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怪異探究行

シリアルキラーは犠牲者の怨霊を見るか。

作者: 藤代京


 占いとSMの相似性をやろうと思っていたが、海老さんから頂いた感想で、なにがしかの強烈な無情を抱えた人は怪異に遭遇しても無傷ってことが多い、というのでふと思ったことがあったので。


 何を思ったかというと、


 シリアルキラーで神の啓示やら電波から命令されてやったという奴いないよな。


 勘違いだといけないので調べて見よう。


 エド・ゲイン。女性の体の仕組みが知りたかったと供述。


 テッド・バンディ。死刑前に暴力の中毒だったと告白。


 ジョン・ゲイシー。多重人格を主張。


 アルバート・フィッシュ。こいつは神から啓示を受けて子どもを殺したと裁判で主張するが、おそらくは裁判対策。逮捕前に神さまなどかけらもない。ひたすら殺して食べることしかしてない。


 ヘンリー・リー・リーカス。啓示どころか、恋人がキリスト教に目覚めたため恋人と疎遠になる。


 ジェフリー・ダーマー。こいつは逆に神からの啓示を受けた囚人に撲殺されている。


 アンドレイ・チカチーロ。社会の屑を掃除したと主張。実際には歪んだ性欲による反抗。


 酒鬼薔薇はバモイドオキ神をでっちあげたが、あれはそもそもオカルトに片足突っ込んだあっち側のリアリティの事件だしなあ。



 

 フィッシュ以外は見事に啓示とか電波に縁がないな。フィッシュも裁判対策臭いし。



 まあそれも納得できることであって、本気で神の声が聞こえるくらいおかしくなったら、せいぜいが通り魔的な犯行に及ぶのが精一杯で、ある程度の期間捕まらず犯行を繰り返すなんて理性の効いた真似はできない。

