第七話 速水への復讐
結果的にいうと直ぐに釣れた。俺が勇者であることをちらりとほのめかすと喜んでついてきた。パーティーメンバーの二人はガッカリしていたが、俺の選択に文句を言うことはなかった。
「ここが勇者様が泊まってらっしゃるところですか?」
「はい。そうですよ。そちらのソファーに座っていてください。何か飲み物を持ってこさせますから」
俺がそう言うと彼女は俺の言葉に従ってソファーに座った。
俺はそれを見送ると着替えるために自分の部屋に向かった。そして着替えているとドアをノックする音が聞こえた。
「あのっ、シャワーを浴びてもいいですか?」
俺がどうぞと言うとそう彼女は少し恥じらいながら言ってきた。
「もちろん、いいですよ。場所はこの部屋の向かい側の部屋です。案内しましょうか?」
「!いえ、大丈夫です。それでは」
彼女は焦ったようにそう言ってパタパタと足音を立てながらドアの傍から離れていった。
「さて、行きますか」
俺はそうつぶやくと彼女の後を追う。こんなおいしいチャンスを逃すつもりはなかった。シャワーのある部屋の前に来ると、水が流れる音が聞こえていた。
ちょうど使っているようだな。俺はそれを確認すると迷わず部屋の鍵を開けて中に入る。彼女は内から鍵をかけていたようだけど、そんなもの意味はない。外から鍵が開けられるのだ。そして俺以外中から開けることはできない。
中に入ると俺は鍵を閉めた。彼女を逃さないために。
「お嬢さん、中にいるのかい」
バスルームの外から見てもシルエットでいるかどうかわかるというのに、俺は彼女にそう声をかける。すると、水が流れる音が消えた。
きっとびっくりしているのだろう。俺が中に入ってきたことに。
「えっ、どうして……」
「なぜだと思う?」
「そ、それは……」
彼女はバスルームに持ってきていたタオルを体に急いで巻いているのだろう。ごそごそと動いていた。
「こういうことだよ」
俺はそう言いながらバスルームのドアを開ける。するとそこには……。
血の海と死体の山が広がっていた。
「えっ」
俺には状況が理解できなかった。
「どうしたの?これを楽しみにしていたのでしょう?」
彼女は昼間と同じ声で、だけど雰囲気は別でそう話しかけてきた。そして彼女の手には細い剣が握られていた。
「なんでかわからないって顔をしているわね。だけどね、これは必然なの。私とあなたが出会った後にはこの結果しかあり得ないのよ」
「じゃあ、き、君はこのために俺の誘いに乗ったの?」
「ええ、私はあなたが声をかけてくるのを待っていたの。わざわざあなたが好きそうな子を演じて。どう完璧だった?」
「……」
俺はもう何も言えなかった。どうして?俺の頭には疑問が渦巻いていた。
「……もしかして私のこと忘れたの?あんなことしておいて」
そう言われたが俺にはこの少女と会った記憶なんてなかった。初対面なはずなのに何かが引っかかる。その程度なだけだ。
俺が思い出さないことに不快になったのか。彼女は不機嫌そうにこう言った。
『速水君』
その声は今までの彼女の声とは違った。普通なら聞き覚えのない声のはずだろう。だが、俺はその声の持ち主を知っていた。
「お、おまえ、まさか……」
俺がその先を言うことはなかった。彼女はその言葉と同時に剣で俺の心臓を一刺しにしたのだから。
『さようなら、速水君。』
少女はそういうと、手のひらから火を出しこの建物を燃やし尽くした。
次の日、原因不明の火事で勇者が死んだという知らせが町中に広がった。そしてその後、強力な魔物もいなくなったと。勇者の事件に隠れるようにひっそりとそういう噂も流れ始めた。
ゲートウェイにて。
「香織ちゃん、昨日は休んでたんだね。風邪か何かか?」
「いえ。昨日は昔の知り合いが訪ねてくるとのことで休みをもらっていたんです」
「楽しかったか?」
常連さんが少女にそう尋ねると、彼女はとびきりの笑顔でこう言った。
「はい、もちろんです!」