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4.レベル一桁の勇者に王様は魔王を倒せと言ってくる


 あのピザでオタクな勇者が王宮から帰って来たのか、背中にでっかい聖剣背負ってやってきましたよ冒険者ギルドに。

 まずここに登録しようってわけですか。

 そりゃあこれから冒険する上でギルドに登録しておけばいろいろとやりやすいでしょうね。


 ベルが俺のところに飛んでくる。

「ここにいましたか魔王様……。勇者を尾行していましたらこちらに来まして。ちょうどよかったです」


 二人でギルドホールのすみっこに行ってやってきた勇者をこそこそ見守る。


「あの剣、王宮からもらったやつか?」

「はいそうです。聖剣ですね……。魔王様もあれには斬られてしまいますからお気をつけて」

「わかった」


 勇者、物怖じしないでずんずんとホールに入ってくる。

 なかなか度胸もありそうだな。俺よりマシだぜ。

 けっこうこの「異世界ワールド・ハレムっちゃおう!」のゲームやりこんでたほうなのか、それとも無知なるゆえの無謀なのか。見極めさせてもらおうか。


 おう、俺と同じだ。(てい)よく追い払われそうになってら。

 でも聖剣見せたらがらっとおっさんの態度変わったな。

 丁寧に二階に案内されてるぞ。上にギルドマスターでもいるんだろうか。


「ベル。様子を見て来い」

「それより使い魔にモニターさせたほうがいいでしょう。外に出ましょう」

 なるほど、その手があったか。

 俺たちは外に出て、街路のベンチに座り込む。


「映像出します」

 今度は座った俺の前にモニターを出してくれる。ベルはおれの膝の上にちょこんと座って展開中。背中の半透明な四枚の羽根がひらひらかわいいな……。


 映像、めっちゃローアングル。

 ネズミ視点かな。捕まるなよ。

 ギルドマスターらしいいかついおっさんの隣の秘書のお姉さんのスカートからぱんつが丸見えです。それはおいといて。


 ……くそう、大歓迎じゃねえか。

 いきなりS級でハンターカード発行してもらってるよ。

 つまり受注制限なにも無し。いろいろ説明してもらって、この国の冒険者は1級、2級、3級、4級、5級、6級の6ランク。その上の頂点にSランクがある。Sランクはギルドに所属しているだけでもいいらしく手数料、年会費などはすべて無料だ。もちろん何をやるにもギルドの最大支援が受けられる。その分、困難な仕事を任されることになるのだが……。


「今後の御活躍を期待しています!」なんて言われちゃってさ。

 なんだよこの差。

 腹立つ。



 うん、このイベント覚えあるわ。

 王宮で聖剣もらって、支度金に千ゴールドもらってさ。

「冒険者ギルドに都合をつけておきますのでそちらがお勧めです」とか大臣に言われてさ。

 俺も勇者としてギルド行ったらちやほやされてさー。

 おんなじカードもらったわ。

 システムもまったく同じ。


 でもこの状態じゃ奴がまずやりこんでるやつかどうかはわからない。

 ここまでチュートリアル、正規ルートみたいなもんだから。

 お約束な流れをやるだけ。まだ冒険始まってもいねえよ。



 「どこに行くんでしょうね……」

 ベルと一緒にギルドから出てきた勇者の後をつける。

 セオリーならこの後武器屋で防具を買うか、雑貨店で装備をそろえるか、酒場あたりに顔を出してみるか、しばらくこの街をウロウロすることになるのだが……。


 「宿屋かよ!」

 奴が真っ先に向かったのは宿屋だった。

 セーブポイントだね。

 こんな序盤でまずセーブかよ! 慎重な奴だな。

 金が少ない状態でいろいろ買い物する前に、やり直し効くようにまずセーブ。

 基本だね。


「わかった。奴はド素人だ」

「どういうことでしょう……」

「この世界熟知してるならまず武器屋、雑貨屋で最低限必要なものをためらいなく買いそろえるはず。イベントを起こしに行動するのでもよし、王都周辺でまずレベル上げするのもよしのはずだが、それをやらずに真っ先に宿屋に向かうってのは初心者の行動パターンだ」

「初心者って……」


 わけわからんよなベル。でもこれで決まりだ。奴はこのゲームやりこんではいない。おそらく初めてプレイするんじゃないかな?

 17歳だもんな。普通ならエロゲとかまだやったことないはず。

 はず。

 はずなんだ。

 やるやつは中学生でも高校生でもコッソリやってるけどね。

 まあとにかくもしそうなら、このゲームやり込んだことがある俺にとって大きなアドバンテージだ。


「腹減った。何か食べようかベル」

「そんなのんきな……。宿屋からすぐ出てくるかもしれませんよ?」

「もう明日まで大丈夫」

 このゲーム、宿屋に泊まると強制的に次の日になる。

 つまり、勇者はもう明日まで宿屋から出てこない。心配するな。


「なんか屋台で食いたいんだけど、金が無いんだよな――」

「あっそうですね、じゃ、ちょっと行って盗んできます」

「ちょっちょっちょっと待てベル――――!!」

 飛んでいきそうになるベルをあわてて呼び止める!


「ベルベル、ここは人間の街だぞ! 盗みはダメだろ!」


「魔王様こそなに言ってんですか。私たち魔族なんだから人間から略奪してなんぼでしょ。人間のルールに縛られる必要なんてありませんよ」

「そうなの?」

「そうです」

 あっさり……。


「じゃ、待っててくださいね――っ」

 ベル、すごいいい笑顔でひゅーんと飛んでっちゃったよ。

 魔王としての第一歩がコソ泥ですか……。


 うん、考えてみれば正義とか法律とか関係ないよね。

 俺魔王だもんね。


 その後、金貨十枚持ってきたベルと一緒に屋台で買い食いした。

 もっといっぱいあったんだけど重たいからこれしか持ってこれなかったんだってさ30センチのベルちゃん。どっから盗んできたのかは聞かないよ。

 いっぱい飲み食いできたねえ。

 俺の膝の上で俺のパンとか串焼きとかのおすそわけの一片とかぽりぽり食べてるベルがかわいくてしょうがないわ。なごむわ――。


 その日は俺たちも宿屋に泊まって休んだ。金貨一枚ですげえいい宿取れた。

 風呂に入って夕食にして、のんびりしてからこれからどうするか考えてるとちょっと夜更かしになってしまった。


 ベルは枕の横でくうくう寝ている。

 かわいい……。

 今日はご苦労様。

 おやすみ。




次回「5.勇者のレベルアップを待ってやる魔王の美学」

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