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第四話 ゲートウェイの従業員

 私、西条香織の朝は早い。まだ外が暗いうちに起きて日が昇る前にはお店に出勤する。店の名前は“ゲートウェイ”。従業員は私を合わせて四人の小さな食堂だが、地元の人たちに愛されたお店でもある。私も大好きだ。安くてうまいをモットーに提供しているからお金に困っているときでも美味しいごはんにありつける。


「おはようございます!」


 私は元気に挨拶しながら店の中に入る。


「おおー、おはよー」


 そう返事を返すのはここの店の店長兼料理人であるロジャーさん。彼はいつも分厚い眼鏡をかけていて、かつ髪も長いので彼の素顔を見たことはない。少し不思議で変わった人。だけど料理の腕前はピカイチ。


「おはよう」


 次に私に挨拶をしてくれたのはオレイン先輩。彼は私より長くここに勤めていて頼れる先輩だ。なかなかのイケメンなのだが、彼は女性が苦手で私も最初はコミュニケーションを取るのに苦労したものだ。すぐに距離を取ろうとしてきたから。大きな声で遠くから会話を!っていう感じだったのだ。お客様に対してもそうだから彼はウエイターのように注文を取ったりはしない。厨房の手伝いや色々細かい事務作業、仕入れ、食糧庫の整理などを行っている。今では私に慣れてくれてよく相談にも乗ってくれるいい人だ。


「あっ!おはようございます。おねえちゃん!」


 そう明るく言うのは私の妹分みたいな存在であるレティアだ。レティアは赤ん坊のころ店の近くに捨てられているのを店長が見つけて育てている子で、今年10歳になる。去年までは彼女は店で働いていなかったのだが、今年から私のもとについてウエイトレスの仕事を手伝ってくれている。とっても可愛い子だ。店のマスコット的存在にもなっている。


「もうあらかた準備は終わっているから、そろそろ開店しようと思うんだ」

「了解です!着替えたら看板を外に出しときますね」

「ああ、お願いなー」


 私は急いで従業員用の部屋へ行って着替える。その後は看板を店の外に出して開店の合図を出す。


 ちりんちりん。


 ハンドベルを二回鳴らすのが合図。こんなことに意味があるのか?疑問に思う人もいるだろう。だがこれには意味がある。このベルは魔道具の一種で魔力を流しながら慣らすとこの音を聞きたいと思っている人の耳に心地よいボリュームの音で聞こえるのだ。


 なんて無意味なものだと最初は思っていたが、これの音はもうこの辺りでは普通で、この音を聞かないと朝が始まらないという人もいるのだ。現在およそ朝六時。


 遠くに出かける冒険者などはこの時間から起きているし、忙しい主婦などの中はすでにこの時間には起きている者もいる。


 音を慣らしてから5分もしないうちに何人かのお客様たちがやって来た。


「おはよう。香織ちゃん」


 みな常連さんだ。いつも朝は世間話をしながら接客を行う。


「今日はどこまで行かれるんですか?」

「クリスタルマウンテンまでだよ。最近あの山に強力な魔物が現れるって噂があってその調査に向かうんだ。もしいるようなら勇者様に応援を頼むらしい」


 クリスタルマウンテン。それはこの町の近くにある山のことで名前の通りクリスタルなどの希少な鉱物が採れる場所であり、かつ美しい風景を持つところで観光地としても栄えているところだ。そこに魔物が現れたとなっては被害が重大なものになってしまう。だからその噂が真実かどうか、もし本当だとすればどのくらいの戦力が必要なのかを知ることが大切なのだ。


「気をつけてくださいね。勇者様たちじゃなきゃ倒せないような魔物なんて危険ですから」

「ああ、香織ちゃんが心配してくれているっていうのに死んでしまうような失態できるものか!」

「はい。無事帰って来るのを祈っています」

「おうよ」


 朝の時間が過ぎれば、一先ず休憩だ。基本ここに来るお客様は朝と夜に来る。なぜかって?それは一日三食食べるなんてできないから。貴族様は一日三食、いやそれ以上の回数一日に食事することはあるが、私たち庶民は一日二食までが限度だ。時には一食なんてことも珍しくない。


「常連さんの話ではもしかしたらこの町に勇者がやってくるかもしれないということでしたね」


 休憩しているとき、オレイン先輩がそう話しかけてきた。


「オレイン先輩。……そうですね」

「嬉しいですか?」

「どうでしょう?どの勇者が来るかにもよりますね。会いたくてしょうがない人だったらいいんですけど」


 私は非常に楽しみにしていた。私が望んでいる通りに事が進むことを。


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