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6.小説家たるもの最終回をどうするかぐらいは決めてあるはず


 朝早く宿屋を引き払って宿屋街の中央広場に行く。

 ベンチに腰かけて、朝の屋台でサンドイッチ買って、ベルはあいかわらず俺の膝の上でぽりぽりとサンドイッチの欠片(かけら)食べて満足そうだ。

 膝の上がお気に入りの場所ですか。なごみますね。


 勇者の宿屋でひと騒動起きてるぞ。

 怒鳴り声が……。

 朝からなんだよ。


 泥棒が入ったとかさ。

 金がないとかさ。

 聖剣が奪われたとかさ。

 ここにまで声聞こえるっちゅーの。

 あっはっはっは。


「警察を呼べ!!」だってさー。

 この世界警察いないだろ。いても衛兵か巡回兵か。窃盗の捜査をするような組織がまともにあるかどうか。こんな世界盗まれた奴がマヌケだろ。平和な日本に慣れすぎですわ。

「勇者ウザいですね……」

「ああ、自分は特別だと思ってるからな」


 これで勇者はスタートダッシュは無しだ。

 頼りの聖剣も金も無いんじゃな。

 まずは地道にこの街でアルバイトして旅資金でも稼いでもらおうか。

 早々にこの世界をクソゲー認定して魔王討伐をあきらめてもらいたいわ。


「さ、みんなにお土産買って帰ろう」

「わーい!!」

 ベル嬉しそうだな。

 勇者から盗んだ金はたんまりあるし、街でお菓子だの野菜だの調味料だの肉だの果物だのお茶だの、魔法屋でポーションだの、もう思いつくだけいっぱい買って俺のアイテム置き場に放り込んで、テレポで帰ったよ。




「おかえりなさいませ魔王様!」

「無事だったかー。よかったな!」

「……おかえりなさいませ」

「おかえり、魔王様」

「ただいま。サーパス、ファリア、マッディー、スワン」

 水、火、土、風の四天王が嬉しそうだ。



 はあーどきどきする。みんな……かなりの美人さん。

 なによりきわどすぎる衣装が目の毒だよ。なんという痴女軍団。

 ここまではなんとかうまくやれてるけど、これからずーっと残りの四天王たちにも魔王っぽく優しく気に入られるように接していかないと、いつ寝返られるかわからんからな。

 でもさー、その半裸同然の衣装で戦闘とかすんの?

 エロゲだからか……。なんだかなー。


「さて、まず最初の作戦会議だ。食堂に集まってくれ」

「食堂?」

「お茶でもしながら報告を聞いてもらおう」

 みんな顔を見合わせて戸惑ってる。


「あの……魔王様」

「ん? どうしたサーパス」

「ここにはお茶なんてありませんが」

「買ってきたんだ。ポットとお湯の準備を。カップと皿も並べてくれ」

 ぱあっとみんなの顔が明るくなる。

 お茶も無かったのか魔王城。

 貧窮しすぎ。


 水の四天王サーパスが空中に水球を作ってポットに入れ、火のファリアが炎を作って沸騰させる。その間、スワンとマッディーが皿とカップを六人分並べてゆく。


 じゃーん!

 取り出したるはホールケーキ!

 六等分にナイフを入れ、一人、一人の皿に置いてゆく。

 三角形のあのケーキサーバーもないんだよな。手ごろなナイフで申し訳ない。

 ってあれ? フォークもスプーンもなんにもないのか!

 なんという粗末な食卓……。


 それでもみんなの目が皿の上のケーキに釘付けだ。

 やっぱり女の子だよな。


 紅茶をポットに入れ、蒸らし、全員のカップに注いでゆく。

「ま、魔王様!そんなことはわたしが……」

 サーパスが慌てるが、「いいんだ」と言って制する。

「皆で協力して俺を復活させてくれたんだろ? 礼をさせてくれ」


 ほんと、ありがたいというか、どれだけの苦労があったのか、俺にはわからないけど、この魔王城のさびれっぷりを見ればそれがどんなに大変だったかは想像つくよ。



「では、今日の安息に感謝を、いただきます」

「いただきまーす!」


 みんな手づかみでもりもり食べる。

 次に街に行ったらフォークとか食器類も買ってこないといけないな。

「おいしー!」

「……甘いです!」

「うめえ――――!」

 大好評ですな!


