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12.誰でもコンプリートしていないゲームの一本や二本は持っている


「ちなみに俺が復活するまでみんなはどうしてたの?」


「みんないましたよ魔王城に」

 ベルがそう言うとみんないっせいに「いたねえ」と言う。


「魔物とかと遊んでたり世話したりしてると、ベルが、『魔王様を復活させるから、魔力を貸してください!』ってところからですね、わたしの記憶は」

「私も」

「アタシも。なんかそれが当たり前って感じで、言われてみればその前の記憶ないわ」

「はい」

「え? みんな百年も前から魔王様にずーっと仕えてましたよ? 私もです」

 ベルがむくれる。


「その記憶もシナリオじゃないの――?」

「そんなはずは……」

「じゃあベル、俺を見て魔王が復活したと思うか? 先代魔王と同じ顔か?」

「はい」

「俺たちやお前が話してるこの世界の言語は何語だ?」

「え? ニホン語ですけど?」

「そういやそうだ。私たちずーと日本語話してたわ」

「……なんで気が付かなかったんでしょう」

「こんな異世界で日本語で会話してるって、よく考えたらおかしいわ……」

「確かに……」

 今更気付いたか四天王諸君。だいぶ記憶操作されてるなやっぱり。


「ほらなー……。ベル、やっぱり操作されてるよその記憶」

「……私もこの世界のために用意されたキャラなんですか……」

 ベルしょんぼり。

 衝撃の事実すぎるわな。


「で、ゲームだとアタシたちどうなんの?」

 最初に戻ったなファリア。驚くぞ?


「ここにいる全員、勇者のパーティーメンバーになる」

「えええええ――――――――!!!!」

「勇者に負けて、勇者のパーティーメンバーに寝返って、俺を倒しに来るんだ」

「うわあ……」

「ええっ!? 私もですかあ!?」

「ベルもだ。魔王城を最後まで一人で守って、勇者パーティーに倒されて、勇者の仲間になる」

「……信じたくありません……」

「信じられないかもしれないが、事実だ。今まで俺の言った通りになって不思議に思ったことは無いか」

「……確かに」


「あの……私は?」

 イナリーちゃんが恐る恐る手を上げる。

「俺がいなかったらたぶんイナリーちゃんか、ビビアンさんのどっちかが勇者に買われて奴隷になって勇者パーティーに入ったはずだ」

「……私は魔王様に助けていただいたことになるんですね……」


 なるかなあ。助けたっていうか、勇者に取られたくなかったっていうほうが大きいけど……。ま、これは黙っておこう。


「で、魔王様が勇者に倒されたらどうなんの?」

 当然の疑問だなスワン。

「ゲームは終わり。エンディング。スタッフロール」

「その後は?!」

「スタート画面に戻る」

「……」


 自分で言っててあまりにもおかしいと思うが、それがゲームだ。

 勇者やパーティーメンバーのその後とかは描かれない。

 一番好感度高かったヒロインとの結婚イベントとか、なにもなし。

 いきなり終わり。


「これはエロゲだからな。これからここにいる全員勇者のハーレムに入って……」

「うええ……」

「毎晩毎晩……」

「ひああ……」

「……というわけだ」


「衝撃な事実だよ、それ……」

 ファリアが崩れ落ちる。

「それ知らなかったら、アタシも勇者のパーティーに入ってたと」

「間違いなく」

「うーん……」


 俺はここでみんなに決断を迫らないといけない。


「みんなはどうしたい。俺を倒してエンディング後、別の展開に賭けてみるのも一つの手だと思う。案外勇者のハーレム要員として幸せな人生が待ってるかもしれん。あるいは、記憶も最初に戻って、また俺を復活させる場面からやり直しになるかもしれん。その時の魔王は、もう俺じゃくて別の男だろうけどな」


「ええー……」


「せっかく残っている記憶も、だんだんと無くなるかも。ベルやイナリーちゃんだって、もしかしたら前世は日本人だった可能性だってある」

「……」

「最悪、女神が言っていた『実験』は終わり、全員存在そのものが消去されるかもしれん。俺にもどうなるかわからないんだ」


「私は反対です! 魔王様が倒されるのも、私の存在が消えるのも、絶対に嫌です!」とベルが叫ぶ。


「だよなあ……」

「ですよね――」

「私もヤダな。だって私たち今は魔族でしょ? 人間になれないでしょ」

「……他のエンディングの可能性は? たとえば勇者殺すとか」

 発想が魔族そのものですな、マッディーちゃん、いや、マッディーさん。


「勇者は主人公、この世界の中心だ。死んだらセーブポイントからやり直し。セーブポイントは宿屋だから次の日には何事も無かったかのように宿屋から出てくるさ」

「ホントかそれ――?」

「こればっかりは実験してみないとわからないけど……俺たちまでリセットされて勇者が死ぬ前の時点からやりなおさせられているかもしれない。俺たちも気が付かないうちにな」

「ありますねーそれ……」

 スワンはけっこうゲーム好きだったのかな。よく知ってるよね。


「ゲームで死んでもセーブしておいたデータ、ロードしてさ、敵倒すまで何度でもやり直すもん。敵もさあ毎回毎回、同じセリフ言っておなじ戦闘してくるし、勝てるまでやるもんね」

「だろー。敵役の俺らはもう何度も闘ってることに全く気付かない。勇者の方は死ぬたびにレベル上げたりアイテム手に入れたりとかあの手この手で勝てる方法を考えてくるわけだ。これ勇者のほうが圧倒的に有利だろ! だから勇者を殺してどうなるか実験するのはリスクがでかすぎてやりたくないな」

「そうですか……」

 みんながっくりだよね。



「俺は、一つ賭けてみたいことがある」

「どんな?」

 ベルが真剣な顔で聞く。


「勇者にこのゲームを投げさせる。ゲームをクソつまらないものに仕立て上げ、魔王討伐をあきらめさせる。このゲームをいつまでたっても終わらないものにしてやろうと思ってる。みんなもゲームやって面白くなかったり敵に勝てなくて先に進めず放ってあるゲームあるだろ?」

「あるある――」

 あるよね、スワン。


「勇者が、『こんなゲームつまらん、もう俺は勇者をやめる』ってとこまで追い込んで、なんにもしなくなったらどうだ? このゲーム終わらなくなると思わんか?」

「あっはっは! それいい――!」


 みんながゲラゲラ笑ってる。

 ベルも、イナリーちゃんも。


「どうなるかわからないんだったら、現状維持のほうがマシですねー」

「そうだねーっ!」

 風俗嬢ズはのんきですな。

「うん、アタシもそれでいいよ」

「……私も賛成です。あんな勇者のハーレムに入るぐらいなら魔王様のほうがずっとマシです」

 さっそく浮気ですかマッディーさん。あんた人妻でしょうが。

 バツイチってことですかね。


「よしっ、これで決まったな! どういう変化があるかわからんから、勇者に負けないようにこれから毎日訓練して、各自魔法や戦闘を鍛えておこう。ベルは勇者の監視。勇者が王都を出たらすぐに報告。レベル上げ妨害のために引き続き王都周辺の魔物は避難。勇者に新しいパーティーメンバーが入りそうになったらすかさず阻止。これでいこう」


 全員、頷いた。


「最後に。みんなありがとう。俺も全力で魔王やるよ。これからも協力頼む」

 みんな笑って拍手してくれた。嬉しいねえ。



次回「13.即死攻撃があるなら使わない手はない」

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