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元ネタ短編・女神様がケチ過ぎてなかなかチートがもらえない


 死んだ。


 俺通り魔に刺されて死んじゃったよ。

 小学生に襲い掛かってた変態からナイフ奪って刺し殺してやったんだけど、その時には俺もう5~6か所刺されてしまったからな……。


「さあ、選びなさい」

 いやこれを読んでいるみんなにはもう説明不要だよな。

 そうここは死後の世界。目の前にいるのは冥界を司る女神、ヨミ様。

 あの時女の子の命救ったから、俺に魔法を一つ授けてくれるんだってさ。

 でもその後魔王が攻めてきてる異世界に飛ばされちゃうらしいんだけどね。


「うーん……じゃ、その『火属性魔法』で」

「わかりました。最初は小さなファイアボールがやっとでしょうけど、修行次第で強い魔法も使えるようになりますから。ではあなたのご武運をお祈り申し上げます。あなたの二度目の人生が幸多からん事を……」




 ……。


 魔王が「ぐわああ――――!!」と叫びながら業火に包まれて燃えてゆく。

「やったあ! さすがはご主人様です!」

 ふっふっふ、俺は振り返ってネコミミ魔道士のミリイちゃんに親指を立てる。

「ご主人様にかかれば魔王だろうと瞬殺ですね!」

 くるんっ。ビキニアーマーに黒いローブのミリイちゃんが一回転してふわっと。


「ちょっと待ってください――――!!」

 いいところなのにいきなり周囲が灰色になって停止する……。

 女神ヨミ様が目の前にあらわれて、俺に叫ぶ。


「なんなんだいったい」

「なんですかあの魔法は! これで終わりですか! こんなんでいいと思ってるんですか!」

「なにって、人体発火(パイロキネシス)ですけど」

「卑怯すぎませんか!」

「ずーっとこれだけに特化して、これだけ修行して、もう固体ならなんでも燃やせるようにしてきただけだけど?」

「なんでそんなことができるんです!」

「燃やすって、要するに酸化させてプラズマ状態になるまで温度を上げるわけでしょ? だからそれだけ修行し続けたの。ザコも四天王も全部燃やせたし、魔王だって例外じゃないでしょ」


「やり直しを要求します! 魔王との最後の決戦が燃やして終わりなんて納得いきません! 時間を戻します!」

「えええ――――!」

「さあ、選びなさい!」

 問答無用かよ……。


「じゃ、その風属性の魔法で……」

「わかりました。今度こそ、ちゃんと修行するんですよ!」



 ……。



「ぐっ……」

 魔王が声も立てずにバッタリと倒れ、もがく。


「あなたにかかれば、魔王と言えども瞬殺……」

 白いスケスケのローブをまとった魔女ラーソルがつぶやく。

「ああ、これで世界は救われた」

 俺はニヤッと笑って、ピンクの突起を震わせるラーソルに、安心しろとばかりに笑いかけ……。

「待ってください――――!!」

 またかよ……。せっかくラーソルを抱きしめて感触を楽しもうとしたところでいきなり周囲が灰色になって停止する……。

 女神ヨミ様が激怒して俺に叫ぶ。


「なんですかこの魔法は! 魔王あなたに会うなり一言も発せずにいきなり倒れて終わりですか! あなた異世界をなんだと思ってるんですか!」

「なにって、風魔法ですけど」

「なんで風魔法でいきなり魔王が倒れるんですか!」

「だから風だろ? 要するに空気の動きをコントロールするんだろ? だから肺の空気を止めたんだよ。呼吸してない生物なんていないからこれだけでほとんどの生物は死ぬんだよ」

「生きてないアンデッドとかはどうしてたんですか!」

「知らないの? ゾンビと言えども酸素は消費してるんだよ。死んだ細胞が酵素分解してエネルギーを得ているわけだから酸素の供給を絶てば酵素分解が停止して動かなくなるんだよ」

「ずーっとそれだけに特化して、修行してたと……?」

「わかってるじゃない」


「やり直しを要求します! 魔王との最後の決戦が窒息させて終わりなんて納得いきません! 時間を戻させていただきます! 今度こそ真面目にやってくださいね!」

「ここまでも真面目にやってたんですけど……」

「そんな痴女連れまわしてどこがマジメですか! さあ、選びなさい!」

 えっこの子もダメなの? 