「お茶はどうか」

「うふふ……この葉がほんのり甘くて、そしてちょっと苦いです」

 サーパスがほほ笑む。さすが水の四天王。お茶にはうるさいか。

「すまん。淹れ方が素人だったな」

「いえ。この苦さがお菓子によく合いますわ。今日はこれで合格かと」

 言うじゃないかサーパス。

「じゃ、次はいろいろ教えてくれ」

「はい」


 そのほかにもクッキーやビスケットを山のように大皿に盛って中央に出してから、話に入る。みんなぺろぺろ指を舐めております。これはこれでエロくていい眺めです。


「さて今日までの首尾だが、これを見てくれ」


 タオルでぐるぐる巻きにした聖剣を出し、巻き付けたタオルをほどく。

「それは……聖剣じゃねーか!」

 火のファリアもびっくりだな。

 ケーキ噴出してるぞ。びっくりしすぎ。


「直接触れるなよ? 俺ら魔族だからケガで済まなくなるからな」

「うえーこええー……」

「それ、もしかして勇者から……」

「うん、盗んできた」

 スワンびっくり。


「これで勇者の野郎は、当分活動できなくなるってわけさ。レベルも低いし、俺を倒せるぐらい強くなるには修行が10倍では済まなくなるだろうな」

「なるほど、いい手だ!」

「こんなもん魔王城に置いとくのもやっかいだし、ファリア、これ火山にでも放り投げて処分しといてくれ」

「了解っす!」


 売ったら金になるんだろうけどすぐ足がつくし、買い戻されたりしても面倒だしな。火山の火口に投げ込んでドロドロに溶かしちゃうのが最善だろうな。

 もう一度タオルでぐるぐる巻きにして、厳重に紐で縛って、ファリアの後ろの壁に立てかけておく。


「さて今後の方針だが……。それぞれの意見を聞こう。なにかないか?」


「魔王っつったらアレっだね、やっぱ人間に攻め込んで支配し、征服かね」

 王道だなファリア。


「人間……絶滅……」

 意外と怖いこと言うなマッディーちゃん。


「わたしは人間の魔王領への侵攻を食い止めればそれでいいかと。多くは望みませんわ」

 穏健派ですねサーパスさん。


「私も友好を深めたいとか思わないね。あんないやらしい種族願い下げ」

 辛辣ですねスワンさん。でも俺もけっこういやらしいですよ?


「食べきれない――!」

 ケーキに夢中か。ベル。話聞いてるか?


「ベルはどうなんだ?」

「要するに面倒なのは勇者だけですから、人間どもには魔王様の恐怖を叩き込み手を出させないようにしとけばOKだと思ってます。勇者はすぐにも殺したいですが」

 クリームだらけの顔で急に真顔になるなっ! 怖いわ!


「では俺の考えを言おう」

 全員が注目する。


「まず人間を滅ぼすのはやめておこう」

「なぜ……」マッディーがこちらを見る。

「ケーキもお茶ももりもり飲み食いしてなに言ってる。これ作ったのは人間だぞ? 王都で買ってきた」

 マッディーが驚く。


「魔族より人間のほうが生活レベルがずっと上ってこった。滅ぼすのはもったいないだろ。こういうのをちょろまかしてきておこぼれにあずかっていたほうがずっといいと俺は思うがな」

「……」


 全員ケーキを、あるいはケーキのあった皿を見る。

 ちょろいわー。


「同様の理由で攻め込むのもダメだ。戦乱に追われ街を焼かれた人間どもがこういうものを作ってる余裕があるか? 逆らう人間どもを恐怖で支配してこんなものを作らせることができるのか? できないだろ。世の中平和でないと美味い物も食えなくなるぞ。まだまだ人間には美味い物がいっぱいある。楽しいこともな」


「また、これが食べられる……?」

「ああ、これからいくらでも持ってきてやる。どうだ? それで我慢できないか?」

 はい。マッディー落ちた。さすがお子様。ロリ担当。

 ニコッとわらってビスケットをぽりぽり食べる。かわいいわ。


「と、いうわけで俺たちは勇者の邪魔をし、魔王討伐をあきらめさせ、人間どもに魔族に手を出させないようにしながらここで、平和に仲よく暮らす。どうか?」


「うーん……正直、魔王様としてそれでいいのかと思うけど……。魔王って人間攻め滅ぼしてなんぼだし」

 ファリアは武闘派だな。


「わたしは賛成ですわ」

 サーパスさんは嬉しそうです。


「私はそれならそれでいいよ。面倒は嫌いだし、わざわざ(いくさ)にすることもないし」

 スワンさんも賛成してくれました。


「……一つ疑問なんだが、俺おかしいこと言ってるかもしれないが、魔王って人間を滅ぼさないといけない理由とかあるのか?」

 今更こんなこと聞くのもなんなんだけどな。


「無いね」

「無いですね」

「言われてみれば……確かに」

「……」


 ケーキに頭突っ込みそうな勢いのベルも、首をひねる。

「確かに以前の魔王様は何度も人間を滅ぼそうとしては勇者に討ち取られていましたねえ。もう単なる遺恨にしか見えませんでした。面倒になりましたか?」


 だよねー。

 たかがエロゲの魔王にそんな高尚な理由があるわけないよね。

 ただ、勇者が魔王を倒すっていう舞台作るためにムリヤリ登場させられている悪役にすぎませんから。理由なんかどうでもいいし詳しく語られたりもしませんて。

 そうでなきゃ四天王も側近も「全員女の子」なんてありえませんから。


「な? 俺たちには別に、人間滅ぼさないといけない理由なんてなんにもない。たまに人間領に行って美味い物買ってきたり便利なもの調達したりしたほうがずっと楽しくて豊かな生活になる。魔物たちも、って言っても俺たち以外はただの野生動物みたいなもんだけど、自分たちのいつもの生活ができればそれでいいだろ。人間なんて魔物より弱い存在だし、こっちから手を出さなきゃ攻めてくることもない。勇者だけ追い払っておけば大丈夫さ」


「そんなにうまくいきますかねえー?」

「そのための妨害工作が、これからの俺たちの仕事になるな」


 よし、これでいこう。

 エロゲの世界で戦争とか和平とか貿易とか経済とか、そんな高尚なことやる必要はねーよ。

 ダラダラとゲームを進ませないまま引き延ばせば、それでOKさ!



 ……ネット小説ならまず間違いなくエタる設定だなとか思ってはいけない。


 この物語には間違いなく、魔王である俺が殺されるという明らかな最終回が、俺に無断で設定されているんだからな。一瞬の気も抜けないぞ。


「なんか、あんた変わった魔王様だな」

 そう見えるかファリア? みんな、復活前の魔王様にも仕えてたのかな?

 今度、詳しく聞いてみようか。



次回「7.魔王は魔王である前にまず魔族の王だと心得よ」

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