11.中の人のことは知らないほうが幸せかもしれない
「わたしはですねえ……えーと」
水のサーパスが手を上げる。
「……ソープで働いてました」
えええええ……。
それでお水の四天王なわけですか……。
「やっぱり、死んだの?」
「ええ、お店が火事になりまして、そのせいで……」
「あ――、あったあった。吉原の風俗店で客と従業員が四名煙に巻かれて亡くなったやつね!」
なんで風のスワンさんがそんなこと知ってるんですか……。
「あの後ねえ風俗店で規制が厳しくなってね、うちの店でも非常口の前に物を置いたりするのは注意されてね、階段も片付けたりして指導が厳しくなってね」
「スワンってなにやってらっしゃったの?」
「ヘルス」
スワンさんも風俗嬢でしたか……。それで風の四天王なんですか……。
「スワンさんなんで死んだの?」
「客がねー、ストーカーになっちゃってさ、刺された」
「あーあったあった! 歌舞伎町の風俗嬢ストーカー刺殺事件!」
それだったら俺も知ってるよ! 去年のニュースじゃねーか!
「そっかー……大変だったね」
「いいよもう……。こっちの世界のほうがまだマシに思えてきたもん。記憶うっすらしか無いし」
「マッディーさんはどうですの? もしかして援交JKだったりして……」
「主婦」
「へ?」
「主婦」
「ええええ――――――――!!」
衝撃過ぎます。
ロリなおこちゃまだと思ってたマッディーが主婦だったとは!
「私ねえ齢よりだいぶ若く見えるもんだからね、学生さんに告白されちゃって、つい許しちゃったのね。夫が一回り年離れててレスだったのも理由だけど」
合法ロリだったんですかマッディーさん……。
「で、浮気がバレて旦那に殴られて転んで、打ちどころ悪かったのかな」
……ドロドロですマッディーさん。土だけに。
もうなんですかどういうことですか。そんなやつばっかりなんですかこの世界の転生者は……。
そういえば変態隔離世界とか言ってましたねあの女神。
「さすがにそんなニュースは聞いたこと無いっていうか……」
「そんなの新聞記事にもならないっていうか……」
「よくある話のような……。そんなんで殺す旦那? フツー」
「三回目の浮気だったもので……。反省してます。はいっ」
マッディーが頭をごつんとテーブルに打ち付けて顔を伏せます。
「今まで無口キャラですいませんでした。喋るとボロ出そうなんであんまり喋らないようにしてました。ごめんなさい」
そういう事情があったのか……。
「魔王様は? 魔王になるぐらいだから相当ひどい過去持ってそう」
「俺は……、あー、リーマンやってた。底辺でブラックでさ、過労で」
「なんだ」
「ホントですかそれ――?」
「こんな世界来るぐらいだからさ、絶対エロいこと関係じゃないのー?」
「どうかなあ女でトラブるほどモテそうではないよねえ……」
ううっ、反論できん。
「ちょっと待て――――!」
ファリアが手を上げる。
「アタシはエロ関係ないだろ!」
「女子プロ見に来る客なんてエロ目的だったりしてー」
「いやそれは……いや、確かに売れてないときはエロいユニフォームとか選んでたけどさ……。たまにポロリとかわざとやってたけどさ……」
ダメだ、これ以上喋らせたらダメだと思う。
「正直に言います」
全員が俺を期待に満ちた目で見る。
いや、イナリーちゃんとベルはもう半目ですけど。
「会社で残業して疲れた体でアパートに帰ってきて、唯一の楽しみだったエロゲをプレイしてて一人エキサイトしてて心不全で死にました」
「あひゃひゃひゃひゃ!」
四天王全員に爆笑されてしまいました。
「さすが魔王!」
「おなかいた――」
「最悪――!」
「……(バンバンバン、顔伏せて震えながらテーブルを叩くマッディー)」
「女神の話によると、そのあと会社無断欠勤してアパートのカギ開けられて家族に下半身丸出しでエロゲの画面見ながら死んでる俺が発見されたそうです」
全員顔も上げられなくて震えています。
