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1.死に方に凝ってもその設定はなかなか生かせない


「お気の毒ですが、あなたは亡くなりました……」


 え?

 右を見ても左を見ても、前を見ても真っ暗なんですけど?


 え?

 手を伸ばしても足を前に出しても、本当に真っ暗なんですけど?


「あなたは亡くなったんです。死んだんです」

「誰?」

 俺は声だけが聞こえる謎の相手に問いかけた。


「女神です。ここは死後の世界」


 ええええええ?


「あの、俺って普通に部屋にいましたよね?それで死んだの?」

「はい、あなたは死にました。お気の毒です」

「なんで俺死んだの!? 部屋にいて死ぬとかありえないでしょ!」

「覚えが無いのですか? 死ぬ直前になにをやっていたか覚えているでしょう!」


 俺の最後の記憶……。


 あっ。 あああ――――!!


「あなたは残業から帰ってきた部屋で疲れているのにもかかわらずパソコンの前でエロゲーを始め、ヒロイン陥落イベントで興奮しすぎで性ホルモン分泌異常による急性心不全で死にました」


「うああああ――――っ言うなああああ――――!」


「会社にも無断欠勤で数日間出てこない状況で連絡を受けた家族が大家さんに頼んでアパートの鍵を開けてもらい……」


「やめろおおおおお――――――――!!」


「27インチディスプレイのあられもないヒロインの開脚画面の前で下半身丸出しで股間を握っていたあなたの死体を発見し……」


「らめえええええええ――――!」


 俺の絶叫に闇からの声が答える。


「……さて、これであなたはもう現世への未練が無くなったと思いますが?」


 無くなったよ。

 完膚なきまでに無くなったよ。

 ていうかもう帰りたくないよ。

 ぐすっ……。ぐすぐす……。

 泣けてくるよ。死因がテクノブレイクとか情けなさすぎて……。

 キモオタ童貞エロゲーマニア、ブラック企業の底辺社員、唯一の楽しみがエロゲーなんて……。しかもそれをやってる真っ最中に死んだとか、それを家族にも見られたとか。


「そんなあなたにですね、異世界に転生してもらおうかと思いまして」

「嫌だもう消して。俺を消して。殺して」

「もう死んでますよあなた。火葬も済んできれいさっぱり」

「パソコンのデータも全部消して」

「これから私のお願いを聞いてくれれば消しておいてあげましょう」


 ありがとうございます。感謝します。足を舐めさせてください。



「……で、あなたはどなたですか?」

「先ほども言った通り、女神です」

「姿は見せてくれないんですか」

「あなたのような人にオカズにされるなんてまっぴらごめんです」


 しないよ。そんなことしないよ。エロゲだって女神様をオカズにしたことなんか……あったか。

「あなたが最後に一人エキサイトしていたのは確か……」

「もうしわけありませんんん――――!!」


 ごめんなさいゲームの女神様攻略中でした。


「そんな変態のあなたにふさわしい世界へいざなってあげましょう。新たなる異世界へ」



「なんでしょうその異世界って」


「異世界に転生させるにはいろいろ条件があります。一つは、前世に全く未練のない人」


 無いよ。きっぱり無いよ。やり残したこと、夢、家族、恋人、友人。

 何一つないよ。っていうかあの状態で死んだところを人に見られたと思ったらさ、もう未練なんてこれっぽっちも無いよ。


「そして、前の世界に必要とされていない人」

 いやああああ――――――――!

 そうだよ俺なんて誰にも必要とされていないよ。安い給料でも過酷な仕事でも文句言わずにやるってことだけが俺の取り柄だよ。俺の代わりなんていくらでもいるからさ。俺の家族だってあんな死に方したところ見たら愛想も尽きるさ。 


「ついでに、異世界にある程度精通してると導入も楽ですね」

 悪かったな異世界物大好きだよ。

 異世界でチョロイン(ちょろすぎるヒロイン)相手にハーレム作ってヤりまくりなエロゲ大好きだよ!


