20.属性は盛りすぎると残念になる
勇者は無事に商隊と一緒に隣の都市に到着したようだ。
ここは確認しておかないと。万一勇者が盗賊に殺されたりするとセーブポイントからやり直しだ。
俺たちもあれから街まで歩いて行ったが幸いもう盗賊はいなかったな。魔王城に戻ってモニターでギルドで報酬を受け取った勇者が宿屋に入るのを確認して、これで一安心だ。
みんなで露天風呂に入って疲れを癒した。
風呂でみんなでファリアのぼさぼさでワイルドな髪をシャンプーしてリンスしてトリートメントしてブラッシングしてさらっさらにしてあげてました。
ファリア喜んでたねえ。
温風でドライヤーとか風魔法のスワンさんいろいろと器用ですわ。
俺ですか? 俺は眼福をさせていただいてその晩は一人でゆっくり休んだよ。
どうやら謎のローテーションにも俺の休みがあるらしい。みんなの配慮がうれしいねえ。
……朝、目が覚めるとマッディーさんが上で弾んでましたけど……。
「もったいないから」だって。
だいなしです。
「勇者どうしてる?」
もうすっかり日課のモニター報告。
「昨日護衛任務が成功したので気を良くしたようですね。今日もトリューラン行きの護衛引き受けて、帰還するみたいですよ」
うん、順調、順調。
トリューランのマッサージ店気に入ったか。マッサージならスワンさんのサービスが何枚も上手だと思うぞ。俺は果報者だねえ。
勇者がしばらくこの護衛商売、続けてくれればこっちものんびりできていいが。
残りは二人か……。
「残りはどんな娘だろ?」
昼食は、当然その話題が上がる。
「当ててみて」
普通に答えちゃうと面白くないからな。
「戦士枠?」 スワンはゲーム通だな。
「それはファリアだな。ゲーム開始時点では勇者が戦士枠だし」
「回復係は……わたしですかね」
「正解。サーパスイベントが早めなのはそのせいだな」
「シーフはミリアちゃん、魔法使いは? 私とマッディー?」
「スワンもマッディーも加入するのは遅めだから、前半それは幼なじみちゃんのポジションだ。あの子魔法すごく強力に成長するし回復もあるから」
「うーん……。あ、遠距離攻撃がいないじゃん!」
「それは冒険者のキャリーンだな。あの子弓使いだよ」
「あーそーだったんだ……」
こほん。
「みんな、普通のRPGで考えるな。これはエロゲーだ。属性で考えるんだ」
「なんじゃそりゃー!」
あっはっは。
「幼なじみ!」
「アイリスちゃんだね。回避済」
「ボーイッシュ!」
「ミリアだな。オレっ娘だったし」
「じゃあお色気ムンムンなお姉さま」
「わたしですわ」さすがですサーパスさんその自信。
「そうするとアタシがマッチョか……」
なぜがっかりするファリア。
「ファリアはどっちかというと高身長だな」
俺は好きだよ。最近は高身長キャラでもメインヒロインやるからな。
「じゃあ私はなによ」
「スワンはツンデレ枠じゃね?」
「私そんなにツンデレてません!」
いやあゲームではツンデレでした。
「獣人系はイナリーちゃんですわね、エルフだったらミス・ビビアンだったかも」
「人妻、未亡人とか……は……」
「……なんでみんな私を見るの? 私はロリ枠でしょう……」
自覚はあるのかマッディー。無口キャラでもいいんだよ。
「ボケ担当、不思議ちゃん」
「意外だがそれやってるのが冒険者のキャリーンだな。回避済」
「メイドさんっ! は、イナリーちゃんか」
「百合っ!」
「エロゲでそれは……」
「薔薇っ!」
「もっとねえよ」
「女王様?」
「女騎士!」
「カトリーヌだ、最後まで仲間にならないぞ」
「残念な美女!」
「それ言ったらアタシたち全員だろ……」
「……」
止まるな止まるな。
「いいんちょ」
「メガネ女子」
「転校生!」
「なんで学園ものがでてくんだよっ!」
「アホ毛」
「ツインテール」
「細かいわ!」
「お嬢様」
「シスター?」
「正解」
おおおおお――――……ぱちぱちぱち。
みんなの視線を集めてスワンがご満悦です。
「と、いうわけで勇者が教会に行ったら要注意だ。ベル引き続き監視を頼む」
