住めそうな場所はある?」

「ウラーサル湖だったら何匹いても大丈夫じゃないかな」

「よし、そこに転移させちゃおうか」

「賛成!」

「じゃ、食事が終わったら、ファリア同行して」

「うん、いいよー。って魔王様……」

「ん?」

「なんか喋り方変わったね。魔王っぽくない」


 全員が俺を見る。

「あっはっは。地が出ちゃったな。悪い、本来俺ってこんな感じなんだ。魔王っぽい喋り方なんて疲れるだけさ……。今後もこんな感じでいいかい?」

 四天王全員にっこり。


「側近としてはですねー。それはちょっとと思いますねー。魔王様はやっぱりですね魔王っぽく、してほしいですねー」

 ベルは不満げだな。


「わかった。ではベルだけには、魔王として対応させてもらおう。良いか?」

「そんなのゴメンです。やっぱり普通でいいです」

 あっはっは!




 昼食が終わって、ファリアとおでかけ。

 ぼさぼさな赤い髪、褐色の肌。ばいんばいんにバッキバキの体をわずかに覆うビキニアーマー。

 立派な剣を携えてすげえ強そうな戦士さんです。

 これで炎の魔法の使い手なんだから頼りになるわ。

 ……俺より背高いんだよね。正面から向き合うと巨大なおっぱいが目の前です。

 いかにもエロゲなキャラデザイン……。


 周り一面草原のアシラ高原に降り立って、ファリアがブオ――――、ブォ――――ってホルンを吹く。

 ざわざわざわざわ……さささささっ……。

 白いウサギや茶色いウサギたちが駆け寄ってきましたよ。

 すげえ数。二百羽ぐらいいるかな。


 「ようっみんなひさしぶり!」

 きゅうっ、きゅうってみんな前足上げて挨拶する。かっわいいい――!


 「魔王様だ」

 みんなに紹介されると、ウサギたちが頭を伏せて礼を取る。

 もう俺萌え萌えな気分なんですけど、そこは我慢して「面を上げよ」と声をかける。今日はあの全身鎧着て魔王っぽくしてますよ。


「今日、ここに勇者が来る。修行でお前たちを狩るためだ」

 ウサギたち、顔を見合わせてぶるぶる震える。

 かわいそうに……。こんな子たちをレベル上げのためだけに殺しまくる勇者ってどんだけ非道なの。


「なので、数日で良いから、この草原から避難してくれないか」

 ぼそぼそ鼻を突き合わせて相談していたウサギたちがぴいぴい鳴きだす。


「魔王様、避難っつっても、森の奥にはオオカミもいるし、郊外にはタカも飛んでるし、避難する場所がないってさ」

 それもそうか……。


「ウサギ族はさ、武器が無いんだよ。爪も牙も無くて、敵を察知する耳と、逃げ足と繁殖力だけが頼り。食べられた分だけ増えるのがこいつらの処世術さ」


 ……素早さやジャンプ力を生かして闘うウサギキャラとかよくいるけどさ、それがウサギの現実だよね。君たちが戦えるわけないわ。うん、ファリアの言うとおり。避難作戦、ちょっと無理があったかな?


「では、お前たちに敏捷を上げる魔法をかけるから、それで全力で逃げよ。絶対に勇者には追いつけないようにしてやろう。しばらくはそれでしのげ」

 二百羽全員に敏捷激上げの魔法をかける。

「さあっ走れ!」


 うわっ、見えねえ――!

 はえーはえ――! あっはっは!


「あはははは! こりゃあすげえや!」

 ファリアも大喜びだ。

 これ捕まえろって、無理だろ――!

 俺でも無理だわ!


「じゃ、次行くか」

 散らばったウサギたちがみんな立ち上がって、左右に耳振ってる。

 お礼かな?

 かわいいわ――。



 はいやってきましたイシュラル沼。

 スライムがごろごろごろごろ、うねうねうねうね。

 水風船?みたいなやつを想像してたけど、ゼリーだね。

 斬りつけるとぱっくり割れるんだけどそれでは死なないらしい。

 中央の核を切らないとダメなんだってさ。

 ほぼ無抵抗で狩りまくれるので低レベルには人気がある種族です。


「今日中に勇者がここに来て……聞け――――!!」


 ダメか。ファリアが怒鳴っても誰も話なんか聞いてねえや。

「やっぱ話すだけ無駄だよ魔王様ー」

「しょうがないか……これはとっておきたかったんだけどな」


 そう言って大量のクッキーをばらまく。

「ああー……もったいない――!」

 ファリアの悲鳴が上がるよ。

 スライム、すげえ集まってきて、もうスライムの小山ができたわ。


「このくらいでいいかな……。じゃ、転移、ファリアも俺の手を取って」

「はいよ」

 スライムの山に手をあてて、ファリアの手を握って、ウラーサル湖に転移。


「すげえな魔王様。大した魔法だよ!」

 森に囲まれた大きな湖のほとり、大量のスライムたちが水辺をごろごろ転がって散って行く。

「ここはアタシのお気に入りの場所なんだ。綺麗だろ――」

 ファリアも嬉しそうだ。ひさびさに来たのかな。


「これでスライムたちも一安心だな。何匹か残っちゃったかもしれないけど、まあそれぐらいは仕方ないし……。って魔王様、どうした?」


 俺はぐったりしてそこに倒れてたよ。

 MP無くなっちゃった。

 さすがに二百羽のウサギに敏捷魔法、二百匹以上のスライムに転移魔法はきつかった……。


「しょうがないなー……」

 ファリアさんにお姫様ダッコされて、柔らかな草むらに寝かされます。


「アタシじゃ不満かもしれないけど、ま、これだけやってくれたお礼ってことで、少し休みな」

 添い寝してくれて、腕枕してくれる。

 立場が逆のような気がするんですけど……。

 普通そこは膝枕だと思うんですけど……。

 なにこの俺がお姫様なポジション。


「魔王様ってさ、スライムやウサギたちにも、『何が何でも勇者を倒せ!』って命令するかと思ってたけど……逃がしてくれてありがとね……」



 ……日が傾くまで昼寝したら、MPだいぶ戻りました。

 ファリア爆睡しちゃってるよ。

 今度は逆にファリアをお姫様ダッコして、魔王城に戻りました。


 もうみんなのジト目が厳しかった。

 ファリアの寝室に運んでやると、さすがに目を覚まして、「疲れたからもう寝るわ――」というファリアの部屋から退席すると全員が俺をにらんでおります。


 「ファリアさんだけずるいです」

 「わたしたちにも同じにして下さい」

 「……要求する」



 はい、その後、全員を順番にお姫様ダッコしてベッドに運ぶ羽目になりました。

 って、そこ?

 そこなんですかね怒るところは。



次回「8.女騎士ってホントにいるんですかねえ」

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