10.異世界における日本人の人口密度について
「どうだ?」
今日も勇者のモニターしてるベルに聞いてみる。
もう魔王城の一室にすげえモニタールームができてるんですけど。
そこで何十枚ってパネルの前でベルが勇者の監視してるんですけど。
ちなみに魔王城の動力源は俺の魔力だ。
俺のベッドになにかベルが仕掛けをつないで、そこから魔力吸いあげてる。
魔王城って、昔からずーっとそういう構造なんだってさ。
食堂のコンロとか、冷暖房とか、風呂とか、いわゆる水道光熱費が俺の魔力で賄われてるんだと。
パワーゲージ見るとだいぶ備蓄が上がってる……。
「昨日はお楽しみでしたね」
イナリーちゃんには部屋をあげて、そこで寝るように言ってあるけど、毎晩俺の部屋に来てくれる。
……イナリーちゃんとエキサイトするとそれがバッチリグラフに出るのか。
何回やったかまでお見通しですかベルさん。
だって気持ちいいんだもんイナリーちゃん……。
娼館では獣人だからと値段も安く人気のないイナリーちゃん。でもゲーム内ではその気持ちよさを主人公が絶賛してました。
俺も体験してみたかった。大正解でした。
ふわっふわのしっぽと耳……撫でているだけで幸せです。
二人でモニターを眺めると、ちょうど娼館、「獣のラビリンス」から勇者が出てくるところでしたな。
ミス・ビビアンに股間を撫でられながらぶっちゅーって強烈なキスをしてもらって、「また来てね――!」って手を振ってもらっております。
すんげえ。
本物のミス・ビビアン、迫力が違うわ。
あんなおっそろしい丸太エルフ……いや、やめとこう。
勇者ふらふらになって歩いていく。
「こんな感じでですね、スライムとか一匹ずつでも狩ってると、いつのまにか狼まで狩れるようになりましてね、それで小金稼いではこの店通ってますね」
「計画通り」
「計画通りなんですか!!」
ベルがびっくりする。
「これ、勇者が娼館に入るとこ、出てくるとこを録画して、なんか映像化する方法ってある?」
「クリスタルに記録すれば映像で出せるようになりますけど」
クリスタル映像ですね。なんか名前だけでエロいです。
「じゃ、それ用意しておいて」
「なんに使うんですか?」
「ふっふっふ」
いけねえ、悪い顔になってたか。
「うん、魔王様も、そうしてると魔王っぽいです」
嬉しそうに言うな。誉め言葉かよ。
イナリーちゃんにモニター室に来てもらう。
ベルが作ってくれたクリスタルを上映して見てもらった。
「はい、このように勇者は今ミス・ビビアンさんに通ってる状況です。イナリーちゃん、ミス・ビビアンさんってどんな人だった?」
「はいっ。ええと、店で一番のベテランさんですね。エルフさんですから二百歳超えてるお方で、テクニックがすごくて贔屓のお客さんが多いです」
うんそうそう。ゲームの設定と同じだ。
「で、ビビアンさんにお世話になると、その凄すぎるテクニックのせいで、客は他の女性じゃイケなくなるんだろ」
「……はい。よく御承知ですね」
うんうん、ミス・ビビアンが地雷と言われる所以だ。
娼館イベントではイナリーちゃんか、ミス・ビビアンかどちらかが相手になる。
……普通は誰でもイナリーちゃん選ぶよな。
しかし、ここであえてビビアンさんを選んでしまうと勇者はビビアン以外の女とはエキサイトイベントが発生しなくなってしまい、せっかくハーレムを作ってもエロゲじゃなくて健全なただのギャルゲーになってしまうという恐ろしい地雷イベントなのだ。
俺があそこで何が何でもイナリーちゃんを先に確保した理由である。
エロシーンのない、あっても丸太エルフしか出てこないエロゲー、続ける気が起きるか? そっちの趣味があればともかく、俺なら投げるね。
この縛り、とあるイベントでクリアできるのだが、それはまた先の話。
イナリーちゃんと魔王城の中を歩く。
すげえ綺麗になってきた……。