じゃばばば~~~~……。
うおおーすげえ――。
空中に浮かんだ巨大な水の玉の中で洗濯物が撹拌してる……。
「あらあら、めずらしいわね魔王様」
魔王城のテラスに上がるとサーパスさんがいた。
「テラス綺麗になったな――っ。埃だらけで苔むしてぼろぼろだったのにいつの間に……」
物干しざおが並んでて洗濯したてのシーツや俺のシャツやパンツまで……。
優雅なお茶会が開けそうな素敵なテラスがなぜかすっかり物干し台に。
「……俺の下着まで申し訳ない……」
「いいんですのよ。好きでやっておりますから」
「俺のパンツも?」
「はい」
いやそんな風ににっこり笑われると冗談だって言いにくくなっちゃうよ。
びゅぅううううう――――。
おっ洗濯が脱水に入ったかな。細かな水が飛び散る。
「乾燥までできるんですけど、やっぱり洗濯物はお日様に当ててあげるのが一番ですわ」
「うん、俺もそう思うよ。って、アパート住まいだったから乾燥機まで買えなかったってのがあるんだけど……」
「ふふっ」
シーツを物干し竿に掛けるのを手伝う。
魔王城はベッドがでかいからシーツも大きいや。
二人で並んで座ってそよ風にはためく清潔な白いシーツを眺めていると、「御無沙汰しており申し訳ありません……」とサーパスさんが言う。
「なにが?」
「夜伽のことですわ」
ああ、サーパスさんは最初は熱心に授業をしてくれたけど、最近は来ないですね。
そのへんは、本人の好きでいいと思うけど。
いや、なんかはずかし――……。
「いえ、お世話になりました。その……嬉しかったです。でも、サーパスさんの自由にしてもらっていいですからね。その? なんていうか? あの?」
「わかっておりますわ。魔王様も上手になって、若い子たちが喜んでおりますから、つい譲ってあげたくなっちゃって」
うふふと色っぽく笑う。ほんっとわずかな布切れだけでしか隠してないから、白い肌の一つ一つのしぐさにムラムラしちゃう……。
「ソープって、一日何人のお客を接待するかご存知?」
ええええ――――っ。
「さ、さん、よにんとか……」
「一番多くて六人ですのよ」
「ええ――っ」
「90分、マットとベッドでおひとり二~三回」
……一日十二回以上も。
生前そんなにしてたんじゃ、俺のとこに通わなくても十分か。
「三休四日のお勤めで。お茶を挽いてしまうこともありますが」
「お茶?」
「お客様がこなかった日のことですわ」
にこにこしてるからどういう気持ちでこの話をしてるのかはわからない……。
「でもねえ、私にも指名してくれるお客様がいるって嬉しいのよ」
サーパスさんが目を細めてふふって笑う。
「したい、やりたい、でも全然モテない。そんな可哀相な殿方がどうしようもなくなってお店に来るの。ものすごく恥ずかしいことなのに、それを我慢して。かわいいわ。たくさんしていってねって、いっぱいサービスしちゃう……」
そうかあ。
「わたしを抱きたい、わたしとしたい、いやらしい欲望丸出しで。こんなうれしいことはありませんわ。わたしを指名って、女冥利に尽きるでしょう。だからなかなかやめられなかった」
ベテランさんだったんですね。わかります。
これもある意味逆ハーなのかもしれないな。
「ここはのんびりしていていいですわ……。みんないい娘ばかりだし」
「そうですね」
「ずっと、こんなふうに過ごせるように、頑張ってくださいね」
「はいっ!」
「もし疲れたら、ご指名くださいね」
「疲れてます。もっのすごく、疲れてますっ! クタクタですっ!」
「あらあら」
にっこりわらって、
「じゃあ、今夜、譲ってもらおうかしら。それとも、こんな気持ちの良い青空の下でおおらかにというのも……」
「んっ……」
「魔王様! こんなところにいたんですか! 勇者が大変なんです!」
いいところでベルが飛んできた。うーん残念。
「どうした!」
「盗賊にやられて、重症なんです!」
……弱すぎるわ勇者。
次回「21.戦闘中にポーションが飲める不思議について」




