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23.メタ発言はプレイヤーのテンションを下げかねない両刃の剣


「今朝の映像です」

 女騎士カトリーヌがいきなりリリーちゃんの小さな借家のドアをぶち壊して現れて、床に毛布を敷いて寝ているまだプラトニックな勇者を罵倒し、手を掴んで引きずっていく映像です。お部屋の金魚鉢の金魚目線なんで魚眼映像。


 女の子をベッドで寝かせて自分は床か。

 うん、リリーちゃんに惚れてたか。勇者、それも一つの愛の形だ。

 突然のことに泣き崩れるリリーちゃん。


 恋が芽生えそうな若い二人の仲をムリヤリ裂いてどうすんですか。

 あんた終盤までパーティーメンバーに入ってくれないはずでしょ?

 なにしてくれてんすかカトリーヌさん……。


「ひどい……」

「カトリーヌって何者?」

「そんなに魔王退治がしたかったのあの女!」

 四天王も激怒ですな。


 にやり。


 ……いや、マッディーさん、その顔は……。



「今どこにいる?」

「それが、移動スピードが速すぎて捕捉しきれなくて」

 ベルが検索かけてるけど見つけられないようだ。


「魔王城に向かっているならルートは一本。イルコン川大橋、ギニョ川連絡船乗り場、プリン山の風洞窟は必ず通る」

「ではそこを重点的に」

「それと、確か勇者にイエダニくっつけておいたんじゃなかったっけ?」

「あっそうだった! さすが魔王様!」


 ベルがスクリーンを大きな一枚にしてマップ展開する。


「……なにこのスピード……」


 ぴ、ぴ、ぴ、ぴ……。

 猛スピードで動く赤いドットが点滅しながら街道や渓谷や山を全部無視して一直線に魔王城に向かっている。

 核弾頭積んだ巡航ミサイルですか……。


「翼竜ちゃんたちに見てきてもらう?」

「頼む」

 スワンが念話を送って近くの渓谷のワイバーンに指示。


「ルート上の使い魔に空を見張らせろ」

「えっ……、勇者飛んでるんですか?」

「そうとしか考えられんだろベル」


 空、空、空、空……。

 一枚のモニターをなにかが横切った。

「拡大しろ!」

「いや月の輪くま太郎にそんなマネできませんから」

「……トンビかなんかに頼んでいい?」

「ハヤぶーさんを向かわせますね。」


 ひゅるるるる……。

 一見のどかな風景なんだけど……。


「なにこれ……」


 女騎士カトリーヌが勇者を小脇にかかえて飛んでいった。

 悪人を捕まえたスーパーヒーローですか。


「翼竜ちゃんエリアに入ります……」

「よし、スワン、戦闘させるなよ。確認だけ」

「映像きました!」

 一瞬カトリーヌが映ったと思ったらブラックアウトした。


「一撃……」

「翼竜ちゃんが……」

 崩れるスワン……。


「……今、どうやって攻撃した?」

「スローで再生してみますね」

 ベル便利。


「……」


 目からビームって。

 目からビームってあなた人間ですかカトリーヌさん。


「どうすんのさ!」

「落ち着けファリア、奴の狙いは俺だけだ」

「魔王様……」

「ベル、魔王城内と周辺の全魔物を郊外に転移。避難させろ。急げ」

「簡単に言いますけどね! 全員にって膨大な魔力使いますからね!」

「やれ」

「魔王城の魔力備蓄がカラになりますよ! 魔王城の防御結界も迎撃魔法陣も消えてしまいますよ!」

「いい。どうせ破られる」

「魔物全員カトリーヌにぶつければ……」

「おまえたち、そうしたいか?」


 四天王を見る。

「……」

 イヤだよな。ずーっと世話して、かわいがってきたもんな。


「アタシたちがカトリーヌをここで迎え撃つよ」

「こうなったら、しゃーないね」

「……()る」

「ここはわたしたちに任せて、イナリーちゃんも魔物たちと避難してちょうだい」

「イヤです。残ります」


「……みんな城を出てくれ。俺一人で迎え撃つ」

「ダメだね。魔王様を守るのがアタシたち四天王の役目だからね」

「一国が落ちるとき首を差し出すのも王の役目だ。俺は魔王だしな」

「じゃあ、それぞれ役目を果たすということで、よろしいんじゃありません?」

 サーパスがにっこり笑う。


「気が付いてると思うが、ゲームの中のカトリーヌはあんな無茶苦茶な能力はなかった。いくらゲーム中最強キャラとは言っても、主人公の勇者よりは弱かった。勇者に倒されて仲間になるんだからな。あれは異常だ。たぶん別人」