「はははは……みんなこの世界来る前に女神に会った?」
「覚えてないんだよねー」
「気が付いたらこの世界で四天王やってましたわ」
「アタシも」
「……私も。自分の名前も思い出せない……」
「俺は覚えてる。自分の名前は思い出せないが……まあその辺の記憶は操作されてる感じだな……」
「どんなだった?」
「暗闇で声だけがしてさ、自称女神。日本人の転生者は碌でもないやつばっかりだからエロゲの世界に転生させるって言われて」
「ここってエロゲの世界だったんかい!!!!」
全員ツッコミ大会ですわ。
「女神いたんだ……。言われてみればアタシも女の人に声かけられたような気がするよ」
「ちなみに勇者も日本人ですな。見ればわかったと思うけど」
「わかったね――。っていうか私魔王様見た時からコイツ絶対日本人だと思ってたもん。誰も言わなかったけど」
スワンさん始め全員ニヤニヤですな。
「疑問なんだけど……私たち見た目は魔族になってて、日本にいた時と外観全然違うでしょ? どうして魔王様は日本人そのまんまなんだろ」
スワンはいろいろ面白いところに気が付くな。
「ちなみにみんなの外観は俺がゲームで知ってるキャラそのまんまだ」
「あーそーなんだ……。えへへ、私こんなに胸なかったしこんなに美人でもなかったから、ちょっと嬉しい」
「アタシはここまで巨乳じゃなかったけど、デカい身長はそのまんまだわ。けっこう気に入ってるんだけど」
「わたしはもっと太ってたからこれぐらいで嬉しいですわ」
「……さらにロリになった。不本意……」
そうですかー。悲喜こもごもかな。
「ゲームの魔王はいつも全身鎧で素顔はわからなかった。だからこの世界コピーして作ったやつが魔王の中身まで考えてなかったんだろう。俺が見た目生前そのまんまなのはきっとそのせいだと俺は思う」
「うん、納得いく答えだね。魔王様頭いいよね。さすがリーマン」
スワン褒めてるかそれ。
「俺もゲーム風の金髪碧眼イケメンキャラだったらなー」
「わたしは魔王様が日本人そのまんまで嬉しいですわ。親近感持てますもの」
「アタシも、数少なかったアタシのファンたちとそっくりだよ」
「ヘルスに来る客なんて魔王様みたいな男ばっかりだったよ。イケメンは風俗なんか来ないから。私は好きだよ魔王様の見た目」
「……元旦那よりずっといい。若いし」
「ありがとう、嬉しいよ」
涙でそう。うん、いろんな意味で。確かに全然モテませんでしたよ。放っておいてください。
「俺には魔王としての記憶もある。魔法使えたり、いろいろ能力あるのもそのせいだ。ただ、やっぱりエロゲの魔王だからな、人間に戦争仕掛けたりする理由までは頭の中に入って無くて、それで戦争までするのはどうかなーって思うわけさ」
マッディーは「私は人間に対しての恨みみたいな感情が時々沸くんですよね。やっぱり殺されて死んだからかなー。それとも四天王としての記憶なのか」と言う。
「アタシは闘わなきゃって記憶がある。女子プロだったせいとはあんまり関係ないと思う。女子プロってね、リングでは闘うけど楽屋ではみんな仲いいの。団体という会社の同僚だから」
聞きたくなかったですファリアさん、そんなリングの裏事情。
「わたしはどうでもいいですわ。闘いなんてできればやりたくない」
「私もー」
風俗嬢二人は穏健派でしたもんね。
魔族としての記憶もそれぞれですな。
「先代魔王って知ってる?」
「知らない」
「知りません」
「覚えてない」
「……??」
「なんだ、じゃ、やっぱり闘う理由なんてどうでもいいな。勇者できるだけ相手にしないでここでダラダラ残りの人生楽しんだほうがいいかもな」
「……それもそうですね」
「でも勇者って魔王倒しに来るよねー。私たちも殺されるの?」
「そこだ。いいところに気が付いたな」
スワンさんはよくわかってるよな。ゲーム好きだったのかな?
いよいよ核心部分を話さないといけませんねえこれは。
次回「12.誰でもコンプリートしていないゲームの一本や二本は持っている」