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19.盗賊(シーフ)が正業と認められている世界っていったい


 魔王城のモニター室。街道を四台の馬車に揺られて、先頭の御者のとなりで剣を磨いている勇者の映像が映っている。

 カラスさん追跡ご苦労様です。画面が揺れて見にくいので手振れ補正とかありませんかね。


「これはランダムイベントなんだが……」

「ええええ――――!!!!」

 つまりイベントに当たるまでずーっとこれ続けないといけないということで……。


「エンカウントする盗賊団の中に一人だけ女の子がいる。シーフのミリアだ」

「盗賊団の中に女の子がいるってどうなのよ」

 エロゲですから。


「勇者は盗賊を退治したとき、そのシーフの()だけは殺さないんだ。『俺は女は斬らん』とか言って」

「うわあ……」

「ベタ……」

「なにそれ……」

「くせえ――っ……」


「そしたらさ、『オレをパーティーに入れてくれよ!』ってなるんだ。そうやってパーティーメンバーになるの」

「オレっ()ですか……」

「盗賊でしょ? 勇者のパーティーに入るっておかしくない?」

「シーフとしてのスキルがある。鍵開け、罠解除、敵索、マッピング」

「そうかあ、パーティーに一人は欲しい人材だね。入られたらやっかいか」

 スワンも納得っすね。

「……私たちにはいらない」

 うん、俺たちダンジョン用意する側だしね、いらんスキルだねマッディー。


「その娘、かわいい?」

「かなり。美少女で髪はピンクのポニーテールでめっちゃ露出度高い服着てる」

「……」

 うん、いろいろおかしいとは思います。言いたいことはよーくわかります。

 でもビキニアーマーやどう見てもエロ水着やスケスケの羽衣やフリフリのゴスロリの君たちはそれ言っちゃいけないと思うんだ。


「私たちで先回りしてその娘を殺しちゃうのぉ……?」

 それはさすがにイヤだよなスワン。

「それはやめとこう。ヒロインの死亡イベントはこのゲームにはないから」


「ってことは私たちの死亡イベントも無いと」

「無いよ。道に立ちふさがる君たちを戦闘イベントでボコボコにしてライフをゼロにしても、次には仲間にするかどうかの選択肢になるから。死亡するのは魔王だけ」

「魔王様不憫ですわ……」

 ありがとねサーパス。だから回避全力でがんばってるの。


「仲間にしなかったらどうなるの?」

「それっきり出てこない。会いに行っても、おんなじセリフの繰り返しになるだけでモブと同じ」

 例外はあの女騎士だな。あれは何度でも挑戦できる。


「じゃ、勇者より先にヒロイン倒して仲間にしなけりゃOKと」

「いやっ倒して仲間にするヒロインなんて限られてるから! 物騒なこと考えないで!」

 無駄にゲーム知識があると発想が怖くなるなスワン!


「……シーフの娘、仲間にするの魔王様……」

「もうお腹いっぱいだよマッディー」

「あっはっは!! じゃ、出発しようか。早くいかないと先越されるだろっ」

 ありがとなファリア。よしっ、じゃ、行くか。




 勇者の護衛する商隊に、追いつかれないように細かい転移を繰り返しながら(あっちは馬だけどこっちは歩きだからね)例によって村娘とその護衛のふりして先行する。

 一組野盗を釣ることができたけどハズレだった……。


「止まれ!!」

 ばらばらばら……。

 ミリアキタ――――――――!!

 なんという引きの良さ!

 ゲームでは二時間ぐらい往復したよこの街道!

 うわあすげえ美少女!!

 こんな娘があんな露出度の衣装着て仲間にいて我慢できんのかね盗賊諸君!


「みんなわかってるな!」

(えん)っ」

(とう)っ」

(じょ)っ」

(そく)っ」


 ばたばたばた……うぎゃああ――――……ぐえっ……。

 十一人いた盗賊団がミリアを除き一瞬で即死させられ、倒れる!


