21.戦闘中にポーションが飲める不思議について
「今重症の勇者乗せて商隊の馬車トリューランに向かっています」
「弱いな勇者!」
「ポーションがぶ飲みで闘ってましたからねー……」
ああ、HP回復ポーションでゴリ押しね。
レベル低くても無理して押し切ることはあるわ。
モニター室に全員集まって走る馬車眺めてます。
「そんなんで勇者よく盗賊退治できたね」とファリアがあきれる。
「最後の盗賊倒したところでポーション使い切って勇者のHPも切れた感じです」
「前から疑問なんだけど、よく戦闘中にポーション飲めるよね」
「え、だってポーション飲んでる間、敵って待っててくれるでしょ?」
……ベル。
いや、聞きたくないけど。
聞いておいたほうがいいかな?
「勇者魔王城に来たら、俺も勇者がポーション飲んでる間待っててあげなきゃいけないの?」
「常識でしょう……」
「わかった。俺は常識を覆す魔王になるわ」
「いやそれはどうかと……」
振り向くと、ほらーみんな半目になってるじゃない。
ポーション飲んでる間待ってやるなんて絶対におかしいよ!
「商隊でポーション持ってる人いなかったの?」
「見たところこれは呪いですね。HPが減り続ける呪い。野盗に魔法使いいたみたいです」
「……魔法使えたら魔法使いになれるでしょ。なんで野盗なんかやってるの?」
スワン、そりゃゲームだからとしか……。
「……美少女なのに野盗やってる人だっていたでしょうが」
ベル、それ答えになってない。
「ってことは……」
「ってことです。これから教会に行くのでしょう。呪い浄化してくれますから」
「みんなの中で、呪い浄化できる人はいる?」
全員首を横に振る。
魔族だもんね、かける側だもんね。
「イベント?」
「そう」
「どうなるの?」
「このままだとたぶん教会のシスターのマリアちゃんに呪い解いてもらって、勇者との出会いイベントになる。本当は、勇者のパーティーメンバーが呪いに掛けられて勇者が運び込むんだけど、今回勇者はメンバーいないからこのイベントは無いと思ってた……」
「まさか勇者本人が担ぎ込まれるとは思わないよね。あはは……」
そうなんだよスワン。こんな展開読めなかった。
「今日明日にも仲間になるってわけじゃない。会うだけだ。勇者も回復しないし」
「しないの?」
「呪い解除するにはアイテムが必要でさ、ユラルド泉の聖水。仲間のために勇者が臨時でシスター・マリアをパーティーに入れて、聖水を汲みに行くんだ。そこで仲が良くなって勇者とねんごろになってハーレムパーティーに加入するんだけど、その肝心の勇者がダウン中じゃあな――」
「シスターが勇者とって……とんだビッチだねえ」
「エロゲですから」
バカすぎてすいませんファリア。
エロゲーってみんな、例外なく、ある意味バカゲーです。
それをわかった上で楽しむのがエロゲです。
「これ、勇者リロードしてやり直すんじゃないですか?」とベル。
「いや、意識不明だったら自分でその操作はできないだろ」
「じゃあ、放っておいて、日付越えたら気絶したままの状態でセーブされて詰みになるんじゃないですか?」
「お前天才だな!!」
すげえよベル!
そのアイデアいただき!!
「よしっ明日まで放っておこう。ベル教会内に使い魔」
「もう派遣しました。そろそろかな?」
ぶんっ。
新しいウィンドウが開く。
「……」
熱にうなされる勇者に、シスターがかいがいしく頭に冷たいタオルを当てている。
天井からだ。ネズミ映像かな。
「うわー……なんかすごいいい子そう……」
「心が痛いわ……」
「ビッチとか言ってごめんマリアちゃん……」
そういうけどね君たち、これエロゲですから。
白いベールの清楚な修道服、俺の目はあのぴっちりしてぽっちまでくっきり尖った乳袋と腰まであるスリットに釘付けです。今更だけどないわー。聖女にあの衣装はないわ――……。
ふわー……。光が広がる。
あ、なんか魔法試してる。
ダメかー。
別の魔法も。
ダメみたい……。
祈ってる……。
「……魔王様……」
「ねえ魔王様……」
「一晩待つ。これは決定事項。大丈夫、勇者はこんなイベントでは死なん」
「でもお……」
「明日、助けに行く。すぐに出かけられるように準備しておけ」
「了解!!」
みんなの笑顔がはじけたね。
こういう瞬間って、なんかいいね。
その夜はサーパスさんにタップリ疲れを癒してもらって、みんなで早めの朝食。
モニター室に集合。
「マリアちゃん、走り回ってますね」
「一緒に行ってくれる人がいないんだろう」
「冒険者ギルドにも断られましたか……」
「おいおい、一人で行く気かよ……」
マリアちゃん、空の瓶をかかえて街のゲートをくぐって外に出た。
「どうやら魔王の出番のようだ」
四天王が全員、頷く。
細い山道の入り口、うっそうとした山を見上げて踏みとどまるマリアちゃん……。
そこへ!