「……じゃあ、水魔法で……」





 ……。



「……」

 魔王が白目をむいて声も立てずにバッタリと倒れる。


「すごーい! おにいちゃんなら、魔王なんてザコ同然!」

 一見スク水網タイツなロリくのいちのミサトちゃんが驚く。

「さ、帰って王様に褒美もらうか」

 首筋に抱き着かれて、熱いキスもらおうかという瞬間に……。


「待ってください――――!!」

 またかよ……。この展開どうすんだよ。

 女神ヨミ様が激怒して俺に叫ぶ。

「なんですか! そのロリっ子は! 犯罪じゃないですか!」

「いやミサトちゃんはロリに見えるけど実年齢は……って突っ込むとこそこ?」

「なんなんですあの魔法は!」

「だから水属性魔法」

「なんでそれで魔王がいきなり倒れるんですか!」

「水魔法だろ? だから水の動きをコントロールするんだろ? 血流を止めたんだよ。生物はたいていそれだけで死んじゃうよ」


「納得できません! 魔王との最終決戦が魔王の脳卒中で終わりなんて盛り上がらないにもほどがあります! 時間を戻させてもらいますから選びなさい!」

「ここまでの展開が雑になってきてるような……」

「いいから選びなさい!」

「……じゃあ、金属性魔法で」


 ヨミ様がはんにゃらふんにゃら呪文唱えて俺にかける。

「頼みますよ。金属性魔法なら剣でも槍でも作り放題ですからね! どんなチート武器作ってもいいですからちゃんと戦って倒してくださいね!」

「やだなあそんなの……」


 


 ……



「な……なにをした……」

 魔王が跪いて、そのまま倒れた。

 

「さすがですあなた……」

 妻のヨシエが駆け寄ってきて、俺の背中に抱き着く。

「さ、約束通り、今度こそ教会で結婚式だ」



「待ってください――――!!」

 今度は何だよ。どこが問題なんだよ。


 女神ヨミ様が髪を逆立てて俺に叫ぶ。

「武器を使って倒しなさいよ! なんで金属性魔法でいきなり魔王が倒れるんですか! ありえないでしょ!」

「血液には鉄分が含まれているんだよ。それが酸素と結合して脳に供給してるの。血液中の鉄分をすべて除去してしまえばどんな生物もすぐに死ぬ……」

「その熟女なんなんですか! 異世界の主人公がそんなオバサン連れまわすなんて聞いたことありません!!」

「ヨシエのことは悪く言うな! 夫を魔王軍に殺されて未亡人になって、ここまで苦労して生きてきた可哀想な人なんだよ! 俺が幸せにしてやらないでどうすんだよ!」

「どうでもいいです!」

 この野郎言い切りやがった。


「やり直しを要求します! さあっ選びなさい!」

「選ばないよ! ヨシエはどうなるんだよ! このまま幸せにさせてやれよ!」

「ヨシエさんのことは心配しないで。あなたなんかよりずっとマシな男に出会えるようにしてあげますから! さあっ早く選びなさい!」


「……じゃあ、土属性魔法で……」

 「今度こそ頼みますよ。まったく……」





 ……


「……」

 魔王が全身石化して、そのままバッタリと倒れる。


「……」

 ミランダには何が起こったかわからないか……。

「大丈夫。もう終わったよ」

 優しくその体を抱きしめる。

「ご主人様……」

「さあ、王都に帰って、その目を治療してもらおうな……。きっと見えるようになるからね」

「はい……。ありがとうございます」

「じゃ、これ、壊してしまおう」

 そう言って、魔王の体にハンマーを振り上げたところで……。


「待ってください――――!!」

 何が不満なの? どーしてそこで出てくるの? 

 いい加減にしてよ女神様。


 女神ヨミ様があきれたように俺に詰め寄る。

「どういうことですか! なんで土属性魔法で魔王が石になるんですか!」

「だから体の炭素を全部ケイ素に変換したの。元素をコントロールできる土属性魔法なら可能なの。それぐらい簡単でしょ」

「その()はなんなんですか……」

「魔王軍が撒いた瘴気のせいで目をやられてさ、盲目になってしまったんだよ。そのまま奴隷にされて、奴隷商にひどいめにあっていて、放っておくわけにいかなくて、ここまで連れて来たんだよ」

