2.魔王様には破滅エンド以外のルートが無い
「大丈夫ですか魔王様。お気分が悪いようですが」
「いや、いい……」
ゲームのオープニングが終わって、この後はのどかな田舎町のシーンになる。
幼なじみが起こしに来てくれるんだよ。
二人で教会の日曜学校に行こうとしたところで転んで前世の記憶を取り戻した主人公が勇者の力に目覚めるってイベントが始まるんだけど、俺魔王サイドだからそんなのないわ。その後の魔王サイドの展開も知らんし。
いやエロゲ声優の歌うテーマ曲とかもういいから。
頭の中で勝手に鳴り響くイントロを頭を振り払ってやめさせる。
それどころじゃないから。
……思うんだけど、これ、世界作る時、担当者が世界観設定するのが面倒で市販のエロゲ丸パクリして作ったってことだよね。だからこんなに、なにからなにまで全部エロゲ世界そのまんまってことなんだよね? 手抜きすぎだろ。そこに天界オリジナリティは無いのかね?
今声をかけてくれたのは水の四天王、サーパスだ。
二本足の人魚? みたいな美人さんです。グラマーで豊かなおっぱいと下半身をわずかな布切れで隠して色っぽい。手足から水かきがちょっと生えてるね君。
知ってるよ君、勇者と闘って、負けて、寝返って勇者パーティーの一員になるよね。文字通り「寝返る」よねエロゲだから仕方ないけど。
君が仲間になってくれた時は嬉しかったよ。
でも今は魔王の俺から見たら裏切り者だよ。
「永いこと寝てたんだし、無理すんなよ……」
心配そうにこちらを見る火の四天王、ファリア。
ばいんばいんな見事な褐色の肢体をかろうじて隠す赤いビキニアーマーに燃えるような赤毛の髪。いかにも炎使いって感じ。背が高いマッチョレディー。
君も勇者パーティーに寝返るよね。
勇者にさ、「アタシより強いとは、アンタなら魔王様倒せるかもしれないね」なんて言ってさ。一番最初に裏切ったのが君だよね。
「休んでたほうがいいんじゃないですか?」
ありがとうねスワン。風の四天王さん。透けそうで透けない絶妙な羽衣が素敵です。多少スレンダーながら素敵なプロポーションがまるわかりです。
あなたも裏切るんですよね……。
一回手込めにされただけでああも豹変してしまうんですかね。
魔王に攻撃するとき全く容赦なかったですよね。俺に恨みでもあったんですかね。
「……」
マッディー。あいかわらず無口な子。ロリ枠でしたか、土の四天王。
日本人形みたいな黒髪ぱっつん子ちゃん。ふりっふりのヘソ出しミニの真黒なゴスロリ。悪夢の国のアリスかね。
なにがきっかけでしたっけね? 勇者に「お兄ちゃんお兄ちゃん」と慕ってくるのは。ああ、戦闘に負けた時に殺さないであげたからでしたっけ。
あの時は子供だからと思ってましたが、ありえないチョロさでしたわ。
エロゲだからしょうがないね。
ゲームの中で勇者としてプレイしていた時は君たち攻略対象でさ、君たちをハーレムに入れるのも魔王倒す条件のうちだったっけ。
ハーレム勧誘に失敗すると魔王倒す難易度が上がるんだよ。だから勇者はどれだけ多くの美女や美少女をパーティーに入れられるかがキモなんだ。それが「ハレムっちゃおう」のゲームシステムだ。魔族側で5人。人間側で何人だったかな。隠しキャラとか入れると最後は全部で12人ぐらいいたような……。
「勇者が現れたのです! お疲れかもしれませんがぜひご報告を……」
側近のベル。美少女メイド妖精さん。
身長30cmの極小サイズ。フィギュアかよ……。
パタパタとゆっくり羽ばたいて宙に浮いてる……。
最後まで魔王と共にいてくれる唯一の俺の味方。
魔王城でラスボス前の敵として立ちはだかってくれるんだよね。
条件満たした上で君を倒せば、君も寝返って勇者と共に魔王を倒すパーティーに参加する。
条件は確か、「隠しキャラも含めて11人全員ハーレムに入れ、スチル絵をコンプリートした上で君に勝つ」だったっけ。7周目のプレイでやっと仲間にできたんだよね。
今となってはその難易度が心強いよ。
確信した。これはゲームだ。
ゲームそのまんまだ。キャラも、設定も。
……だってみんなが喋ってるの、日本語なんだもん……。
「報告を聞こう」
まずは現状把握だ。
「はい。勇者、シン・スメラギは……」
「なんだその中二病ネームは!」
「チュウニ病って……。魔王様?」
そうだった。このゲームはプレイヤーが自分で自分の名前最初に入力できるんだった。
なんだよシン・スメラギって。中二病全開ネームじゃねーか。
ってことはあれか? このゲームの勇者も日本人か。この世界の勇者も転生者って設定だったな。ってことは俺と同じで女神にエロゲ主人公として転生させられたやつが今勇者やってるってことになるのかな……。
これは大きな情報だ。
つまり魔王も勇者も日本人。
一度どこかで会って話してみるほうがいいだろうか……。
このままだと俺、勇者のハーレムパーティーに魔王城に乗り込まれて殺されてしまうからな!
