第九話 勇者たちの反応
一方、そのころ勇者たちは……。
速水修也が死んだ。その知らせが届いたばかりでみな落ち込んでいた。
「これで五人目よ」
「速水君いい人だったのに」
「どうしてこんなことに」
「ねえ、私たちは誰かに狙われているの?」
みな不安を抱え始めていた。勇者として強力な力を手に入れていても感じる死への恐怖だったから。
「泣かないで。まだそうと決まったわけではないよ」
そう言ってクラスメートの仲間を慰めるのは結城円香。髪をいつもツインテールにしていて学校一かわいいと言われていた少女。実際この世界に来てからも何度も告白を受けている。本人はまだ恋愛には興味がないようでいつも断っているが。
「そうさ、円香の言う通り。過度に心配する必要はない。みんなできる限り複数で行動すれば問題ない」
クラスのリーダーである東堂玲が結城円香の後を続ける。
彼は東堂財閥の御曹司でありもの凄いお金持ち、かつ彼は容姿にも優れていて女子の人気も熱い。さらにお金持ちという立場を鼻にかけることもない。だから誰からも頼られている。
「ああ、一人で行動するのは控えたほうがいいな」
有永春斗は東堂に同意する。彼は東堂の幼馴染で彼の親友でもある。少し寡黙なところはあるが、困った人を見つけるとすぐに手を差し伸べてくれる優しい人だ。彼もまた容姿が優れている。
「で、でも……」
それでもやはり不安なのだろう。いつもはきゃあきゃあと東堂や有永の言葉に耳を傾けるのだが、今日ばかりは違った。
「でも、……すみれちゃんの時は……」
一人の少女がそう呟くと、みなあの時のことを思い出した。
初めて自分たちのクラスメートの中から死者がでたときのことを。
それはこの世界に召喚されて暫く立った日のことだ。私たちは魔物討伐に出かけていた。城の近くに現れたので、実戦練習として勇者たちが討伐することになった。
「緊張するね」
「僕たちにできるのかな」
魔物討伐に向かうときはこんな風にみんなこの世界の危険性を理解していなかったんだ。きっとどこか浮かれていたんだと思う。勇者という強い力を持つ者になっていたから。
私たちはそうして魔物討伐をした。
……結果を言うと、何の問題もなかったんだ。その魔物に関しては。
そして問題は次に起きた。
誰も予期していなかった強力な魔物が突然現れたのだ。勇者たちの後方から。そしてその魔物の見た目が生理的に恐怖や吐き気を催すものだったのだ。そのせいでみんなパニックになった。魔物を倒せて浮かれていたところに突然の別の魔物だ。
こちらが混乱していてロクな攻撃ができていないうちにその魔物は勇者たちに襲い掛かって来た。巨大な爪と牙により何人もの勇者が大怪我を負っていく。
明らかにレベルが違かった。この中で最もレベルが高い東堂君でさえかなわなかった。そんな時だ。一人のクラスメートが犠牲になったのは。彼女は大怪我を負って動けないクラスメートをかばって体を切り裂かれた。
酷いものだった。彼女の体から信じられないほどの血がでて、辺り一面が血の海となってしまったのだから。
私は頭が真っ白になった。なぜならその少女は私の親友だったのだから。動けない私を置いて何人かのクラスメートの目に光が戻る。怒りという名の。クラスメートを殺された怒りから魔物に立ち向かっていく。
そしてそのまま魔物は倒すことができた。だけど私には絶望的な悲しみしかなかった。ここまで悲しみが深いと意外と泣かないものだ。
私の心は空っぽになってしまった。どうして?私は疑問でいっぱいだった。なぜ彼女が死なないといけなかったの?
そんなときだ。信じられないことを聞いたのは。それは本当に偶然で衝撃的だった。
「なあ、なんであいつがお前を庇ったんだ?」
城の廊下を歩いているとき、物陰から偶然そんな言葉が聞こえてきた。普段だったら私はスルーしていただろう。だがなぜだかその言葉に引っかかりを覚えたために立ち止まった。そして物陰を覗き込むと三人の男子がいた。だけど後ろ姿だけで誰かはわからない。私が誰か判別できないままに、三人の会話は続いていく。
「ああ、あれは怖かった。俺まじで死ぬかと思ったもん」
「なんだ。意外と平気なんだな。俺だったら恐怖を感じてしかなかっただろうに」
「ああ、あれはな。……デモンストレーションだよ」
「?デモンストレーション」
「ああ、みんなここをゲームの世界みたいに感じているようだったからな。その目を覚ますためにやったんだ」
「は?そんなことのためにか?」
「そうだぜ」
「あいつは不良品だからな。別にいなくてもいいだろ?すみれなんて」
それは強烈な衝撃を私に与えた。……つまりすみれが死んだのはあの男のせいなのか。強い怒りを覚えた。私は咄嗟に剣を抜こうとした。
殺してやる!そう思ったから、でもそれはすんでのところで回避された。
なぜならその男は普段の様子では予想がつかない人物であったから。
「どうして……」
私は自然とそう呟いてしまった。そんなことしたら危険だと分かっていたはずなのに。
「何しているの?」
あの男はすぐに私に気づいた。そして私は彼を殺す機会を失った。
なぜなら彼はこう言ったから。
「もし君がさっきの話を誰かに言うのなら、他のクラスメートも死ぬよ。君のせいで。彼女が必死に守りたかったものを君が壊すんだ。そんなことしたくないだろ」
その言葉でわかった。彼は私を脅しの材料にして彼女にあの行動を取らせたのだと。彼女は優しいひとだったから。誰かを守るため、そう言われたら絶対に見捨てられない。手を差し伸べるそういう人だったから。
その日から私は彼の監視から逃れられない。
だけど私は諦めない。彼に復讐するそのときを。
「大丈夫だよ!私たちみんなが力を合わせたら大丈夫!」
みんながあの時のことを思い出して沈黙する中、クラスのムードメーカーである遠野綾女がそう言う。
「……そうかな」
「うん!びくびく怯えていたってどうしようもないよ。私たちにできることをやろう」
「なんか、綾女の言葉を聞くとなんだか大丈夫な気がしてきた」
先ほどまで怯えていた少女が少し笑みを浮かべながらそう言う。
「でしょう!」
遠野綾女は元気にそう言う。彼女のおかげで勇者たちの雰囲気は少し元に戻った。