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17.出会うきっかけさえあればというのは負け惜しみかもしれない


 うーん……。

 ベッドで伸びをするとイナリーちゃんはもういなかった。

 メイドさんですからね。朝食の準備とかありますからね。早起きさんです。


 イナリーちゃんに「もしかして順番とか決まってたりして」というと、実はそうだって言ってた。あー、言わないでいい言わないでいい。それ以上は聞きたくない。


「強要されたりはしてないよね?」

「もちろんです!」

 うん、それならいいや。

 ここに来るのは自由意志と。

 うん、いい。とっても。


 スワンさんとだけは未だ、まだなんにもありません。

 元々、ヘルスの人だし、前世ではストーカーに刺されて死んだからね……。

 男性恐怖症もあるのかな。




「まだまだ遠慮があるよっ魔王様! 本気で来な!」

「おりゃああ――――!」

 がしっ。がきん!


 ここんとこ毎日ファリアと剣の訓練してる。

 いやあ上達したよ。最初木刀使ったんだけど一度打ち合わせただけで真っ二つに折れちゃったね。俺たち強いわ。

 今は練習用の鉄棒で殴り合ってる。それでもぐにゃっと曲がっちゃうことあるからもうだいぶ太い鉄棒になってるぞ。

 魔王城だけあってね、倉庫に行くと剣でも槍でもなんでもあるんだ。

 二人とももちろん両手剣。日本人としてチャンバラやるならこれに限る。


 魔法使いズはそれぞれの属性の細かいコントロールに磨きをかけてる。

 怖えよ。即死攻撃だからね。

 俺との特訓が終わったファリアもみんなに混ざって炎のコントロール練習してるわ。


 みんな絶好調っすね。

 夜が絶好調っすからね。

 そんな中、スワンさんだけはMP切れるの早いです。

 ポーション飲みながらやってます。



「魔王様――――!」

 ベルが飛んできた。

「勇者、動きました!」

 来たか……。次のイベントだ。

「ひいい……ちょっと休ませて」

 無理やりでも連れてくよスワン。はいはいお姫様ダッコ。



「どっちだった」

「トリューランへの街道ですね……」

 見張らせていた複数の街道のうち、この方向はキャリーンさんイベントですな。勇者が歩いている路上で発生だ。

 みんなでモニターを眺める。


「なにが起こるんだい?」

 俺の頭の上からファリアが聞く。肩の上に双丘がぽよんと乗っかって気持ちいいです。

「この先、商人の荷馬車隊が野盗に襲われるんだ。商人たちは全員殺され、ただ一人乗っていた護衛の女冒険者キャリーンも野盗に捕えられ、野盗たちに凌辱され……」

「うわあ……最悪……」

 全員、ドン引き。


「そうになったところで偶然通りかかった勇者がそれを助け、感謝したキャリーンが勇者のパーティーメンバーになる、というイベントだ」

「ベタ」

「安直」

「チョロすぎ」

「……やりなおしを要求します」

「いやこれエロゲだから」


 にらむなにらむな。俺のせいじゃないだろ。

 君たちねえネット小説で一番人気のある展開知ってる?

「正ヒロインを奴隷商から買ってくる」だよ?

