表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/23

私、手を抜いて撃退しました

 ギリギリ一瞬間以内。

 侵入者たちが部屋を適当に荒らして、書類や機械を床にばら撒いたり、私の保育器があるべきところの近くに壊れた同型の保育器を置いたりと色々小細工をしている間、私はずっとあることを考えていた。

 この場合はこいつ等の罪は窃盗なのだろうか? 誘拐なのだろうか? と。


「それくらいでいい、いくぞ!」

「へい、兄貴」


 リーダー格というか主犯格は男らしい。


 明らかに只散らかしただけなのだが、これでこいつらは私を攫ったという事実を誤魔化せると思っているのだろうか?

 私は多分無理だと思うけど、幾ら壊した保育器を設置したとはいえ私が逃げられるような隙間はこの部屋にはないんだし。

 唯の物取りならばここまで入念に準備はしないだろう。


 予め外に連れ出されることになっていた警備員。 

 無力化された監視の道具。

 用意されていた私が入っている物と全く同型の壊れた保育器。

 初めから私狙いなのは間違いないんだよね。


「へへへ、国立の建物から盗むって聞いた時はひやひやしたが、なんだ簡単じゃねぇか」

「場所は兎も角スライム一匹始末するのにあの金額は不自然だと思いましたけどね」


 どうやらこいつらは使いッパシリらしい。

 仕事が終わった開放感からかペラペラと二人でお喋りをしながら保育器ごと私をリュックに詰めようとしている。

 私が元魔王だとうか知っている様子もないし、彼らからは魂の印(マーキング)も感じない。

 本当に唯の小悪党みたい。


 私の存在を知っている相手がついに消しに来た!? と少しわくわくしたんだけどね。

 いや自分から厄介事に首を突っ込みたくはないよ? 突っ込みたくはないけど最近暇だしちょっとは何かあった方がいいかも? みたいなお話。


 さてここからどうするか、選択肢はいくつかある。


 一つこのまま攫われてみる。

 却下だね、どこからどう見ても今以上の待遇で私の世話をしてくれるとは思えない。

 良くてどこかに売られるか、最悪他の魔物のエサか。

 

 二つ目はこのまま逃げ出して外の世界をエンジョイする。

 今の世界を気ままに楽しむことは私の目標でもあるけれど、今はまだ早い。

 だって私は未だ今の時代の建物の外がどうなっているのか、世界がどうなっているのか全く知らない。

 情報失くして勝利なしなのは太古の昔からきっと変わらないはず。


 じゃあ三つめの選択肢、抵抗だ。

 脅威を排除するもっとも簡単な方法は武力でもってそれを退けること。

 簡単に言うと殴るか魔法で押しとおる。

 え? 情報戦? いつも情報が得られるわけじゃないからね。


 選択肢は三つめにするとしても、どう倒すかが問題。

 倒せるかどうかじゃない、どうやって倒すかどうか。

 こんな奴ら弱い魔法一発でどうにでもできるんだよね。

 圧殺焼殺滅殺思いのまま、だけどそれじゃあいけない。

 飼い犬がいきなり前足で見事な剣技を披露したり、飼い猫がいきなり魔法の詠唱をして魔物を吹っ飛ばしたりしたら不自然でしょう?

 犬が噛みつくがごとく、猫がひっかくがごとく、私もスライムらしく戦わないといけない。


 で、スライムって何ができるんだっけ?

 えっと、まずたいあたりでしょ? あとは擬態……はダメか戦闘用じゃないしちょっと高度過ぎる。

 なんでも溶かす攻撃……はどうやればいいのか分からない、酸? でも酸なんて使い慣れてないからどれがいいのやら、なので却下。

 体の形を変えるのは……これも擬態の応用になるのかな? じゃああとはあ


 結論体当たりだけでこそ泥と戦わないといけない。

 これはなかなか面倒だ、昔弱い勇者と戦うのに両腕禁止にして戦ったことがあるんだけどあれも大変だった。


 何だかんだ考えているうちにもリュックに入れられた私はどんどん部屋の外へと連れ出されている。

 じゃあとっとと抵抗することにしますか。


「うおっ!?」

「何だ!?」

「例のスライムが急に暴れ出して」


 保育器ごとリュックの中でごとごと大きな音を立ててやる、後ろ暗い奴は騒がしくされるのは困るはず。

 周囲の魔力を探ってみれば遠くの方に人影がちらほら見える、部屋の警備は追い払えても全員をしめだすことはできなかったらしいから騒がれるのは不味いはずだ。

 となれば、次に相手がとってくる坑道は?


「くそ、リュックを下ろせ次郎。一発殴れば大人しくなるだろ」

「へい兄貴」

 当然私を大人しくさせる為何らかの実力行使に出てくる。

 相手の顔が見えたらそのまま外に思いっきり飛び出す!