ひゅるるるるっどすん!
魔王着地!!
「ひっ」
怯えるよね。真っ黒い例の顔まで隠れた全身鎧だからね。
バラバラバラ……。
炎のファリア、水のサーパス、風のスワン、土のマッディーでマリアさんを取り囲む。全員モロ魔族だよ。いや、なんだこの痴女軍団とも言えますが……。
「教会トリューラン支部所属修道女、マリア・フォン・タラップとお見受けする」
着地姿勢からむっくり起き上がってガタガタ震えるマリアちゃんを見下ろす。
「……」
シスターは嘘がつけない。
ここは沈黙が答えだろう。
「勇者シン・スメラギのためにユラルド泉の聖水を汲みに行くつもりだな?」
「……」
顔が青ざめる。
「行くがよい」
手を広げてマントをひるがえし、道を開ける。
マリアちゃん固まってます。
「さあ行けっ」
ガタガタガタ。
……脅かしすぎたか。
「あの、どうぞ。お気になさらず、お通り下さい」
手を差し出して会釈すると、「は……はい……」と小さく返事してたったったったーと小走りに走って行って、山道を登り出すマリアちゃん。
それを五人でついていく。
「かわいいよね」
「うん、あの碧の瞳がすごくきれい」
「髪の毛何色かな……」
「守ってあげたくなりますわ」
「あんな子ハーレムに入れたらダメだよね、断固阻止」
「……ネタバレ禁止!」
もうー……。黙ってついていけばいいでしょうに。
……それも怖いか。
ぶぉおおおおおお――――!!
いきなり目の前に巨大イノシシが!
すっとファリアが前に出て手で(あっちいけ)とゼスチャーする。
逃げていきましたねー。
きゅわあ――――!!
今度は巨大コンドルが!!
スワンがひと睨みすると飛んで行ってしまいました。
ざぱ――ん!
湖にかかる橋から巨大ナマズが!
サーパスが笑って手を振るとヒレをふりふりして水を噴き上げております。
ぼこっ。ぼこぼこぼこっ。
土からなにか出てきそうになりましたが、マッディーが上にのってとんとんとジャンプすると元通りになりました。なにが出てこようとしてたのか知りませんが切なくなりました。
そのたびに驚いたり悲鳴を上げたりいそがしいマリアちゃんですが、慣れない山道にとうとう跪いてしまいました。息が上がっております。
ファリアがぐいっとマリアを持ち上げて、そのまんまぐるんと手を回して背負う。
「あ……ありがとうございます」
のしのしのし。
「……魔王様」
「?」
マッディーがつんつんと俺のマントを引っ張る。
「おんぶ」
「しゃーねーなー」
そうして山を登って、ようやく夕方に泉のほとりに着きました。
なんで山のてっぺんに泉が沸くんだよとか考えてはいけない。エロゲのシナリオライターにそこまで要求するのは酷という物です。
ファリアが降ろしてやると、お礼を言って泉の湧き口に駆け寄るマリアちゃん。
「あっ」
ガッシャーン!
転んだ!
とんだドジっ子だよ!
せっかく持ってきた瓶が粉々じゃねーか。
マリアちゃん泣きそうです。
ふわあ――しゅしゅるしゅるしゅる……。
泉の水が渦を巻いて空中できらめき、キラキラ光るクリスタルのボトルになる。
「はい、あげる」
それを手に取り、にっこり笑って手渡すサーパス。
「あ……ありがとうございます」
震える手で泉の水を汲むマリアちゃん。
ほっとしてますな。
泉に手を伸ばして、自分もごくごく水を飲んでいます。
のどが渇いていただろうに、それより勇者のための聖水を優先して。
ほんといい子。
「転送っ」
びゅんっ。
いきなりトリューラン郊外です。
おめめをぱちくりのマリアちゃんかわいいです。
「あ……あの、ありがとうございました!!」
ぺこりと頭を下げる。
うんうん、よかったね。
「シスター・マリア」
「……はいっ」
「我は魔王。魔王ファルカス。勇者に伝言がある」
「……!」
「次は無い」
マリアちゃん、もう一度ぺこりと頭を下げて、走って……、途中で思いとどまり、クリスタルのボトルを落とさないように大事に抱えて歩幅を小さくし、夕暮れの街道をトリューランに向かって歩いていきました。
「ニクいねえ魔王様」
「惚れ直しましたわ……」
「かっこつけちゃってさ」
「……でも、よかった」
「ふう――……。ま、これでマリアちゃん、勇者にいくら誘われてもパーティーにはもう入らんだろ。魔王にだって義理立てしそうな真面目な子だしな」
「さすが魔王様です!!!!」
うんそれそれ!
その反応が欲しかったんだよ!
次回「22.異世界で平凡な生活をダラダラ続けるとエタりやすいらしい」