「みんな手伝ってくれるんですよ。スワンさんが風魔法で埃を吹き飛ばしてくれましたし、サーパスさんは水魔法で窓や外壁とか洗ってくれるし、お庭に水も撒いてくれます。力仕事はみんなファリアさんがやってくれてゴミの焼却もしてくれて、マッディーちゃんは庭に花壇を作るんだって張り切ってます」
そりゃすごい。
どんどん魔王城が快適になっていくぞ。
「あのさ、ここが魔王城で、俺が魔王で、みんなが魔族って点について」
「すぐに気付きました」
ですよね――……。
「でも、騙されて借金作らされてあんなところで奴隷で働かされるよりずーっといいです。事情話したらみんなとっても優しくしてくれて、魔王様のことも『可愛がってもらいなよ』なんて言ってくれて、嬉しかった……」
素敵ですねえ……。
寛大なみんなにも感謝したいよ。さすがはエロゲですね。
「さあて、次の作戦だが……。食べながら聞いてくれ」
お昼にして、全員で食堂に集まる。
「勇者はこの後、ある程度レベルが上がったら自分の生まれ故郷の村に帰り、そこで幼なじみをパーティーメンバーにする。それを妨害する」
「そんなことなんでわかるのさ?」
ファリアが不思議顔だな。いや、他のメンバーもだ。
「みんなにはまだ言ってなかったが、この際正直に話してしまおうと思う」
内緒にしておこうとも思ったが、それでは今後の作戦遂行で障害になるかもしれない。事情は分かってもらっておいたほうがいいだろう。
「俺には前世の記憶がある」
みんな、びっくりだ。
「そして、俺はこの世界で勇者がどういう行動をとるか、だいたい知ってるんだ」
「前世って、どんな?」
「言ってわかるかどうか知らんが、『ゲーム』ってやつがあってな、そこで勇者になってこの世界の魔王を倒すってのを何度もやったことがあるんだよ……。今は俺がその倒される魔王なわけだが。本当の俺は普通の人間だ」
……。
ファリアが手を上げる。
「実は、アタシも前世の記憶があるんだ」
「ホントかっ!」
これには俺もびっくりだ。
「私も」
「実はわたしもです……」
「……」
スワンもサーパスもかよ! マッディーもちょこんと手を上げている。
「そうだったのか……」
驚きだよ。
「イナリーちゃんは?」
「私は無いです」
「私も」
ベルも首を横に振る。この二人は最初からこの世界の人間か。
「この際だ。腹を割って話さないか?」
「そのほうがよさそうだねえ」
「わたしも、この際だから話してしまいたいわ」
「いいですね。興味あります」
「賛成……」
「じゃ、アタシから行こう。アタシは実は日本という国で女子プロレスラーをやっていてねえ!」
「ええええ――――――――!!」
ファリアの告白に全員で一斉に声を上げる!
「試合中の事故でね、あんまり覚えてないんだけど、それで死んだ」
「あ――! 知ってる! 新聞で見た! 女子プロの悪役レスラーがリングから落ちて首の骨折って亡くなったって見たことあるよ俺!」
これはびっくりだよ!!
「私も!」
「わたしも――――! ワイドショーでもやってました!」
「って、みんな日本人かよ!!」
こくこくこく、四天王が一斉に頷く。
「みんな知ってるんだ! なんてレスラーだった? アタシ自分の名前とか、全然思い出せなくてさ……」
「私も」
「わたしもです」
「ギガコング・アスカ!」
俺が咄嗟に口に出した名前にファリアが激しく反応する。
「そうそう! それそれ! やっと思い出せた!」
ファリアがめっちゃ嬉しそうだ。
「いやーアタシの事知ってる人いたんだ。嬉しいねえ!」
当時話題になったからな。
悪役メイクすげえ怖かったけど、報道された素顔は可愛かったのでそのギャップに驚いたよ。
「これはみんなの分も聞かないとねえ――!」
いやー、ぜひ聞きたいねこれは。
次回「11.中の人のことは知らないほうが幸せかもしれない」