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16.一人で迎えても朝チュンは朝チュンなのだろうか


 チュン……チュンチュン……。

 スズメの鳴き声がする。


 いやスズメの鳴き声がするって大した変化だよ。前はカラスの鳴き声しかしなかったからね魔王城。


 うーん、目覚めると柔らかい……。

 むにゅっ。うあ、二つの巨大な……。

 ファリアが仰向けで大の字で爆睡してて、俺はその上に乗っかってうつ伏せで顔うずめて寝てました。

「ファリア! ファリア!!」

 ぺしぺし、顔を叩く。

「んー……あ、魔王様おはよう」

「おはよう」

「ん? あ? あ――――!」

 ファリアが俺をぎゅーって抱きしめて笑う。

「フツーに朝だ!」

「フツーに朝だね!」

「無かったことにならなかった!!」

「ああ!」


 あーよかった。勇者が死んでも、この世界はなくなったり、やり直させられたりしないんだ!

「よかったー……。信じられないや」

「何かの間違いかもしれないし、もう一回、確認しよう」

 ファリアに思いっきり、やらしいキスしてから……。



「昨日はお楽しみでしたね!!!」

 朝食を取りに行くとみんな既に集まっていて合唱されてしまったよ。

 てれってれですファリアさん。

 なんか妙に女っぽくなってませんか? いや女だけどさ。


「何事も無かったなー」

「何事もなかったですねー」

 ベルが返事する。

「勇者の死体は?」

「消えてました」

 ぶんっ。ダンジョンの映像出してくれる。コウモリ目線かな? 天井からのアングルだ。

「食べられちゃったとかは?」

「……帰る前に放置しておくように命令しておいたでしょ」

 そつがないねマッディー。ダンジョンの女王様。


「勇者は宿屋にいるのか?」

「はいっ確認しました」

 ぶんっ。

 ベルが頭の上に手広げて出してるディスプレイの映像が切り替わる。

 スズメ目線ですね。あちらは一人でさみしく朝チュンか。

 ベッドでまだ寝てるよ勇者。


「よしっ、あいつが起きる前に済ませちまおう。イナリーちゃん便箋と封筒」

「はいっ」

 用意してくれた書簡に、「『パイアグラです。お使いください。あなたのファンより』って書いて」と頼む。


 さらさらとイナリーちゃんが書く。

「なんでイナリーちゃん?」

「こういうのはね、女文字のほうがいいの。男の文字だったら怪しいでしょ?」

「女文字でも十分怪しいと思うけど……」

 おっしゃる通りですスワンさん。パイアグラですからね。どっちにしても怪しいですよね。

 素早く封をされた封筒を受け取り、超強力ED治療薬パイアグラの瓶をポケットに入れて、「転移して勇者の宿に行く。ベル一緒に来てくれ」と声をかける。

「はい!」

「認識阻害」

「どうぞ!」

 ひゅんっ。


 勇者の部屋の窓にぶら下がり、こっそり窓を開けて、瓶と手紙を置く。

 ばたっ。

 わざと音を立てて窓を閉め、手を放す。

 三階の窓から落ちる途中で転移して、魔王城に戻る。


 ……食堂に誰もいねえ。

 モニター室か。

 魔王城の回廊を走る。

 おー全員スズメ目線の映像眺めてますな。

 「どうだ?」

 「起き上がって怪しそうに見てましたけど、手紙読んで今ゴクゴク飲んだところです」

 イナリーちゃんが教えてくれる。

 勇者、こちらに背中向けてベッドに座ってる。

 ケツが見えてます。よしっパンツ脱いでる。

 自分の股間を眺めてますな。

 しばらくして……。


「やだ――!」

「ひいい――――!」

「うわあ……」

「ぎゃああああ……」


 女性陣から悲鳴が上がります。

 確認ですか。

 確認しないといけませんよねえ。

 最悪な光景ですけど、これは見届けないといけませんねえ。

 ぴくっぴくっぴくっ。


 終わったか。

 勇者、手を拭いております。

 肩が震えております。

 泣いております。

 そんなに嬉しかったか。


「……よかったですね、勇者さん」

 優しいのうイナリーちゃんは。

 君が責任感じることじゃないけどね。


「あーよかった。これで一件落着だな。さ、みんな食堂に戻って朝食にしよう」

「食えるかあああああ――――!!!」


 ん? なんで?

 俺は食うよ。

「アタシは食うよ。腹へった……」

 さすがですファリアさん。大人になった女性は違いますね。




「勇者どうしてる?」

 昼になってベルに声かける。

「今日は外出しないみたいです。宿にいます」

「決まりだな」

「なにがですか?」

「勇者は死んでも死んだ記憶がある。死んでも宿屋からやり直しなことも理解してる。そして日付が変わればセーブポイントにセーブされることもわかってる」

「なるほど……。つまり男性機能が復活したところでセーブをしておきたいと。だから今日は宿屋でおとなしくして日付が変わるのを待ってると」

「そういうこと。たぶん俺たちが知らないところで何回か死んだことがあるんだろうな」

「それにしても、死んでもやり直せるって、ズルいですねーっ」


 まあなー。

 一種のループものというか、そういう世界にきちゃったかと思ってるかも。

 案外これはエロゲじゃなくて、そういう異世界ラノベ、ネット小説の世界だと勘違いしてるかもな。


 異世界でハーレム作って美少女とやりまくり。

 それって、俺から見たらエロゲだけど、若い奴にしてみればラノベかもしれない。

 さっぱりやりまくれてないですけど勇者。


「ハレムっちゃおう」の世界はイベントの自由度が高い。

 どのイベントからやるかはプレイヤーに任されている。

 ここまで勇者は知っているイベントを順にこなすのではなく、成り行きでいきあたりばったりのイベントをこなしては失敗している。必要レベルが足りてないダンジョンにノコノコ出かけちゃうことからそれがわかる。