「えっ……」


 あまりのことに棒立ちになったミリアに俺が縄を投げつけ、逃げられないように縛り上げる。うーん柔肌に食い込む亀甲模様。新たな性癖に目覚めそう。


「……なんでそんな技術あるの魔王様」

「いや、なんかできたし。魔王のスキルかな」

 実は勇者のパーティーメンバーの女の子がランダムで一人誘拐されて「女の命が惜しければ取り返しに来い」ってイベントあって、そこの一枚絵が全裸で亀甲縛りなんです。

 あのイベント魔王がやってたのか……。ゲーム内では謎の男でしたけど。


 みんな半目でにらむのやめて。そんな趣味ないから俺。


「くっ、殺せ!」

 それ女騎士のセリフですミリアちゃん。


「殺さないよ……。君、シーフのミリアちゃんだね? こんなところで死ぬわけにはいかないはずだ」

「なぜオレの名を知ってる!」

「奴隷に落とされた君の妹さんを買い戻すためにこんな仕事してることも知ってるよ。やつらに脅されてたんだよね」

「くっ」

「君を脅していた盗賊たちはみんな倒した。もう君は自由だ」

 そう言って縄をほどいてやる。


「これを受け取って」

「……なんだこれは」

「金。千G入ってる。これで奴隷商から妹さんを買い戻してあげなさい」

「……」

「見逃してあげるから、盗賊(シーフ)なんてやめて妹さんと二人で静かに暮らしてくれ。約束してくれるなら、そのお金はあげる」

「断ったら?」

「野盗として衛兵に突き出す」

「あは……はははは……」


 ミリアちゃんの瞳から涙がぽろぽろこぼれ落ちる。

「それじゃあ、オレに選択肢なんてないじゃないか……あははは……」

 金袋をミリアちゃんに押し付ける。


「妹さんと幸せにな」

「ありがとう……。あんた、何者なんだ?」

「俺は魔王ファルカス。困った女の子をほうっておけない、ものすごいスケベ大魔王なんだ」

「なんだよそれ……。あはははは! ぐすっ」


「じゃあな!」





「おかえりなさいませ!」

 魔王城に戻ると、イナリーちゃんが出迎えてくれた。

「見てましたよ魔王様」

 モニターしてたかベル。まあそれが君の仕事だからね。


「いやあカッコよかったよ魔王様!」

「はいっ、惚れ直しましたわ」

「あんな事情があったとは……。なんで言わなかったのよう」

「……魔王城に来てもらいたかった……かも……」

 みんな目がうるうるしてます。


「俺もあの子はかわいそうだと思っててね、なんとかしてあげたかったんだよね……」

「そうかー……。そうですよね」

「ゲームだとどうなんの?」

「勇者の仲間になったあと、お金のことでギャーギャーうるさいキャラになってさあ。戦闘やエキサイトシーンのたびに勇者から金取るの。がめついよーっ」

「ああ……あんな事情があるんじゃね……」

「有料なんですか……」

 スワンもサーパスも苦笑い。

 君たちも前世は有料でしたよね。


「妹ちゃん解放イベントもあるんだけど、その後パーティーから抜けちゃうから戦力ダウン。シーフがいないと攻略が難しいダンジョンとかもあるから、パーティーに入れておいてミリアイベントは進めないってプレイヤーは多い」

「ひどっ」

「勇者の仲間になってるほうがずっとひどい」

「そういうこった。俺の名前も明かしたし、盗賊(シーフ)もやめさせたし、これでミリアが魔王倒す勇者パーティーに入ることはもう無いな」

「魔王様に恩ができちゃいましたもんねえ」

「……さすが魔王汚いな魔王」


 ……あの、そのセリフ普通に言ってもいいんだよ?

 ほら、あの「さすが魔王様!」とかさ。

 無いの?

 ねえ無いの?




次回「20.属性は盛りすぎると残念になる」

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