18.四天王が四人まとめてかかって来た時の恐怖
「昨日はお楽しみでしたね!」
やめてそれ、マジやめて恥ずかしいから。みんなで合唱するの。
「ヤってないっ、ヤってないから! ねっ魔王様!」
うん、ヤってはいないんだけど、朝にももう一回、してくれました。
「なにをいまさらですわ……」
ニヤニヤやめてサーパスさん。
「私ヘルスだから! 本番はありませんからっ」
「あらあら」
「してないから」
「……でも、『戦闘中にMP切れしたから私もMP欲しい』って言ってた」
それでかー……。
知りたくなかったよマッディーさん。
「……朝ごはんにしていいですかね」
「腹へったー……早く食おうよ」
はい、ありがとファリア。食べよう食べよう。
「では今日の恵みと安息に感謝を。いただきます」
「いただきまーす」
「ベル、勇者どうしてる?」
「トリューランのマッサージ店で……」
「わかった。もういい」
「まだあるんですけど」
「食事中」
その報告食い終わってからにしてくれよ。
「なあ、勇者のハーレムパーティーって、全部で何人?」
ファリアが聞く。
「最大十二人」
ぶほっ。全員吹き出す。
「そんなに一度に相手できるものですかね!」
そこですかサーパスさん。
このゲーム自由度が売りの反面、組み合わせが膨大になってしまうので3P、4P、5P等の複数プレイはありませんよ?
十二人全部集めてクリアすると最後全員ベッドで「コンプリートおめでとう!」って一枚絵はありましたけど。
「……とにかくだ、ここまで四天王とベルは今後勇者パーティーと合流する可能性はないとして、イナリーちゃん、幼なじみのアイリス、女冒険者のキャリーン……八人も回避できてるな。あと一人、女騎士のカトリーヌってのが王都にいるんだが、これを攻略するには勇者のレベルが全然足りてないし除外していいな。そうすると九人か。残りは三人ってことになる」
「……すげえ、魔王様すげえ」
「見事なフラグの折りっぷりだね」
「十二人と聞いたときは無理かと一瞬思いましたけど、勇者がまだ旅立ってもいないのにあと三人……なんか、うまくいきそうな気がしてきましたわ」
「……聞いていい?」
「ん?」
マッディーが手を上げる。相変わらずの無表情。
「……私、どうやって勇者の仲間になるはずだったの?」
「キカラダンジョンの中ボスとして待ち構えている君を倒せば仲間になる」
「アタシは……?」
「ファリアはイルコン川の橋で待ち構えている君を倒せば仲間になる。
「わたしは……」
「サーパスはギニョ川で待ち構えている君を倒せば仲間になる」
「私……」
「プリン山の風洞窟で待ち構えている君を倒せば仲間になるよスワン」
「なんだよそれ……。四天王のシナリオ安直すぎ……」
ファリアをはじめとして四天王、全員脱力ですな……。
エロゲですから……。
「魔王様はどういう順番で私たちを派遣するわけ?」
「魔王城までのルートの通り。イルコン橋でファリア、ギニョ川でサーパス、キカラダンジョンでマッディー、プリン山でスワンの順」
「魔王様は私を最後までとっておいてくれるんだ……」
なにうっとりしてるんですかスワン。
誤解を招くような発言はしないでください。
ほらーみんなの目が……。
「げ、ゲームの話だからね! 俺はそんなことしないよ! だいたい四天王をひとりずつっておかしいだろ。レベル上げ途中の勇者なんて全員で叩けば簡単に潰せるのにさ」
「確かにそうですね。この前野盗を退治した時も全員であっという間に倒せましたもんね」
「だろー、サーパスの言うとおりだよ。ゲームのお約束なんかこっちは守ってやる義理なんてないんだからさ。これからも事あれば全員出動でいくからね」
「了解です!!!!」
「ゲームの四天王ってどうしてバラバラにかかってくるんだろうねー」
スワンのツッコミはいつも面白いな。
「あっはっは、そりゃゲームの都合だろ。だからゲームの四天王は仲が悪いという設定が多い」
「なるほど、そういう設定なら一緒に戦わなくても不自然じゃないよね」
「アタシたちは仲いいもんね」
「竿姉妹ですものね」
……そんなん初めて聞きましたわサーパスさん……。
「みなさん食べ終わりました――?」
ベルが報告したがってるな。
「お茶にしようか」
「聞け――――!!」
