24.無限ループの最終回は、せつない
「なんか最低だね。女神様」
ファリアに言われて、女神様の顔が赤くなる。
「最低の男のハーレムに収まってるアンタたちに言われたくないわね」
ううっ女のケンカ怖い。胃がキリキリしてきた。
「魔王様を最低呼ばわりすることは許しませんわよ」
「そうだーそうだーっ」
元風俗嬢コンビありがとう。
「知ってる? その男はねえ、エロゲで興奮しすぎて……」
「自家発電のやりすぎで死んだんでしょ? 知ってるよ?」
「スケベなくせにその歳まで童貞で……」
「知ってます」
「……勇者に殺されるのがイヤでずっとアンタたちを利用してたのよ?」
「それも知ってますわ」
……精神攻撃やめて。魔王のライフはもうゼロよっ。
「じゃあなんでそんな男のハーレムやってんのよアンタたち」
「それは、わたしたちもスケベだったからってことですわね」
あの、ミもフタもないじゃないですか四天王さん。
「私たちは欲望のまま抱かれたことはあっても、愛されて抱かれたことはなかったわ。結局、前世でのさびしい記憶しかなかったの」
サーパスさん……。
「でも、魔王様は私たちのことを愛してくれましたわ。それはそれはもう愛し気に、優しく、平等に、何回も。こんな異世界で、魔族になって、そんなわたしたちでも、悦ばせてくれたんです。ずっと一緒にいてほしいって、願ってくれたんです。そんな可愛いひとに惚れてしまったらいけません?」
「コイツはね、私が風俗嬢だろうとなんだろうと気にしなかったわ。私がヤらせてやらなくても一切差別しなかった。ヤらせろって迫ってくることも無かったわ。私のお仕事をいつも褒めてくれたのよ。もっと早く出会いたかったね。前世でとかさ」
スワンさん、ただのヘタレな俺をそんなふうになんかありがとうございます。
「……この人、私の過去、一切聞かなかった。それがどんなに優しくて気持ちいい世界かあんたにわかる? 前世でさんざんな目にあって、それでもビッチな私をそのまんま受け入れてくれた……。それがどんなに嬉しいか、わからないでしょう」
黒い。黒いわマッディー……。そんな君も今は大好きですけどね。
ファリアも女神をにらみつける。
「魔王様はね、敵役にだって、優しかった。魔物や獣人のアタシたちにも、勇者の女にも、勇者にさえもね。こんなクソなルールに縛られた世界の中で、みんなで幸せになれる方法を一生懸命考えてたよ。今、それをぶちこわしに来てるのはアンタのほうだよ」
「こんな世界に放り込んで正解だったわね、あなたたちも」
女神の目が吊り上がる。
「迷惑なのよ。なんで現地に溶け込んで普通におとなしく暮らせないのよ日本人って。想定外の斜め上にチートを際限なく発展させたり、ちゃんと世界に役目があるはずの女の子独占してハーレム作ったり、現地人殺しまくったり世界観に合わないものを発明したり死ぬはずだった人間を助けたり、美味しい物ふるまって無駄に異世界人の舌を肥えさせたり、異世界を自分好みに勝手に作り替えようとして……」
うわあ、それ全部異世界もののテンプレだ……。
「そんなことが許されると思う? そんなことが異世界良くすると思う? そんなことをエタるまで延々と繰り返されても困るし、世界を丸ごと壊しちゃうような大冒険なんてされても困るのよ。普通の異世界ではね!」
いや、それを俺に言われてもさあ……。
俺そんなこと一切やってないじゃん。
「そこまでやれなんて言ってないわよ! 管理者の身にもなってほしいわ。大っ嫌いよ日本人なんて!」
日本人の転生者がそこまで嫌われているとは……。
「高橋誠さん」
「それが俺の名前かい! 知らんかったわ! っていうか忘れてたわ!」
「あなたを魔王にしたのは間違いでした。やり直しを要求します!」
「いや、勝手に魔王にしておいてそのいいぐさ……」
「問答無用です! あなたに選択肢はありません!」
ぐにゃあ。
世界が曲がる。
世界が渦巻く。
世界がぐるぐると巻き戻って行く。
そりゃないよ女神様……。
……………。
…………。
………。
……。
「見えてきたな、イナリーちゃん」
「あれがそうですか」
「うん、イルコン川の橋をふさいでいる魔族の親玉。やっぱでかいなー」
街道を歩いて近づく。
赤い髪。
たくましい腕とおっぱい。くびれたウエスト、褐色の肌、真っ赤なビキニアーマー……。
俺よりでけえよ……。
「待たせたな、ファリア」
赤い魔族に声をかけるとニヤッと笑う。
「元気そうだね。魔王様」
「魔王じゃねーよ! 勇者だよ! 勇者マコト・タカハシ!」
「そうだった……。パーティーメンバー、イナリーちゃんだけなの?」
「そうさ」
「律儀だねぇ……。他にもメンバーにできた女いっぱいいただろうにさ」
ケラケラ笑う。
なつかしい、俺の大好きなあの笑顔で。
「イナリーちゃんもご苦労様。よくここまでついてこれたね」
「お久しぶりですファリアさん。私『逃亡』のスキル持ちだったんです。逃げる成功率100%なんですよ!」
「すごいじゃん! よかったねイナリーちゃん」
いや本来モブキャラなんでゲームシステム的に「いないこと」になってるだけなんですけど。
「四天王はみんな元気か?」
「待ちくたびれてるよ。お土産はケーキと紅茶にしてくれってさ」
「了解。頼みがある」
「何?」
「俺のハーレムメンバーになってくれ」
「そこはパーティーメンバーじゃないの?」
「そうだった。間違えた」
あはははははっ
笑うファリアのちょっととぼけた顔が面白い。
こんな表情は珍しいな。
「いいよ」
「話はや!」
「ただ、こっちのクソ童貞魔王の手前もあるからね。一応実力は見せてもらうよ?」
「当然。待たせた分、期待には応えなくちゃな。驚くなよ!」
ちゃきり、剣を抜く。
「うあっ聖剣! 魔王様が聖剣は卑怯だって!」
「だからもう魔王じゃねーよ!」
「ほんと男ってバカなんだから。そのバカさが好きだけどさ」
「いくぞ!!」
「おう!」
――――――――――END―――――――――――
こんな作品を最後まで読んでくれてありがとうございます。
どうしてこうなった。
この作品を書いたきっかけは実は「ハーレム物を書いてみたかった」ではありません。
「プレイしたことのあるゲーム世界に転生し、ゲーム知識やチート能力で大暴れ」という小説が乙女ゲーの悪役令嬢からMMORPGまで凄く多くて人気もあるのですが、「なぜそんな世界があって、その世界は誰が作って主人公はどうしてそんな世界に放り込まれたのか」という理由は何の説明もない場合が多いからです。
逆に言えば、その理由に主人公がたどり着ければ物語はエタらずに最終回を迎えられるんじゃないだろうか。映画の「マトリックス」みたいに、と思いましたので、その理由をあれこれ考えてみたのです。
やっぱり自分がどう考えても「マトリックス」のパクリになってしまいます。先人は偉大です。
この作品の元となったプロトタイプの短編を追加しておきました。おまけです。
次なる作品はガラッと変わってなろう系の王道物。
今までいろんな職業の人が飛ばされていきましたが、今回はありそうでなかった、
初であると思われる……。
「猟友会の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた」ですっ!




