22.異世界で平凡な生活をダラダラ続けるとエタりやすいらしい
「うーん……く、くるし……」
目が覚めるとファリアが抱き着いてる。
「はーなーせ――――!」
「うーん……。 まおぅさまぁあん」
「色っぽい声出してもダメ――――!」
どたばったん!
二人でベッドから転がり落ちる。
「あ、おはよ。魔王様」
「目が覚めたか?」
「うーん……まだ。……魔王様、朝から元気だねえ」
「やかましいわ」
「もう一回する?」
「……うん」
ベッドに寝そべってニコッと笑って手を広げてウェルカムのポーズ。
ルパンダイブ必至です。
「勇者回復したんだからさ、もう出て行けばいいのにさ……」
「しつこいよねーっ」
しつこいっていわれてちょっとドキッとします。
モニターの中ではまだ勇者が病室のベッドで寝たまま食事を運ぶマリアちゃんを口説いています。
今日も勇者の観察ですね。
「惜しいなあ、音声あったらな――っ」
「ネズちゃんズはあんまり難しい処理させるとひっくり返っちゃいますよ」
ベルさんの中継技術をもってしてもネズミじゃその程度ですか。
勇者、手を握るな手を。
マリアちゃん首をずーっと横に振ってます。
手を引っ張ってベッドに引きずり込もうと……。
ガタッ!
モニター室の俺たちが一斉に立ち上がる!
暴れるマリアちゃんの悲鳴に誘われたか屈強な男どもがどかどかと病室に踏み込んできます!
勇者をぼこぼこにして教会から放り出してしまいました。
あっはっは!
「ふうー……危なかった」
はいはい、全員着席着席。
「教会の信者に慕われてるねえマリアちゃん」
いやあれはマリアちゃんの信者だね。
「これでシスター・マリアのルートも無しと。マリアちゃんの純潔も守れたし一件落着。残りは一人」
「こんな前半でよくこれだけメンバーいるねえ」
後半は全部君たちだけどね四天王諸君。
「最後はどんな子かなー」
「あと一人だよね」
「踊り子?」
「錬金術師」
「遊び人だったりして。エロゲだけに」
「商人!」
「全員外れ……。最後に残ったのは、『薬剤師』だ」
「薬剤師――!」
「地味――!」
「えええ――――!」
みんなホントに意外そう。
「実は、これは小細工するのはやめて、素直に勇者のメンバーに入れてやろうと思ってる」
「薬剤師って戦力にならないの?」
「そうだな……。集めた材料でポーション作ったり、レベルが上がると爆弾まで作れるようになるけど、基本自分では戦闘しない」
「へえー……」
「ポーションはパーティーで消費するが、売れば金になる。だから薬剤師の娘が薬草ぷちぷちむしってる間に勇者が護衛するってことでいいカップルになると思うんだ」
「のどかだねえ……」
「うん、レベルは全く上がらないけどね。だからレベル上げガンガンやるようなパーティー組むやつはポーションもじゃんじゃん店から買って自分たちで作るようなことはしない。彼女をスルーする、存在にも気づかないプレイヤーは多い。ある意味隠しキャラみたいなもの」
「みじめだねえ……」
「俺としては、勇者と薬剤師が出会って、二人で薬草摘んで、ポーション売って、そんな生活をこの世界の片隅でひっそりと暮らしてくれるようになればいいんじゃないかと思ってるんだ」
「わあー……それもいいですね。幸せそうで」
「結婚とか、しちゃったりして」
「それも、ハッピーエンドだな!」
「……死ねばいいのに……」
……マッディー、前世を引きずるのはもうやめようよ……。
「で、どうするね? 引き合わせるように工作するの?」
「ああ。勇者は今魔物の狩りができない。護衛の仕事も怖くてできない。レベルも全然上がってないのに魔王にもすでに存在がバレていて目もつけられている。主人公だから勇者をやめて就職するルートも無い。そうなれば残った仕事は薬草摘みってことになる。だが薬草摘みの仕事は少ない」
「それで?」
「俺がギルドに薬草摘みとポーション調合の仕事をちょっと高めにしてガンガン発注する。そうすると勇者はその仕事をする。ポーションを高く買い取ってくれるというウワサを聞いて薬剤師の娘もやってくる。あとは自然に出会ってくれればと思っている」
「なるほど!」
「出会いは自然なほうがいいよね。うん」
ファリアとスワンが感心する。
「さすがです魔王様!!!!」
はっはっは。
「買い取るのは俺たちだからどうせなら欲しい物書いてくれ。ハーブとか天ぷらにする山菜とかキノコでもいいぞ。ポーションはMPポーションがいいかな。いくらあっても困らないからな」
「了解でーす!」
そうして、俺たちがギルドに依頼を張り出すようになって数日後……。
「あらかわいい」
リリーちゃんだ!
薬剤師!
つば広の日避け帽子。ふんわりしたロングの黒髪。片手に藤籠のバスケット。白いブラウス、黒のロングスカート、首元には紺のリボン。
なんという童貞殺し。
こんな美少女が笑ってくれたら丸太エルフで童貞卒業した十七歳なんて即死ですわ。この子で童貞卒業やり直してくれ。譲るから。
勇者、自分が山のように取ってきた薬草見せて、嬉しそうに会話してます。
ちなみにギルドホールの掲示板前です。
二人で籠の中の薬草調べてあーだこーだ。
リリーちゃんビックリした顔して、勇者ちょっと得意そうで。
あー……。甘酸っぱい。
『これ、ポーションにしたらもっと高く売れますよ!』
『でも俺ポーションなんて作れないし』
『私薬剤師なんです!』
……なんて会話が聞こえてきそうです。
「うん、なんかあの二人かわいくなってきました」
「幸せになってほしいわ」
「いいなあ……」
「……爆発しろ……」
その黒いオーラはなんとかなりませんかマッディーさん。
これは今夜俺がマッディーの爆弾処理しないといけないかもしれませんな。
また数日後には二人で仲良く草原デート。
リリーちゃんの手作りお弁当だ! はい、あーん。
くう……。なんという殺傷能力。
「ベル、映像もっと高解像度にならない? なにこのドット絵みたいなの」
「複眼のギンバエくん映像ですので……」
「そんなのリリーちゃんのお弁当にたからすなよ! やめてやれよ!」
一緒にポーションをギルドに納めに来たりして、すっかり仲良くなってます。
BGMに「メロディ・フェア」とか流したいです。
「魔王様! 壁がっ壁が崩れちゃう!」
え、俺そんなことしてた!?
これでエターナルになれば俺としては万々歳なんだけど……。
……そうはなりませんでした。
「魔王様! 魔王様大変です!」
「どうした!」
「なにごとぉ……?」
横で寝ていたスワンさんが飛び込んできたベルに目をこすって起き上がる。
スワンさんとは朝まで一緒にいる仲ですが未だに関係はありません。彼女は俺に色々するだけで満足しちゃいます。俺も限界までお世話されてしまうのでそれ以上はありません。不思議な関係に見えるかもしれませんが俺もスワンさんもそれでいいんだからいいじゃないかと思います。
そんな場合じゃなかったですね。はい。すいません。
「カトリーヌが……、女騎士カトリーヌが勇者を誘拐していきました!!」
なんじゃそりゃああああ――!
そんなイベント知らんぞ――――!
次回「23.メタ発言は読者のテンションを下げかねない両刃の剣」




