私、お話ししました
相変わらずの不定期(一週間)更新
良いことがあれば悪い事もある。
前世風に言うならば間違ってドラゴンの巣に落っこちたけど当人は不在で卵だけゲットできた。
何が言いたいかと言うと前回の襲撃事件で私は三人と引き離されたけどいいこともあったってことだね。
祝、保育器卒業。
防犯のためと私の体が大きくなったために私は今日から、飼育室に移してもらえることになったのだ。
飼育室は入口から見て左手にある部屋だね、明かりがなかったからよく見えなかったけど白くて大木は四角い部屋だった。
正直言って殺風景。
殺風景なのは我慢しよう、重要なのはこの部屋の映像は警備室では見れないらしいことと、部屋に入るのには鍵が必要とかで、鍵は研究員の三人と所長が絶えず持ち歩かないといけないらしい。
これで泥棒の心配は無くなったね。
例の三人も無事疑いが晴れたらしく、今日から通常業務らしい。
透明な窓の向こうで三人が神妙な顔をして話し合っている。
これからどうするかとか、シフト? をどうするかとかそういう話をしているみたい。
だけど三人ともチラチラとこちらに視線を向けてくる。
記憶は戻ったけど記憶が正しいのかどうか判断に困っている、そんな感じかな?
じゃあそろそろ会話をするとしようか。
会話と言っても
正確には『魂話』だけど。
魂話っていうのは念話の特殊版みたいなものだね。
念話といえば、音を介さず相手と会話できる魔法の一つだけど、念話にはいくつかの長所と短所があった。
長所は音を出さない隠密性、加えて難度も低めで習得も用意、さらには通信距離はほぼ無限。
ただ他愛ないおしゃべりをするだけならこれほど便利な物はないけど、軍事利用や内緒話には向かない。
なぜなら最大の短所は、盗聴や混線さらには改竄が容易なこと。
あと妨害も比較的簡単にできる、これじゃあ機密がいっぱいの軍事利用は夢のまた夢。
対して魂話はというと、その長所は秘匿性にある。
使い方は念話と似たようなものだんだけど、対象を相手の魂の波長? みたなもので決定するから、盗聴は勿論妨害もほぼ不可能。
こっそり話すにはもってこいってわけ
短所はそうだな、私しか使えないってことと距離が最大でも100mくらいまでしか届かないってことかな?
おっと話が逸れたけど、さっそく三人に対して魂話をつなげてみよう
「(あーあーあー、てすとてすと、三人とも聞こえておるか?)」
おお驚いてる驚いてる、園香なんか椅子から転げ落ちた。
ってそっか、答え方が分かんないと困るよね。
「(記憶の中の念話と同じじゃ、心でそう思って送ると思えばよい)」
「(えっと……こうよね? 聞こえる? 黄色いの)」
最初に順応して返事を返してきたのはやっぱりキャサリンだった。
フェリスだったころから新しいものと魔法に対する順応度合いは高かったもんね。
「(聞こえます、魔王……じゃない、イエローちゃん)」
「(私も聞こえるわん)」
三人から無事返事が返ってきたところで、私は相手が見える位置へと移動する。
と言っても周囲に何もないから部屋の中央に移動しただけだけど。
三人も窓際に移動してくれたみたいだ。
「(うむ、三人とも聞こえておるぞ……まず主等の疑問に答えるとすればノーじゃな、夢ではない現実じゃぞ)」
別に心を読んだとかではない、三人の返事がどこか夢現というか半信半疑だったからだ。
「(つまり頭の中にある、そのぺったんじゃないエルフだった自分は夢じゃない訳か)」
「(私も自分が変になったのかと思いました。実は数日寝込んだんですから)」
「(そうね、私も驚いたわね)」
三人とも理解が早くて助かるね、キャサリンはぺったんって言いかけてたけど。
ん? この場合は思いかけてたかな? まあどっちでもいいや。
