第十四話 第一王子
「また勇者が一人死んだのか?」
「……はい。推測ですが」
「そうか……」
俺はそっと視線を下に向ける。
すると俺に報告してきた男は慌てる。
「今、捜索していますので正確な情報はすぐにお渡しできるはずです!」
男はそう言ってすぐに部屋を飛び出していった。
情けない。俺はその男の背中を見ながらため息をつく。いくら自分が怖いからといってこの態度はないだろう。兵を仕切る隊長という立場でありながら。
……まあ、俺の噂は結構広まっているようだからな。
平民たちには俺は女好きだとの噂が流れている。だけど、城で働いている奴らには……俺は……死神だと言われている。
過酷な訓練を施し、ノルマを達成できなかった者、任務に失敗した者には容赦のない罰を与える。体罰は当たり前。そして……。
訓練中の事故死。その数は多い。第一王子を怒らせば後はない。そう思われるようなことを何度もした。他の城勤めの奴らの前で。
だがこのことは国王たち俺の家族は知らない。俺は王族と接するときはただの女好きのように振る舞っている。もちろん、王政に関しては俺はしっかり働いている。ぎりぎり能力が低いと言われない程度の分を。
だいたい。王族なんて立場いらないんだ。だがこの立場が便利なのは認めよう。だから俺はその立場を利用するにおいて最低限度のことはする。それ以上のことはしないが。
俺には弟妹も結構いるはずだ。表向きに出していない奴らを合わせるとさらに多くなる。俺の父親はクズだから。
彼もまた猫を被っている。俺や母だけには自分をさらけ出してくる。彼も気づいているのだろう。俺の性格を。
ただし、俺の目的は知らないようだった。それなら俺を第一王子とするわけがなかったのだから。
俺の目的と彼の進む道が相容れることはないのだから。
そんなことを考えているとドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します。殿下にお会いしたいという者が来ているのですが」
侍女のその言葉で知った。やっと物事が始まったことが。
「さあ、始めようか。最高のショーを始めよう」
第一王子は歪んだ笑みを浮かべた。
侍女が連れてきた人は勇者の一人だった。
「お待ちしていましたよ。あなたがやって来ることを」
「ならなぜ私をこの場に通した。どうせ私の目的も知っているんだろう。私は聞いたよ。君には厄介な能力があるということを」
この勇者は意外と用心深いようだった。俺の見立てではもう少し浅はかな行動を起こすと思っていたのだが。……まあ、いい。これはこれで使い道はある。
それにこの勇者の能力はぜひとも手に入れたいモノだ。敵対する必要もないだろう。だけど……。
「第一王子の私に向かって『君』と申すか。不敬だと思わないのか?」
俺は勇者に向かって強めの殺気をあてる。
「私には関係ない。私が気に入らないのであれば私を殺せばいい」
だけど勇者は動じない。何の反応も見せない。
勇者はいい具合に壊れているようだった。あれがそんなに大事だったのか。あれは完全に壊れていたというのに。父はそこに何かを見つけようと試していたが、俺からしてみればあれは使えない駒だった。……そう……『だった』のだ。
確かにあれには使い道があったのだ。俺からすれば正気を疑う方法で。
だから俺はあれに対抗するためにこの駒を手に入れる。
「そんなことはしないさ。ただ試したかったんだよ。君が使えるかどうか」
俺は人当たりの良い笑顔で答える。
「それで、私はどうだったの?」
勇者は何も興味もないようでただ淡々と尋ねた。
「合格だよ。もし君が私の手駒になるならば……君の大切な人の情報を伝えよう」
ここで勇者は初めて反応を見せる。俺の目をまっすぐ見てきた。
「……君の大切な人はまだ生きているよ」
その言葉を聞いて勇者は俺の望むままに動き出した。俺の望む終焉を目指して。俺の真実ではない言葉を信じたまま。
これは鍵だ。あの勇者が自分自身であり続けるための。俺はあいつに対抗するための鍵を手に入れたのだった。
さあ、次は誰が動くのか。敵か味方か。それとも……自分か。