 それに比べればまだマシなほうだと思うよ俺は。


「で、魔王様はどうする? 先に助ける?」

「いや、俺たちがここで助けるとシナリオが変わる。勇者にバッタリ会ったりする可能性もあるからな」

「それで?」

「俺たちで先に野盗を退治してしまおう。そうすれば……」

「ナイスアイデアですわ。魔王様!」

「みんなには初の実戦になるのかな? 大丈夫?」


「まかせとけ!」

「頑張りますわ!」

「……野盗……容赦しない……」

「私は、人を殺すのは……ちょっとヤダな……」

 スワンさんだけが気乗りしない感じですな。

 ゲーム好きだったと思うけど。


「現実とゲームは違うでしょ? いくら野盗でも人を殺すってのは……」

「でもこの世界エロゲだからな。モブはタダのゲームキャラだし」

「ほんとー? それ」

「実は、やってみないとわからない……。ベル、人間殺したらどうなる?」

「え、人間ってアイテム残して消えちゃうでしょ」


 ……。


 そうだよね。

 ゲームに出てくる盗賊なんて魔物と扱い同じだよね。

 勇者はリアルに死んでましたけどね。あれと魔物は別ってことっすかね。


「さーみんな着替えて、着替えて」

 いつものビキニアーマーや羽衣の上に、町娘の格好を重ね着します。

 元々下着や水着みたいなカッコですからね。そのまんま着れますわ。

 マッディーは……標準装備がふりふりのゴスロリだからそのまんまでいいや。

 俺も魔王の鎧はやめて、平民服で行く。


「準備いいか? 剣とか杖はスカートの中に隠せよ」

「おっけいーっ」

「魔王様は?」

「全員女だけで歩いてたらかえって不審だろ。俺はみんなの弱そうな護衛ってことで普通の剣だけ装備しとくわ。じゃ、転移すっぞ。ベルも同行しろ。勇者と商隊馬車の合流予想地点出せ」

「はいっ」

 ぶんっ。

 これもトンビ映像かな。こんもりとした森の中を行く危なそうな道だ。

 よしっ……そこをイメージして、と。


「いってらっしゃいませー。お気をつけて!」

 イナリーちゃんに見送られて、転移!

 トリューラン街道に到着。

 やべえ、どっちだ?


「ベル、索敵」

 ぶんっ。

 ウィンドウ展開して見てる。便利な奴だな……。


「こっちです。500メートル先!」

「この世界メートル法だったのか……」

「え、何かおかしいですか?」

「いやなんでも。よし、みんなでだらだら歩いていこう。楽しそうにな」

「うーん、じゃあ、魔王様の性癖しりとりで」

「できればそれ以外の話題でお願いしますサーパスさん」


 みんなでキャッキャウフフしながら歩いてると、ばらばらばら!

 現れましたね盗賊が森の中から! 剣を抜いてぶんぶん回して。

 後ろにも! 総勢十人ですか。あっという間に取り囲まれます。


「よう兄ちゃん、いい女ばかり連れて歩いてたいしたご身分だな。今すぐ丸裸になって立ち去りな」

「お断りいたします」

「言うこと聞けば命は助かるんだぜ? 俺らもお前の斬られて血が付いた服なんて着たくねえ」

「それでもです」

「じゃ、死ね」


(えん)っ」

 ファリアが短く唱えると、今俺に斬りかかろうと剣を振りあげた盗賊がごうっと火に包まれる。

 人体発火だね。体そのものが燃えているんだから防ぎようがないですな。

「うぎゃああ――――!!」

 火だるまになって転がりますが消せません、消えません。


(とう)っ」

 サーパスが唱えると後ろの男がけいれんして倒れる。

 心臓を凍らせた。水のコントロールの基本的な魔法だが使い方では防御不能な即死魔法になるわけだ。


(じょ)っ」

 マッディーが唱えるとこれも横の男がいきなりバッタリ倒れる。

 これはちょっと複雑だけど、血液中の鉄分を根こそぎ奪う魔法。

 これやると血液が酸素を運んでくれなくなってたちまち酸欠になる。


(そく)っ」

 スワンが自分に触れようとした目の前の男に指さして唱える。

「うぐっ……」

 男、のどを抑えて、ひきつって倒れ、断末魔。

 これが一番ひどいかな。空気の流れを止めるかんたんな風魔法。でもそれを気管でやられると窒息するよね。即死はしない分残酷かも……。


 ……これの実験台になって死ななかった俺もすげえよな。


 みんなが次々に野盗たちに魔法をかけ、俺は残りを普通の剣でスパスパ斬ります。


 全員、ぶっ倒れて……。

 そして、消えました。小銭とか剣とか残して。


「……ほんとゲーム……」

 蒼い顔してスワンがつぶやく。

「なんかホントにゲームの世界に来たんだって、今更ながら実感したよ」

 だよねーファリア。エロゲだけどね。


「さ、回収しよう。勇者とヒロインが来るぞ。隠れなきゃ」

 みんなで小銭や剣拾って、森に隠れる。ベルが認識阻害かけてくれるから完璧だね。


 東から商隊の馬車が二台来た。

 先頭馬車の御者のとなりに座ってる軽装な武装した明るそうなサイドポニーの冒険者風女の子。

 キャリーンちゃんだ……。かっわいい――!