どう考えても破滅エンドしか残ってねーじゃねーか!
どこの悪役令嬢だよ!
「……それで、勇者は今どうしている?」
ぺらりと書類をめくって妖精ベルが報告する。
メイド服、かわいいよメイド服。こんなちっちゃくてかわいい妖精っ娘がラスボス前のボスキャラでめちゃめちゃえげつない攻撃してくるからね。
ベルは魔王城の管理者。超強力な状態異常魔法に魔王城の防御、攻撃の全システムを駆使し、この魔王城そのものを武器にして勇者に立ちはだかる。
ラスボスの俺を除いてこのゲーム最強の敵です。
「ここ魔王城より一番遠いパラマの街に生まれたシン・スメラギ17歳は昨日転倒したことにより勇者の力に覚醒、教会で女神の祝福を受け正式に勇者として確認されたところです」
待てよ――――っ!!!
17歳ってダメだろ――――!
エロゲだぞ? 18歳以上でないと主人公としてダメだろ――――っ!
っていうか17歳はまだエロゲプレイしたらダメだろ――――!
この世界の青少年健全育成条例はどうなってるんだよ――っ!!
……女神様、もうすこし日本の法律を勉強してから勇者を決めてくださいよ。
「それで……?」
「今日は王宮にて国王と拝謁。勇者に任命され……おそらく魔王討伐を命じられ明日には旅立つのではないかと」
そうだった。
主人公の勇者は、王様に拝謁して旅立つ前に生まれ故郷に寄って、幼なじみのアイリスと別れの挨拶をし、泣き崩れるアイリスを抱きしめ、その晩ムフフなことになり童貞を捨てて、そこでアイリスを最初の仲間にして一緒に旅立つんだった。
なんというチョロイン。なんというご都合主義。
まーエロゲだからな……。
「……旅立ちを妨害する」
「え?」
「余自ら王都に潜入し、勇者の旅立ちを妨害する」
「今からですか?」
側近のベルが驚く。
「勇者はまだ覚醒したばかり。赤子のごとしです。魔王様自らがお手を煩わすほどの脅威とも思えませんが……」
「いや、行く。そこで傍観するからかつての魔王は勇者に敗れた。獅子は一兎にも全力を尽くす。見逃すわけにはいかん」
「しかし……どうやって」
「勇者の監視はどうやっておる?」
「ネズミ、ハト、スズメなどの使い魔を王都に配置して監視させております」
かわいいな!
ファンタジックで楽しいわ!
魔王一派のやることかよ!
「映像ご覧になりますか?」
「見せよ」
「では」
ベルが手を上に上げて頭上にディスプレイを展開して勇者を見せてくれる。
スズメからの映像か。高い位置からの見下ろしアングル。
……何だコイツ。きもっ。
デブじゃねーか。汗かきながらTシャツにワークパンツ。
あ、スマホ出してる。圏外だよな……。
あー怒ってる怒ってる。でもバッグに入れなおしてやがる。
GPSも電波局も無いからグーグルマップも役に立たんだろ。
あとどれぐらい電池持つかね? 充電切れたら役立たずだよねそれ。
王宮に向かってるぞ。でかい王宮だなっ!
ってそのカッコで王宮行くのかよ!
まあ主人公補正あるからか周りの人も気にしてないようだが。
「こいつが勇者……」
「なんか弱そうですね」
「きも……」
「一太刀で殺せそう」
四天王の反応が最悪ですね。
この主人公はですね、強力な魅了の能力があるんですよ。
いや、そういうスキルがあるってわけじゃなくてね、出会うヒロインがみんなみんな簡単に落ちてしまうんですよ。主人公がこんなやつでもね。エロゲだしね。
実際に会ったら君らどうなるかわからんよ?
そうして、勇者は自分ではほとんど戦わず、レベル上げもせず、ひたすらチョロイン攻略だけしてハーレム部隊に戦わせて自分は寄生でレベル上げするんです。それがこのゲームの一番効率いい攻略法です。
さんざんレベル上げさせてもらっていきなり強くなってパーティーピンチの時に実力出して、「さすがはご主人様です!」っがお約束なの。
ガリでもヒョロでもデブでもオタクでも関係なくモテるの。
頭の上にディスプレイを出したままのちょっと笑えるポーズの側近ベルが俺の苦笑いを見て言う。
「魔王様、王都に向かうとして、転移魔法は健在でしょうか」
そうだった。
勇者と同じシステムかな?
ステータスを念じてみる。あ、出た出た。
うん、転移魔法あるわ。
さすが魔王、さすがラスボス。一通り魔法なんでもあるわ。
実力も大したもの。一応この世界で最強だもんな。
最初タイトルをシンプルに「エロゲの魔王様」にしようと思いました。検索しても意外なことに一致するものがありませんでしたので。でも自分がこんな作品で使ってしまうのもなあと思い、自粛。
次回「3.誰でもなれる職業って底辺なのは異世界でも変わらない」