あっはっは。イナリーちゃん食後のお茶を頼むよ。
「勇者はトリューランのマッサージ店が気に入ったようです。しばらくはここを本拠地とするようです」
「ふむ、なるほど」
知らんぷりしてますが、このゲーム町々に風俗店があって、いろんなサービスがありますよ。場所によってはSMも。
女王様を仲間にするようなイベントはさすがにありませんが。
武器屋と宿屋と道具屋と並んで風俗店……。
エロゲですから。
「なのでトリューラン周辺の魔物に注意喚起して、勇者を見たら逃亡、もしくは隠れるという従来通りの作戦を地道にやりましょう。周知を徹底しておきます」
うん、レベル上げの妨害は重要だね。参謀優秀。
「今日の勇者は?」
「ギルドに行って仕事を探してました」
「多少の金は稼がせてやらないと、勇者餓死しちゃうからな。それぐらいは大目に見るか……。どうせたいした依頼はこなせないだろ。魔物いなくても薬草ぐらいはむしれるし。じゃ、みんな今日は全員で買い物行くか」
「賛成――!」
「さんせい――!」
「うわー楽しみ!」
「全員でおでかけって初めてだよね!」
みんな嬉しそうだ。
「じゃあ、私はお留守番しています」
「ごめんねイナリーちゃん」
「いいえ、私が一番多く買い出し行ってますから」
「じゃ、なにかあったら連絡します」
「頼むねベル」
町娘のかっこうして、王都の路地裏で全員におこずかい金貨百枚ずつ渡して、うーん、まあ自由行動にするか。たいして問題起きないだろうし。
サーパスとスワンの風俗嬢コンビは美容用品が目当てだ。
男は俺しかいなくても、それでもいつも綺麗でいたいのは女の本能か。
俺もイナリーちゃんも高級品とかわからないから無難なものばかり買ってきちゃうらしい。自分で探してみたかったんだと。
ファリアはマッディー肩車して(目立つわ!)買い食いに向かうようです。
食いすぎるなよ?
俺はみんなからもらったアイテムとか金銀財宝とかを現金化。
行きつけの買取店もできて慣れて来たね……。
水のサーパスと風のスワンの合作、香水瓶。
香水が風の魔法でしゅっしゅっと噴出す仕掛けが大好評だ! 通常のクリスタルの小瓶の十倍の値段が付いた。
大量に仕入れたいらしいが、あんまり作れないって言っても、それでもと頼まれたよ。王侯貴族に売れそうだと商人も乗り気だ。二人に教えてやったら喜ぶな。
武器屋とか道具屋とか回るのも楽しいよ。
武器は魔王城に置いてある物のほうがずっと良品だね。
ポーションや薬草は多めに買っておくか。
いつか使うこともあるだろう。
勇者の敵は回復手段あったらダメって決まりはないだろ。卑怯じゃねえよ。
お昼は全員でレストランで食べよう。噴水公園に十二時に待ち合わせ。
ばさばさばさばさばさ!!
ハトが飛んできた!
何事!
『魔王様! 勇者動きました!』
使い魔がベルの声で喋るうううう――――気味悪いいいい――!
みんな連絡を受けて噴水広場に集まってきた。
「せっかく午後からは美容院に行こうと思ってましたのに……」
危なかった。髪切ってる途中に店にハトが飛び込んで来たら美容師さんに驚かれるよねサーパス。耳尖ってるけどエルフって言い張ればなんとかなるか。
「なんかあったか?」
ファリア、マッディー、肩車で串焼き両手持ちはやめなさい。
君たちがそれやるとまるで四本の手に剣持った動くシヴァ像ですわ。
「連絡によると、勇者は商人の馬車の護衛を引き受けたらしい」
「なるほどー。確かに魔物は私たちで逃がしたり隠れさせたりすることはできるけど、野盗相手にならレベル上げも可能だね」
「野盗出なくて経験値は入らなくても、護衛料は入るしな。悪くない手だ」
うんうんとスワンと二人で頷きあう。
「多分商隊の護衛してる冒険者のキャリーンちゃん見て思いついたんだろうな」
「で、どうするね。アタシたちで先回りして野盗退治しまくる?」
「え――、それってキリないよ……。私の休みが無くなるう」
「いや、野盗とは言っても相手は人間、魔物を倒すほど経験値は入らない。野盗をいくら倒したところで冒険者として食っていける程度にしかレベルは上がらんから本当なら放っておいてもいいんだが……」
「イベントですか?」
「そう」
正解だよ、サーパス。
次回「19.盗賊が正業と認められている世界っていったい」