「うひゃ!?」

「こいつ! 保育器から飛び出しやがった!?」

 脱出成功、おまけに硝子っぽい物の破片を周囲にばら撒いてやったぜい。

 これでこっそり私を連れだすという算段は滅茶苦茶、飛び散ったガラスの破片を拾うことは不可能だし仮にそんなことを始めようものならば私はもっと大きな音を立てちゃうぞ? どうする小悪党ども。


「しかたねえ……脱走に見せかけて後でこっそり始末するつもりだったが」

「でも兄貴、相手は魔物ですぜ?」

「魔物って言っても一山いくらのスライムだろ? 児童公園の格闘チャンピオンと言われた俺の腕前を見せてやる」


 言葉の意味は分からないけど直感で分かる、弱そう。

 ぴょんぴょん跳ねて挑発してみると相手もファイティングポーズを取りながら軽くステップを踏む。


「シュッシュッシュッシュ」

 あ、口で言っちゃうんだそれ。

 と言うか体格差があり過ぎてパンチは逆に当てずらいでしょうに。


 パンチすると見せかけて上から踏みつけに来た足を華麗に躱してから……ここで体当たり!


「おご!?」


 あ、なんかものすごい音が……兄貴と呼ばれていた男が天井まで吹き飛び

 ドガンって感じの爆音を立てて天井にひびが入る。

 そのまま地面に落ちてきてぴくぴくと軽く痙攣し始めた。


 あれ? 失敗したかな?

 本気でやっちゃうとお腹にスライム型の穴が空いちゃうからこれでも大分手加減をしたんだけど。


「……(中位回復(ミドルヒール)

 とりあえず死なない程度に回復させておこう、こいつには後で背後関係を洗いざらい警邏の人たちに話してもらわないと困る。


「……兄貴?」

 あまりの光景に呆然と立ち尽くしているもう一人には、もっと威力を抑えた体当たりを食らわせてみた。

「あぎゃ!?」

 こっちは変な鳥みたいな声を上げて壁と激突してしまった。

 今度は壁にひびも入っていないし、男の目を回して気絶しているだけだ。


 手加減大成功!


 勝利に浮かれてぴょんぴょんと飛び跳ねていたら、急に背後から敵意を感じた。


「この、よくもやってくれたじゃねえか……なんかよく分からんが体の調子もいいし手加減抜きでぶっ潰してやる」

 兄貴さん、まさかの中位回復(ミドルヒール)で全回復、どころかオーバースペック過ぎて身体能力がちょっとブーストされている模様。

 

 回復(ヒール)再生(リジェネ)あたりにしてじわじわ回復させるべきだったかな? と私が反省をしていると兄貴さんは腰にぶら下げていた黒い筒を取り出した。

「もう謝っても許さねえ……いやスライムが謝るところは見たことねえけどよ」

 腕を素早く振り下ろすと筒は黒い棒のような物に変わった。

 

 おおーなかなかカッコいいギミックじゃん。

 ずいぶん細いように見えるけど折り畳みの棍棒の一種かな?


 ちなみに今更だけどスライムには多かれ少なかれ物理体勢があるので打撃や斬撃はあまり効果がない。

 だから拳やら棍棒やらを出されても今一緊張感がないというか。

 なんて考えていたら向こうが切り札(ジョーカー)を出してきた。


「模造聖剣起動!」


 聖剣ですと!? 聖剣って言うと勇者のメイン武器で光ったり、光線がでたりするあれか!?

 まさかこいつがそんな武器を持っているとは思わなった。

 これは私も少しは本気を出さないといけないかな? とやる気を出した私の視界に入ってきたのは。


「どうだ! 模造聖剣S2000型、しかもハッキングツールでリミッター解除済みだぜ! お前にはこの武器がどんなにすごいかは分からないかもしれないが、この聖なる光は怖いだろうが!?」

 黄色く光る黒い棒だった。


 え? 待って聖剣だよね? それ聖剣なの? おもちゃや松明じゃなくて?

 しかも聖なる光……出てることは出てるけど何というか誤差レベル。

 これなら聖人の汗が染み込んだハンカチの方がまだ聖なるアイテムなんだけど。


 疑問とツッコミが頭の中を駆け巡っている私に向かって兄貴さんは聖剣? を振り下ろした。


 パシュンと風船が割れるような音を出して私……ではなく棒の方が折れる。

 まあそうなるよね。


「はあ~~~~~~~~~!?」


 大声を上げる兄貴さんの顔面に向かって私は止めの一撃(体当たり)を叩き込んだ。




 次回あたりで現代でやっと会話が発生する予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