 シリアルキラーは異常さの方向が違う。


 では、どう異常さが違うのだろう。


 この前ロシアで逮捕されたドミトリーとナタリアの食人夫婦。

 彼らは被害者の生首等を携帯で撮影していた。


 こう書くと猟奇的だけと、やっていることはインスタやらSNSやらにアップするためにちょっと特別なアイテムを撮影する普通の人たちと変わりがない。

 アイテムを撮影してデータを保存するという行為自体は。


 人間までがちょっと特別なアイテムに入っているのが問題なだけで。


 そこなのだ。


 彼らは、シリアルキラーたちはおそらく人をちょっと特別なアイテムとしか認識できない。


 そしてその認識には自分自身も含まれる。


 他人はアイテムとして認識して、自分は人間として認識するなんてそんな器用なこと、できる訳がない。


 もちろん理性では自分を人間と思っている。しかし、脳の深いところでは、感覚では自分をちょっと特別なアイテムとしか認識していない。


 彼らが大抵、幼少期から逮捕に至るまで虐待やら軋轢やらさまざまな問題にさらされているのも納得だ。


 人間のなかに自分や他人をアイテムとしてしか認識できない奴がいたら、そら問題も起こる。


 虐待や軋轢が彼らを異常性に押しやるのではない。彼らのどうしようもない認識のずれが虐待や軋轢、さまざまな問題を呼び起こしているのだ。


 感覚として人間だと感じていないから、普通に振る舞えない。普通に振る舞うためにには、常に考えて普通を演出しなければならない。


 ブルース・リーの如く、考えるな、感じろ! をやってしまうと普通に人間から外れてしまう人たちなのだ。


 妖怪人間であることに気づいていない妖怪人間とでも言おうか。


 いっそ本物の妖怪人間であったら闇に紛れて生きることもできようが、自分をアイテムだとしか認識できない人間は社会の隙間に紛れて生きるしかない。




 ちょっと話題を変えよう。


 なぜ人を殺していけないのか。


 当たり前過ぎて、子どもになんで殺してはいけないのかと訊かれて、いい年した大人が言葉に詰まるぐらいに当然のことになっている。


 なぜなのか。


 人を殺しても構わない社会にした場合どうなるか、それについて人類は実地検証をやっている。人を殺していい場合、共同体がどうなるか実際に人を殺して実験している。


 その結果を踏まえて構築されたのが現在の社会だ。


 そんな記録どこにもないぞと言われてるだろうが、人類が文字を発明するよりずっと前に実験している。


 原始時代だ。


 法律なんてかけらもない時代に、他人を殺して奪うことを生きる手段にした奴がいない訳がない。


 自分ルールではあるが、自分と同じ種族を殺して奪ってもいいをルールした連中は確実にいた。


 そして淘汰された。


 ちょっと考えれば分かる。


 人を殺してもいいとした場合、まず集団を形成できない。自分の血族ですら信用できなくなる。


 基本、孤独になる。


 次に、例えば土器を発明した奴がいたとしても、殺して奪うだけなので人類史を変える発明が継承も伝播もされないで終わる。


 人を殺してもいいとした場合、なにも託されないしなにも託すことができない。


 見事に次につながらない。


 ただ荒涼としている。


 文字ができる前にできたルールだから、それは明文化されていない。


 それを踏まえて構築されたのが今の社会なのだから、明文化するまでもない。




 ただその社会からはじかれる人たちがいる。


 シリアルキラーな人たちだ。


 彼らの系譜はおそらく原始時代の殺して奪うことを選んだ原始人まで遡れる。


 シリアルキラーと殺して奪う原始人の人に対する認識はおそらく同じだ。


 


 ちょっと特別なアイテム。



 

 原始人と同じくシリアルキラーたちも人からなにかを託されないしなにも人の託せないで終わる。


 次につながる可能性を全て刈り取られて生まれてきたようなものだ。



 余りにそこは荒涼としていて、神も悪魔も住めないし、彼らは人間を理解できない。


 


 だから、彼らは人間を解体する。


 理屈でなくて感覚で理解して納得するために、悲鳴をあげさせ切り刻むし、暖かな血に手を浸し臓物の臭いを一杯に吸い込む。


 そして、食らう。


 目や髪、皮膚と言った記念品を持ち帰る。


 

 

 彼らは人を殺して解体して理解して、人間になりたがっている。


 

 性欲やサディズム、精神異常で理解しようとするから全部ばらばらで迷宮にさ迷いこんだようになる。


 彼らは人間を理解して人間になりたがっているだけだ。


 人や自分をちょっと特別なアイテムとしか認識できないゆえに、会話やハグでは荒涼とした心には届かず、

子どもが虫を解体するように、人を解体するしかない。



 彼らの根底に流れるのはおそらくこれだ。



 こんな生き物が自分が殺した犠牲者の怨霊を見る訳がない。


 神や悪魔、怪異は人が認識するもので人の領域だ。


 シリアルキラーは考えるな感じろで、ナチュラルに人の領域から外れてしまう人たちなのだ。


 彼らが犠牲者の怨霊を見ようと思ったら、心底自分を人間だと認識する必要がある。


 



 ただこれはたぶん、悟りを開くより難しい。


 まず理性と感覚の解離に本人たちが気づいていない。


 気づいたらその瞬間に殺人とは違うアプローチが取れるし、原因が理性と感覚の解離であると気づいた時点でかなりの問題が解決する。


 

 だって今まで書いてきたこと、全部俺に当てはまるもの。


 薄々、自分が人非人であることは知っていたものの、その根幹が理性と感覚の解離であったとは。


 気分はエウレカ! である。


 睡眠剤中毒のメンヘラ女に俺が普通じゃないから付き合えないとフラれたり、眼が虫みたいと言われたのは俺の感覚がシリアルキラーだったからなんだ。


 すっきりである。


 思い当たることしかないので、とても深く納得してしまった。


 

 

 これを書くきっかけが海老さんからのコメントであるから、人間いかに他人の視点と意見が大事かだと言うことだ。


 自力じゃわからなかったぜ。


 自分と違うということは違う可能性があり、それを認めることでまた可能性が広がっていく。


 人類が協調と対話の社会をつくってきたことは紛れもなく正解であった訳だ。


 シリアルキラー予備軍の書くことじゃないけどなあ。



 すっきりしたとこではて? と思う。


 以上のことから俺は怪異とは縁遠い人間であるはずなのだが、怪異健忘症であったことはなんだったんだろう?


 あれは認識の狭間で発生した怪異であって見た訳じゃないしだとか、色々いらんこと考えて自分から怪異に突っ込んでいったようなもんだし、と思うことはあるが違和感は残る。


 ええ?


 俺のなかでは怪異健忘症は終わったことになっているんだが、まだ続くのかよあれ。


 腑に落ちない以上、捨ておけばいいのに色々いらんこと考えてきっと嫌な感じを味あうことになるんだ。


 きっと。


 ここらへんが人を理解するために人を解体するシリアルキラーとやってることが一緒だ。


 そうか、俺は人を解体しないで概念を解体している。


 そういえばオカルトを解体して中身が見えればそれでよくて、それが真でも偽でも気にしてなかったな。


 興味が人に向いてない。


 そうかそうか、感覚と行動理念がシリアルキラーと同じなのに、俺が人を殺してない理由はそれか。


 他人に殺すほどの興味も関心も持ってない。


 人間を解体するより概念を解体してる方がずっと楽しい。


 もの凄く納得した。


 



 エウレカ!





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