第三話 老婆の情報屋
「お疲れ様です」
「お疲れさま」
香織は他の従業員に挨拶をして店を出る。外はすっかり真っ暗で人は一人もいない。
「さてと」
彼女はそうつぶやくと家とは別方向に歩き出す。より人のいない暗く狭い場所に。……十分くらい歩いただろうか。彼女は止まると何もないところに向かって話しかける。
「情報をもらいに来た」
彼女がそう言うと何もないところから人が現れた。杖をついた背の低い老婆が。
「おや、これはこれは随分と懐かしい人ではないか。こんな老いぼれに一体何の用事なんだ」
「なんの冗談なの?私とほとんど年齢変わらないくせに」
「ふふっ、これは今の私の変装なんだよ」
「そう。私があなたの趣味をどうこう言うことはないから安心して。それよりも何か情報を手に入れてくれたでしょうね」
彼女は店でとは全く違う口調でそう尋ねる。
「もちろんだよ。私にかかればそんなこと簡単さ」
老婆はそう言うと少女に一枚の紙を渡す。
「これに情報が書いてあるから、金はいつもの通りに頼むよ」
「わかったわ」
少女はそう答えたがすでに老婆に意識を割いていないようだった。熱心にその紙を見ていた。
ぱっと見何も書かれていないように見えるが、特定の魔力を流すことで文字が表れるという品物だ。
彼女は一通り読むとその紙を燃やし、新たな紙を老婆に投げ渡し、挨拶もなくどこかに行ってしまった。
「はてさてなんでそんなに勇者の情報が欲しいのかね」
老婆は少女がいなくなるとそう呟いた。紙に書いて渡した情報も彼女がまた求めた情報も勇者に関わるモノ。彼女の雰囲気をみる限り慕ってというわけでもない。いや、それよりも……。
老婆は少し悲しそうな顔をする。自分が思った通りなら彼女の歩いている道は……。
「いばらの道だね」
老婆は音にならないぐらいの小さな声で言う。
……そして三日後、一人の勇者が死んだという話が城下町に広がった。