第十話 新たな知らせ
勇者が魔物討伐に出る。そんな噂が流れてきたのは二日前のことだった。
「えっ?また勇者様ですか?」
「ああ、そうなんだ。この前の勇者とは違って女の勇者様なんだけどさ」
男は嬉しそうな声色で言う。
「……もしかして、気があるのですか?」
私は若干ジト目になる。
「!いいや、違うよ!俺は香織ちゃん一筋だ。ただその女の勇者様っていうのが……」
「きれいな人なんですか?」
「そうなんだ!しかも美玖様は胸が『大きいんですね』」
私は男の言葉にかぶせる。すると男は気まずそうに視線をそらす。余計なことを言ってしまったのに気が付いたのだろう。
……私の胸は発達が悪いことに。
私はぎろりと睨む。幾らその男がお客様であろうと許せることではなかった。あるときから成長の兆しのない。これは私の地雷なのだから。
「香織はまだ成長途中なんだから」
「!オレイン先輩」
オレイン先輩が私の頭を撫でてきた。
「そんなことでは騙されませんよ」
私は少し照れながらもそう言う。でもそのおかげで怒りは収まった。
「あー!これがモテル男だというのか!」
男はそう言って崩れ落ちた。さっきまで私に怯えていたというのに。……調子のいい人。
まあ、私が普通の女の子だったら今の言動で恋に落ちていただろうけど。あの女の子と極力触れ合わない先輩にそんなことをされれば並みの女の子だったら一瞬でノックアウトされるのは必然だ。
「もう!二人とも喋ってないで手伝ってよ!」
思ってたよりも話し込んでいたようだ。なかなか仕事に戻ってくれない私たちにしびれを切らしたのか、レティアが怒っていた。
……確かに注文が遅れているようだ。ごめんね、と謝って私たちは仕事に戻る。……余談だがオレイン先輩は私におしゃべりをやめるように言いに来たらしかった。
その後はレティアに怒られることもなく、山場を越えた。
「ありがとうございました!」
私は元気にそう言いながら最後のお客様を送る。
「ふう。やっと休憩できるよ」
私はどかっと椅子に座る。今日は何気にハードだったのだ。その理由ははっきりとわかっているのだが。
「草鍋さんか……」
私は先ほど話題に上がってきた勇者についての情報を思い出す。彼女の名前は草鍋美玖。見た目は大和撫子みたいな落ち着きのある綺麗な子だが、実際は違う。中身は派手なモノが大好きで自己中心的な人物。気に入らない人に対してはとことん嫌がらせをしたり悪口を言ったりする人。
はっきり言って仲良くしたくないタイプの人だな。それに……。
「今度は何をするんです?」
オレイン先輩は私が考えていることが分かっていたのだろう。彼は当たり前のように尋ねてきた。ちょうどいい。今回は私だけでは不十分だろうから……。
「ふふ、力を貸してくれますか、先輩」
先輩の力を借りることにした。
私がこう言っただけで私が何をするのかわかったのだろう。先輩はにっこりと笑った。
「いいよ。大事な後輩だしね」
それはもう楽しそうに答えた。……いつもの仏頂面からは想像できないようないい笑顔を浮かべて。
「ありがとうございます」
私はオレイン先輩にお礼を言う。
やはりオレイン先輩は頼りになる。
読んでいただきありがとうございます。