「(記憶がきちんと受け取りできているようで何よりじゃ。理解しておると思うが本題に入ろう。お主等が記憶を取り戻したのは前世でそういう契約……約束でもよいな、そういう類をしたからじゃ。記憶を取り戻し未熟であろう妾を守るためじゃな……ここまでで質問はあるかの?)」
キャサリンとジョセフィーヌはしばらく考え込んだ後に首を振った。
しかし並ぶと頭二つ分だけでっかいんだな堅三じゃないジョセフィーヌ。
園香がおずおずと手を上げてきた。
「(それは強制なんですか?)」
「(ん?)」
「(私たちが貴女を守ることは強制なんですか? 辞退することは?)」
言わんとしていることは分かるよ、今の彼女はどことなくか弱そうというか戦いには向かなそうだもの。
確かにある日記憶が戻って、
「お前は前世で約束をしたんだから戦ってもらう!」
とか言われても剣を持たされても困るよね。
まあその辺は安心してもらっていいんだけど。
「(安心せい、強制ではない。主等との契約はあくまで「記憶を呼び覚ます」所まで、それ以降の選択肢は好きに選ぶと良い。 確かに前世の主等は妾と共に行く道を選んだが、今世の道行を決めるのは主等の自由、記憶が邪魔になるというならば再度記憶を封印することも可能じゃ)」
てっきり強制だと思っていたのか園香が驚いた顔を浮かべている。
他の二人も驚いているみたい。
そりゃ守りはあった方がいいけれど、選択権は彼らにあるよ。
だってもう上司と部下じゃないからね。
「(それでどうするのじゃ? 前世の契約通りに守り人となるか別の道を選ぶか)」
「(私は守り人になるわ)」
最初に返事を返してきたのはやっぱりキャサリンだった。
「(心のどこかでずっと思っていたのよ、この世界の何かをもっと知りたいって……今まではずっと分からなかったけど、私が知りたかったのは魔法のことだったのね。貴方と一緒ならまた研究もできるかもしれないから。私は知識のために貴女の傍に寄り添うわ)」
「(ふふっ)」
思わず笑いが漏れちゃった。
知識のために寄り添うという言葉は殆ど前世とおんなじだったから。
どうやら彼女は生まれ変わっても魔法馬鹿のようだ。
微笑ましい気分になっていたら、ジョセフィーヌがいきなり臣下の糺を取った。
しかもガラスに頭をぶつけながらだから大きな音がしてかなりびっくりしたよ。
「(記憶と言葉をもらって確信しましたわ。私は常々不思議に思ってましたの、体は男性でも心は女性それなのにひたすらに体を鍛え続けてきたのは、単に主を守るためだったのですね)」
あ、やっぱり体は男なんだね。
「(この……ジョセフィーヌ、前世と変わらぬ忠義を貴女に!)」
「(う、うむ)」
ちなみにだけど、前世の彼女? も女性用鎧だったので多分性別は女性だったと思う。
なんで男になったのかはよくわからないけど。
忠実な心根は変わってないみたい。
「(私はその……保留でいいですか?)」
三人とも都度よくとはいかないみたいで、彼女はおずおずとそう切り出した。
拒否じゃないだけマシといえばマシだけどね
「(理由を聞いても良いか?)」
「(私は争い事が嫌いですし苦手です。だけど前世の私の約束も大事にしたいと思うんです。今の私が折り合いをつけられるまで、この話は保留でいいですか? イエローちゃん)」
彼女が今の名前で私を呼んだのは、過去の魔王じゃなくて今の私に判断してほしいってことなんだろうね?
私はできれば守る方を選んでほしいと今も思っているけどね。
「(じゃあ小難しい話は終いとしよう。聞きたいことがいっぱいあるのじゃ……まず手始めに今現在の魔法についてと近場の魔族分布についてじゃが)」
「(あー……近くにはちょっといないですね)」
「(ふむ、では大雑把に種族の勢力図を教えてもらおうか?)」
「(いえ、それもその……)」
なんだか随分歯切れが悪い。
「(驚かないでくださいね? 魔族は……滅びました)」
「……きゅう~~~~!?」
あ、驚きすぎて変な無き声が出た。
次回、ついに現実が元魔王様に叩きつけられる。