第十三話 変化の予兆
とある高級レストランに二人の男たちはいた。二人ともこの場所に不似合いな格好をしている。全身真っ黒で帽子を目部下にかぶり顔を見ることはできない。だがそれでいいのだ。その者たちにとっては。
「うまくいっているようだな」
一人の男はワインを飲みながらそう言う。
「ええ、まあそうですね」
私はぶっきらぼうにそう言う。なぜならこの男が大嫌いなのだから。
「最初はどうなることかと思っていたが意外と使えるやつのようだ。あいつを拾ったかいもあるというもの」
「あー、そんなこともありましたね。すっかり忘れてました。あなたの“子”は完成度が高いから」
私は皮肉交じりにそう言う。男があの子のことを出来損ないだと思っているので、この言葉は効果的なのだ。
「!お前!」
男はそう言いながら立ち上がる。そしてその拍子にグラスの中のワインがこぼれる。
「本当にあの子が嫌いなんですね」
「……」
男は私の言葉を聞くと無言で部屋から出ていく。男は詳しいことは話さない。それにいけ好かない。だけど……私は男との関係を切るわけにはいかない。私にも目的があるのだ。絶対にやり遂げなければならない。そのためには男に協力する必要があるのだ。
「本当にムカつきます……」
私はそう呟きながら帽子を外すと、一枚の紙切れが落ちてきた。
『第一王子』
ただそう書いてあった。
……なるほど次は第一王子がターゲットということか。まあ、彼には悪い噂が結構あるので適切であるともいえるだろう。ただ彼には厄介な秘密があるのだが……。
「まあ、これはあの男なりの謝罪なのかもしれませんね」
私にとって第一王子は許せない者たちの一人なのだから、消せという命令はありがたい。
最高のステージを用意しないといけませんね。
私は狂気の笑みを浮かべる。
「……この国の第一王子についてだと?」
同じころ、町の路地裏に二人の女がいた。といっても一人は老婆でもう一人は若い娘だ。
老婆は職業柄で滅多に驚かないのだが、この時ばかりはものすごく驚いた。いつも勇者の情報だけを仕入れる少女が別の人間の情報を求めたのだ。
「そう、できるだけ詳細な予定。あなたなら簡単に手に入れられるでしょう?」
少女は無機質な目を向けながらそう言った。
「ああ、もちろんだとも。……それにしても今回は勇者の情報はいいのか?」
「もちろんいるわ」
老婆の質問に対し迷わず即答する少女。その様子を見てあの王子についての有名な話を思い出した。
……なるほど。確かに彼の情報も必要かもしれないな。
そう納得すると後はもう何の問題もない。いつものように対応すると少女は去っていった。
今日はもうこれでお終い。そう思ってこの場から去ろうとしていたがそれは中断された。
……今日はお客が多いなあ。老婆は少女が去っていったほうと逆の方を見る。するとそこには目をギラギラとさせた少年がいた。
「僕に情報を売って!」
「おや、何の情報が欲しいんだい?」
「僕は……」
その後に続いた言葉には笑いしかでない。なるほどなるほど。これは大変になるだろう。なぜなら彼の求めた情報もまた第一王子なのだから。
あの子の復讐は今度もうまくいくのか。それとも……。
だけど一つ確かなことはある。それは……もうすでに動き始めているということ。これがいいのか悪いのかはわからない。でも……私はあの子の幸せを望む。そのためなら……。
老婆は決心する。行動を起こすことを。