「そんな子魔王討伐に連れてきちゃダメでしょ! なに考えてるんですか!」

「だってかわいそうじゃないか! 幸せにしてやりたいじゃないか!」


「その子は私が治しておきます。やりなおしを要求します」

「いややり直されても……。王宮に戻れば目を治療できる魔法士がいるからさ。高いけど頼めばきっと王様のご褒美で治療してもらえるから」

「目が見えるようになったらあなたの顔見てがっかりしちゃうでしょうが! そうなったら不幸でしょうが!」

「俺ってそんなひどい顔してますかね……」

「私だったらこんな男に毎晩抱かれていたと思ったら死にたくなりますよ。さあ選びなさい!」

「泣いていい? ……それなら光魔法で」

「うん……それなら、大丈夫ですかね。まあ勇者っぽいですよね」




 ……


「……」

 ぐつぐつぐつぐつ。

 魔王の体が煮えたぎって、沸騰する。

「やっぱりたーくんは最高!」

 どこからどうみても普通の村娘のランちゃんが俺に抱き着いてくる。

「さ、帰ってなにか美味しい物でも作ろうか、今夜は寝かさないよ」

「やだーっ、たーくんのエッチ!」

「あっはっは!」

「……待ちなさい」


 ドスの効いた声と共に女神様が現れる。

「……なんで魔王が煮えたぎって死ぬんです」

「光魔法だよ。光って要するに電磁波だろ? だからそれをコントロールしてマイクロ波を照射して電子レンジみたいに水分の分子運動を高速化させて……」

「その田舎娘はなんです」

「宿屋の娘さん。マイクロ波で料理とか一緒に作ってるうちに見込まれちゃって、ご両親にも許しをもらって、ちゃんと教会で結婚式も上げたんだ。俺の妻だよ。帰ったら宿屋を継いで、二人で普通の生活に戻るんだ。子供は三人欲しいな。もう放っておいてくれよ」

「一般女性を魔王討伐に巻き込むなんて許せませんわ!」

「どんな女性だったら巻き込んでもいいんだよ!」

「だから女を巻き込むな!!」

「ボッチかよ! ボッチで魔王討伐の旅しろって言うのかよ!」

「男を仲間にする発想はゼロなんですか! やり直しを要求します! さあっ選びなさい!」

「……もういいよ。じゃあ木属性魔法で……」



 ……


 魔王の体がバクテリアに蝕まれてゆく。全身にカビが生え、干からびてゆく。

「ぐわあああ……」

 倒れた魔王の体はグシャグシャに崩れ落ち、液状化して急速に腐敗してゆく。


「待てやコラアアアアアアア――――ッ!」

「……これもダメなの?」

「主人公がこんなグロい魔法使うなんて許せません! これは敵が使う技です! 主人公たる者がこんな魔法で魔王を倒すなんて断じて認められません!」

「いいじゃないか他に誰も見ていないし」

「……今回は一人なんですね」

「うん、もう風俗でいいやって。娼館あったしそれでいいわ。あと腐れのないこれっきりの関係って楽でいいわあ。何と言っても楽しめるし」

「あなた最低ですね」

「何言ってるんだ。風俗嬢だって客が指名してくれれば嬉しいんだぞ。風俗は裏を返してこそ本物のお客。これぞウィンウィン……」

「問答無用です! やり直しを要求します!」

「わかったよ。じゃあ毒魔法で」

「却下です! 絶対に許しません!」

「じゃあ闇魔法」

「一番ダメです! 今まで見ててわかりました。他の物にして下さい!」

「重力魔法は?」

「どうせ魔王押しつぶして終わりなんでしょ?」

「強化系魔法なら?」

「それこそチートじゃないですか」

「だったらいっそ聖魔法にしてくれよ」

「どうせ魔王浄化するんでしょ? あなたに聖魔法なんて絶対に与えたくありません!」

「じゃあ女神様のお勧めでいいよ……。好きなようにして」


「あなたにはもう魔法は与えません!」

「結局それかよ!!」



 そして、世界は魔王に滅ぼされた。




即死魔法なんていくらでも考えつくけど、やっぱりそれをやっちゃあ、ダメなんでしょうねえ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 科学と空想科学に強い人間に概念で魔法を与えてはいけない(戒め)のがよ〜くわかる。勇者のやらかしでもあるけど実は概念で魔法を与えた女神様のやらかしであるというのもミソ。 完全な自由ほどの無法は…
2023/03/14 16:12 アカーレス
[一言] いっそ「死ね」と言ったら相手が死んじゃうとか(待て待て待て待て
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