 俺は今感動しています! 本物です!


「あんな女の子が冒険者で一人で護衛とかさあー……」

「無理ありすぎでしょー……」

「……シナリオどうなってんの……」

 うるさいわ。



 しばらくして、西から勇者がやってきて……。

 馬車に道を譲って路肩にずれた。

 キャリーンちゃん、勇者にかるく会釈して……。

 行っちゃったよ。


 勇者は振り返って、じーっとキャリーンちゃんの馬車を見送ってた。

 見えなくなると、何事も無く、東目指して歩いてゆく。



 出会いイベント回避成功!!

 やったねえー! あっはっは!





 コツ、コツ。

「どうぞーっ」

 夜、ノックの音に応えると、ドアを開けてスワンさんが入ってきた。

 ちょっとびっくり。

「お邪魔しますー。お風呂入ってた?」

「うん」

 俺、ちょうど部屋のバスタブに浸かってた。

「やっぱり日本人は風呂だよ。こんな風呂でも入っておかないと、一仕事終わったって気がしない」

「だよねーっ」

 今日は露天風呂は中止。水係のサーパスも湯沸かし担当のファリアも早く寝ちゃったからね。


 スワンさん、するすると羽衣を脱いで裸になる。

 スレンダーだけどスタイルいいです。魅惑的。

 ちゃぷんってバスタブに入って来て、体を重ねます。ざぱっ……。

 お湯があふれる。


「私が来てびっくりした?」

「うん」

「ごめんね待たせて」

「いやぜんぜん」

「なに? 私とはしたくないと?」

「いえっそんなことは!」

「あっはっは」


 にゅるんにゅるん、擦り付けてきます。

「私ねー最後、ストーカーに刺されたでしょう?」

「うん」

「だからね、ちょっと男性恐怖症っぽくてさあ」

「うん」

「無理だなーって、思ってたの」

「わかる」


 ぴたっと体をくっつけて。

 むくっむくっと俺の俺が。


「体も、魔物になっちゃって」

 身を起こして、ぶわさっと羽を広げる。

 水滴を飛び散らせて、水鳥みたいな綺麗な白い羽。

 ああ、風の四天王さんでしたっけね……。

 羽あったんだ……。


「でもね、魔王様がイナリーちゃんつれてきて、毎晩寝てたでしょう」

「うん」

「獣人で、奴隷で、娼婦でしょう? 正直、『よく抱けるなー』って思ってたの」

「……」

「でも、あれでみんなの意識が変わったね。この男なら、魔物になった私たちとも寝てくれるんじゃないかって。女として見てくれるんじゃないかって」

 そうだったのか。


「みんな、魔王様に抱かれて幸せそうで、羨ましくなっちゃった」

「そうかー」

「うん、あ、この人関係ないんだ。相手、誰でもいいんだって」

「言い方」

「あっはっは、ごめんごめん、そう……偏見ないんだって。どんな子にも」

「童貞の二次オタでしたから」

「かっこわる」


 きゃはははってスワンさんが笑う。


「私も、魔王様を気持ちよくしてあげたいなーって。サーパスからいいものもらったし」

 ざばって、お湯から上がって、タオルで体を拭く。

 手で即されて、俺もお湯から上がると、拭いてくれる。


「……まかせてもらっていいかしら?」

「おねがいしましゅっ」

 噛んだ。

 にっこり笑ってくれて、ベッドに招いてくれて、サーパス印のローションをクリスタルの瓶からとろーりと……。


「ヘルスに来るお客様はね、ソープよりヘルスのほうが好きなのよ。それぐらい気持ちいいの。魔王様にも教えてあげる……」


 すごいわ。


 これぞプロの技……もう無理になるまで天使に昇天させられ続けましたです俺……。



次回「18.四天王が四人まとめてかかって来た時の恐怖」

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