 つまりこの世界のゲーム知識がまるでないことははっきりした。

 逆に言うと、勇者が次になんのイベントを起こすかが予想するのは難しい。


 簡単で、今のレベルでも実行できそうなやつというと……。

 アレかなあ。


 ま、今日は一日、勇者は宿出ないから俺たちもお休みかな。

「監視続けて。何かあったら連絡して」

「はい、勇者にイエダニくっつけてますので宿出たらアラーム鳴りますよ」


 そんな使い魔までいるの……。




「今日は休み! 買い出し行くぞー。行きたいやつー!」

「はーい! 私! 私行きたい――!」

「私もですわ――!」

 スワンとサーパスか……。

「君たちは見た目も衣装も魔族だからなー。耳尖ってるし、サーパスは水かきも足ヒレもあるし……」

「えええええ――――……」

 ファリアはニコニコしてるなあ。前回の買い出しはファリアだったから今回は譲る気かな。

 マッディーは外出にあんまり関心ない。引きこもりになりつつある。

 買い出しの話聞いてカリカリ買い物リスト書いてる。

 花の種か。いいねー。

 お菓子のリストもすごいですけどね。


「イナリーちゃん、二人のサイズ計って。着られる服を俺たちで調達してこよう。帽子とか手袋とか靴とか、隠せるようなアイテムも話し合って決めて」

「はいっ」

 三人で嬉しそうに買い物相談してるね。

 スケッチ? というかファッション画まで書いてさ、指示がいちいち細かいわ!


「ファリア、食いたいものあったら遠慮なく書けよ」

「いやアタシそう食い気ばかりじゃ……。いや、何でもないです。書きます」

 はっはっは。



「あの、魔王様、これ、売れるでしょうか?」

 うわー……綺麗なクリスタルみたいなガラス瓶だ……。

「すげえよサーパス。これ作ったの? 水の魔法で?」

「はい。水をイメージして固めるとクリスタル化させることができるようになりまして」

 やるなあ!

 これ入っているのはなんですかね。とろっとしてて、化粧水?


「ローションですわ」


 ……さすがです元ソープ嬢。

「100%水からできてますから乾いてもゴワゴワに固まったりしませんのよ。すぐに乾くのでベッドで使ってもかまいませんわ。ご年配の殿方やご婦人にお勧めですわよ」

「いやそれよりもこのクリスタル瓶がすげえ価値あると思うよ。キラッキラで綺麗だもん」


「私も風魔法でなにかできないか考えてほしい。私じゃちょっと思いつかなくてー」

 スワンもか。

「スワンこの前翼竜の牙くれたろ。今日はあれ売ってくるよ」


「アタシは火属性だからね。なんにも思いつかないなあ……」

「それ言ったら俺一番役に立ってないだろファリア。魔王の株暴落じゃん」

「あら、魔王様は最高ですわよ。言うこと無いわ」

「うん、ここまでの采配、お見事です」

「頼りにしてるよ、魔王様」

 嬉しいねえ。


「はい魔王様。今週のお小遣い」

 ……マッディーさん、空気読めよ。いや、ありがたいけどさ金銀宝石の詰め合わせ。あなたが不動の稼ぎ頭トップです。異論は全くございません。


 最近の俺、みんなに養われてる感がすごいんですけど。



 イナリーちゃんと王都行って、マッディーのお宝とスワンの翼竜の牙とサーパスのクリスタルの瓶売ってきた。中身については説明したよ。

 どれもすごい金になった。


 クリスタルの瓶は注文まで受けちゃった。

 貴婦人用の香水の瓶が欲しいってさ。

 みんなの買い出しリストと、イナリーちゃんの私服と新しいメイド服。当面の食料、調味料、日用品、ものすごい量になったよ……。

 軽ワゴンが欲しい。みんな俺のアイテム置き場に入れたけどさ。人目のある所ではやれないからちょっとだけ面倒。


 帰ってからスワンとサーパス、着替えて喜んでたねー。

 ちょっともっさりしてるけど、ゆるめの服着た町娘二人のできあがり。

 サーパスはゆったり広がったロングスカートで足まで隠れるようにした。

 頭には耳まで隠れる帽子。それに手袋。

 嬉しそうだ。


 次の買い出しには二人まとめて連れて行ってあげよう。

 いや、全員! 全員でお出かけできるようになったら嬉しいな。




次回「17.出会うきっかけさえあればというのは負け惜しみかもしれない」

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