「……何者?」

「ゲームを終わらせるもの。このゲームがあまりにもクソゲーになってしまったのでリセットをしてやり直すためのシステム……そんな気がする」

「じゃあ、勝てない?」

 ゲーム通だね、スワン。


「ゲームの魔王は倒されるためにある。魔王が勝つエンディングなんて存在しない。魔王は勇者が活躍する舞台を作るための大道具なのさ。最初から勝てるわけない」


「だよねーっ」

 こんな状況でも笑ってくれるファリアがとても素敵に見える。


 心配いらないか……。君らはヒロインだから、死なないもんね。勇者が仲間にしちゃうよね。だったらいいか……。うん、俺だけが死ねばいい。


「転送開始」

 ベルがウィンドウにタッチすると魔王城のエネルギーが底をついて全てのモニターが消える。

 ……もうモニター室じゃない。ただの部屋だ。



「……じゃ、行くとするか。終点が玉座の間なら上出来ってやつだ」


 全員で玉座の間に移動。せっかくなので魔王の全身鎧、フル装備して待つ。

 玉座に手をかけて待つ四天王と側近のベル。イナリーちゃんも。


「みんなありがとな。短い間だったけど、楽しかったよ」

「幸せでしたわ」

「アタシは面白かったよ!」

「まあ、いいんじゃない?」

「……何倍もマシだった」

 何と比べて……?

 マッディーさんはほんとどんな人生送ってきたの?


 ぎぎぎぎぎぎぎ……。

 重い鉄製の玉座の間の扉が歪み、蝶番(ちょうつがい)が外れ、どーんっと倒れる。


「……ノックしてくれれば開けてあげるのに」


 勇者の襟首を引きずって女騎士カトリーヌがずかずかと玉座の間の中央に踏み込んでくる。


「お初にお目にかかりますわ魔王様」

「丁寧なごあいさつ痛み入るぜ女騎士カトリーヌ、いや……」


 ……。


「最初に会っているな。女神シャリーテス」


「女神……?」

「女神って……」

「カトリーヌが女神……?」

 みんなも、勇者もびっくりだな。


「……気が付いていましたか。名乗った覚えはありませんが?」


「教会にあんたが(まつ)ってあった。俺の知ってる女神と違う名前だった。つまりそこだけはアンタが自分の名前に書き換えたってことだ」

「無駄なゲーム知識を……」

 女神シャリーテスがやれやれと言いたげに首を振る。


「パソコンのデータ消してくれた?」

「約束しましたからね。ちゃんとやっておいてあげましたよ」


 よかった……。これでもう思い残すことは無い。



「HDDのデータ見て驚いたわ! このゲーム、まさかアンタがプレイしたことがあるとは思わなかったわよ!」

 うぉう! いきなり素になったなシャリーテス!


「お前が手を抜いて市販ゲームをそのまんまコピーして作ったせいだろが」

「ゲームだって? ゲームの世界なのか?! この世界!」

 勇者ビックリしてやがる。


「悪い? 私にこんないやらしい世界ゼロから考えて作れって言うの? 冗談じゃないわ」


「だったら文句言うなよ。自業自得だろ割れ女神様」


「ここはね、変態どもの夢の世界なの。ヒロインがチョロくて美少女ばっかりで、どんなデブでもガリでもオタクでも童貞卒業できてハーレム作れる天国なの。そんな色ボケ共を閉じ込めて、他の異世界に迷惑がかからないようにするための収容所なの! アンタはそこで魔王やって、おとなしく勇者ハーレムに殺されてればそれでいいのよ! なにいろいろ小細工して妨害して、生き延びようとしてんのよ! ちゃっかり自分のハーレムまで作っちゃってさ!」


「な……なんだよその世界……」

 勇者が愕然とする。

「俺は……、俺は……ゲームの主人公だったのか。死に戻りのスキル持ちの異世界転生だと思ってた……」

 ラノベ派だったか勇者。ま、17歳だったしな。エロゲはないか。


「そうよ。アンタもアンタ。こんなチョロいゲームでフラグ次々逃してさ、あげくあんな小娘と平凡に幸せに暮らそうなんて見てられないわ」


「悪いかよ! 平凡な幸せで悪いかよ! 俺にはそんなものもなかった! せっかくリリーちゃんと出会えたのに……、初めての彼女なのに……。異世界で、やりなおせると思ってたのに……」


「アンタがあんなかわいい()にモテるわけないでしょうが。勇者なら勇者らしくハーレム作ってウハウハしなさいよ。同級生のスカート覗こうとして階段から落ちて死んだドスケベ童貞のくせに」

 ……勇者それが死因かい。

 そこは二次元で我慢しとけよ……。


「要するにお前はなにがしたかったんだ」


「問題ありそうな転生人を収容するのにちょうどいいエサとなるモデル世界の実験。そう言ったでしょ?」


「……なるほどね」


 うん、思い出した。確かにそう言ってたわ。第一話で。



次回最終回「24.無限ループの最終回は、せつない」

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