私、傭兵と出会いました。
更新が遅れまして大変申し訳ありません。
「みんなー、ミカちゃん体操はーじめーるよー』
「……」
『元気ないなー、ミカちゃん体操はーじめるよー』
「いえー」
「まずは女神さまに感謝して祈りの運動!」
「(……子供番組にしてはちょっと洗脳がきつくないかの?)」
「(……今までは気にせず見て来たけど、言われてみればって感じよね)」
私が観ているのは国営放送の子供向け番組ってやつだ。
マジビジョンのみる許可は下りたんだけど、時間とチャンネルは限定。
至極簡単に言えば、『ニュースと娯楽番組とスポーツと劇は禁止』。
私が観ることを許されているのは、国営放送の子供向け番組と検閲をクリアした長編映像作品だけ。
どれもこれも歯車マーク入りだ。
「いちーにーさんしー」
観たくもない物を観せられた上、運動を強制される。
本当はやりたくないんだけど、やらないとやらないで
「マジビジョンは興味がないから別アプローチ」
ということになりかねない。
どうにか他の番組が観られるようになるまで粘らないと!
「(そういえばなんだけどさ、今日は何でも所長主導の検査があるらしいよ?)」
「(……侵入した件と関係あるのかの?)」
「(いいえ、何方かと言えば貴女を視察した後すぐ決定したみたいよ)」
独り言で言っていた検査の話かな?
「(でも検査ならば毎日しておろう?)」
「(あれは健康診断みたいなものだから。今回やるのはより精密に、魔力とか検査するらしいよ。ちゃんと手加減できるわよね?)」
「(無論じゃ)」
そのたたりの手加減はきちんと考えてある。
今まで見てきた人間たちを考慮して……それの半分くらいあればいいかな?
・・・
お昼ご飯を過ぎたあたりで、所長たちが物々しい数で検査にやってきた。
気になったのは研究員以外に物騒な連中がついてきていたこと。
まず全体的に黒い。
うん、自分でもどこか頭の悪い発言だとは思っているけどそうとしか言いようがないんだよ。
研究員たちは白衣とマスクがトレンドマークだから全体的に白くなる。
それに反して彼らはとんでもなく黒い。
上から下まで黒だ。
黒くて丸い被り物に黒いプレートアーマーみたいな物、肘当てや膝当ても黒い。
そして目付きが違う。
研究員たちの目付きは、研究者特有の鋭さがあるけど所詮民間人って感じがする。
彼らの目付きはそれ以上に鋭く、立ち振る舞いにも比較的隙が無い。
私が知っている中で似ている存在を上げるならば警備員。
前世の記憶まで遡っていくのならば……一番近いのは。
「(兵士……いや傭兵か?)」
「(お、当たらずしも遠からず。アイツらは警備増強のために雇われたPMCだよ)」
「(ぴーえむしー?)」
「(民間軍事企業……分かりやすく言えば傭兵屋さん)」
あれ? おかしくない? 確か以前の話にだと。
「(戦争はここ千年ほど起きていないのでは? どこで傭兵が必要になるのじゃ?)」
「(人間と人間の間ではね……あと小さい紛争は何度か起きている。彼らの専らのお相手は、人類に被害を与えようとする魔族と……それから)」
「それで所長さん、俺たちの最後の仕事はこの異質なスライムモドキの処分か?」
エリザベスの思念を遮る形で、黒服の男……そのうちの一人が腰の剣に手を当てながら私のいる部屋へと近づいていく。
そう剣だ。
この時代では帯剣している人間を始めてみる。
しかも一本ではなく派手な装飾の剣を三本となれば目を引かないわけには行かない。
男が近づくと同時に、エリザベスと園香がこちらを守る様に前に出た。
「処分ではない、あくまで有事に備えての待機だと言った筈だが?」
「待機で俺らを三人ともとは……心配性なのかお金が有り余っているのか。剛毅な話だ」
男が肩をすくめて後ろへ下がる。
どうやら腕に帯を巻いている三人が主力らしいね。
「(……命拾いしたね、ぺっ)」
「……黄色ちゃん、大丈夫?」
エリザベスが内心舌を出して、園香がこちらを気遣う様に話しかけてくる。
私は大丈夫だよと笑顔を作っておいた。
「(それでこいつらは何者じゃ?)」
「(……私にはさっぱり)」
園香はその手のことには詳しくないようで、小さく首を振る。
「(……PMC『ミカエルコーポレーション』の主力部隊、別名魔物狩り部隊。PMCの中でも対魔物戦に特化したエキスパートよ)」
答えが意外な所から出てきた、こういうのエリザベスは興味ないと思っていたけど。
「(脅威になりそうな連中を調べておいただけよ。しかし一番の大物がかかるとは思わなかった)」
忙しそうに準備する研究員たちの後ろから、エリザベスは目線だけで先ほど進んだ男を示す。
「(あいつは『ワードック』勿論偽名よ。自称聖剣士)」
「(剣士? この争いのない時代に?)」
「(敬虔な女神の信徒で、聖剣を三本所持しているらしいわ……流石に銘まで分からなかったけど)」
私は機械の向こうに立つ男を確認する、男はこちらの視線に気づいたのか剣に手をかけて歯をむき出しにして笑ってきた。
実力は兎も角見た目は完全にチンピラだ。
「(隣の腕に変な機械を付けた男は『マジシャン』自称世界最強の魔法使い……ありえないけどね)」
ワードックの隣、腕に機会を付けた神経質そうな男は、こちらを確認せずに腕の機械を弄り続けている。
「(腕の機械は増幅器で、緑ランク以上の魔法を一人で使えるらしいわ……どうせ使えても精々青ランクでしょうけど)」
エリザベスの目が冷たい。
彼女にとっては自称の二つ名も、その実力も気に入らないんだろう。
前世は世界一の魔法使いと呼ばれていた彼女だし。
「(それで後ろの大猿みたいなのが『コング』……あれ本当に人間なのかしら? なんでも素手で大鬼を倒せるらしいわ)」
「(……それはすごいのかの?)」
「(今の人間にしてはね?)」
前世では素手でドラゴンを倒せる人間も何人かいたからね。
兎も角所長は、この時代で優秀な戦力をそろえて来たみたいだ。
それが何を意味するのかはよく分からないけど、なんとなく。
「いやなよかんがするー」
「大丈夫、検査はすぐに終わるから」
きな臭くなってまいりました。