「亡くなった方を人口の有り余っている地球から分けてもらって、発展途上の異世界に移民させる業務があるのですが、最近……特に日本人が非常に評判が悪く、各世界の管理者から毛嫌いされているのです」


「どうして? 日本人観光客、マナーはいいし金払いもいいしクレームも少ないので世界中で歓迎されてるじゃない? 異世界だと違うの?」


「覚えがありませんか? 聞いたこと無いですか? どいつもこいつも、死なない程度に与えてやった能力を、斜め上の、想定外の使い方してチート無双しまくって異世界に多大な迷惑をかけ……」


 ……あーそういうラノベとか


「現地の女食いまくってハーレム作ってやりまくって」


 ……そういうネット小説とかありますね。


「無駄な雑学知識ひけらかして文化や政治体制を崩壊させ秩序をめちゃめちゃにし国を乗っ取ったり国を亡ぼしたり!」


 あー……覚えありますね。


「そんなことやるの日本人だけですよ。海外のファンタジーで現代知識持ち込んでその世界をどうこうなんてお話ありますか! 日本人だけの発想ですよ! どうしてその世界に順応して普通に目立たず暮らせないんですか! もう日本人なんてどこの異世界でも受け入れてくれませんよ! ちょっと考えればわかるでしょうが! クリエイティブすぎますわ日本人!」

「もっ申し訳ありません! 日本人を代表して謝ります! 謝罪します! ゆ、許してください!」


「そんなわけで死因も死因ですので、あなたは隔離対象です。あなたには変態向けの新設されたエロゲーム世界で生きてもらいます」

「そんな世界新設するなああ――――!」


「ゲームと言うのは人間の理想を集めたご都合主義の集大成、その中の究極がエロゲー世界。すべてが都合よく、ヒーローになれ、ヒロインがチョロい、そんな世界が人間の理想なのでしょう? そんな中に放り込んでおけば問題ないのか、試させていただきます」


 ……悪くない。

 いや、それいいんじゃないか?

 それ、やってみたいんですけど。

「そうか……。しょうがないな。だったらその実験台、なってや……」


 俺の返事を待たずに謎の女神の声がする。


「あなたに選択肢はありません。これは決定事項です」

「あ、そうなの?」

「10、9、8、……」

「ちょ! ちょっと待って! 俺なにになるの?! 勇者? 勇者だよね!?」


「4、3、2……」


「待てよ――――!」


「1、0」


 そうして、俺は意識を失った。



――――――――――――――――――――――――――――――――



「魔王様、魔王様!」



「んっ……」

 痛む頭を押さえて顔を上げる。

 四天王たちが玉座の上の俺を見ている。

 思い出した。すべての記憶を。

 いや、今ここからスタートした。

 これはゲームのオープニング……。魔王の復活シーンだ。



 魔王の設定が、俺の記憶に無理やり注入されている。

(闇に(うごめ)く四天王。その魔力が今、封印された魔王城の扉を開け……)

 オープニングうぜえ――――!


(解き放たれた魔の気配があたりを覆い……)

 脳内でスクロールすんな――!


(そして、ついに魔王が復活した)

 ナレーションいいから――――! そんな演出いらんから――――!



 そう、俺は魔王。魔王ファルカス。

 たった今、この18禁エロゲーム、「異世界ワールド・ハレムっちゃおう!」のラスボス、魔王ファルカスになったのだ。


 うあああああ――――――――!!

 なんてこった――――!!


 女神様……俺、魔王じゃないっすか!

 俺エロゲの主人公じゃ、ないんですか……。

 敵役じゃないですか……。

 これって、なにかの罰なんですか。

 生前の行いの罰ですか。

 もう泣きたい……。




 ※「異世『界』・『ワールド』」がかぶってるじゃねーかとか細かいことは気にしない。エロゲですから。



やっぱりハーレム物は人気だなあ……俺もちょっと書いてみようかなあ……。

はい、最悪です。どうしてこうなった。


そんな作品を目指す必要も無いのに目指します。


※2021/12/25 。旧題「エロゲの魔王様は勇者パーティーに殺されたくない」から、シンプルな「エロゲの魔王様」に改題しました。以前より短いタイトルにしたかったのです。

「エロゲの魔王様」でグーグル検索するとこの作品がトップに上がりましたので、私が使ってしまってももういいんじゃないかなと思いまして。


次回「2.魔王様には破滅エンド以外のルートが無い」

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