私、相談しました
気づけばまた日付が……
何事もなく第一研究室から逃げ切った翌日、私は園香たち三人を招集した。
普段の彼女たちは昼間に二人夜に一人泊まりのローテーションを組んでいるから全員がそろうことって中々ない。
だから今回みたいに何か問題が起こった時は非番のもう一人を呼び出す手筈になっている。
お休みのところ来てもらうのは申し訳ないんだけど。
「休日は大抵家に居ますから別に構わないですよ」
「天才の思考を邪魔しなければ別に?」
「ジムに居るからすこーしお時間をもらうけどいいかしらん?」
と多分快い返事をもらえたので、今回も招集することにした。
ちなみに今回非番だった可哀想な人はエリザベスだ。
「あれ? どうしたんですか? エリザベスさん」
「チョットワスレモノヲトリニ?」
エリザベスさん声が棒読みになってます、うんこれはかなり怒っていらっしゃる。
仮にここで私が
「(呼んでみただけじゃ)」
などと言おうものなら呪いの10や20はかけてきそうだ。
彼女の呪いは中々厄介で
『3%の確率で飲み水が気管に入る呪い』だとか『1%の確率で転んだ時変な声が出る呪い』だとか、解かなくても生きるのに支障はないけど、起きたら起きたでめんどくさい呪いばっかりなんだよ。
「(あーあーこほん、皆のもの良く集まってくれた)」
「(私は元々仕事でしたから)」
「(わたしもよん)」
「(つまり、労われるべきは私よね? 変な無いようだったら分かっているわよね?)」
これは相当怒っていらっしゃる。
さっさと要件を言った方が良さそうだ。
「(第一研究室、あそこで何が研究されておるか知っておるか?)」
「(第一研究室ー? あの頭でっかち所長が何やっているかなんて知ったこっちゃないわよ)」
エリザベスは昔から自分の興味ないものはとことん興味ないもんね。
「(えっと……確か遺伝子情報から新しい合成魔獣を作り出す研究だったような?)」
「(私は失われた魔獣の再生実験だって聞いていたけどん?)」
園香とジョセフィーヌも詳しいことは知らないみたいだ。
出てくるのは噂程度の話みたいだし。
「(そうか……実は昨日ちょこっと第一研究室へ遊びに行ったんじゃが―――)」
「(―――はぁ!? 何勝手なことしているのよ……そうかだからこの前監視カメラがどうのこうのって言っていた訳ね?)」
本題を話そうとしたらエリザベスに突っ込まれた、他の二人も驚いた顔をしている。
「(だから他の研究員さんがピリピリしていたんですか……でも誰もこちらに怒鳴り込んでこないのはどうしてかな?)」
「(黄色ちゃんだってこんなでも元魔王よん? 自分の仕業だと分かるようなへまはしていないでしょう)」
確かに私が侵入したことはばれていないはずだけど、どうも研究対象の様子から『何か起こった』ことは向こうにも分かったみたいね。
私も向こうも何かを破壊したりはしなかったはずだけど……相手の様子がおかしかったりしたのかな?
「(勿論ばれてはおらぬ。問題は研究対象と思われる存在でな……)」
私は夜中に逃げ出して、第一研究室に『迷うことなく』誰にも見つからずに行ったこと。
穴だらけの警備を掻い潜り第一研究室に侵入したこと。
そして中で研究されていた『何か』その何かが魔法を使用してきたことを事細かく伝えた。
研究室内のことは出来るだけ詳しく説明したよ、機械の見た目とかで何かわかるかもしれないし。
「(ちょっとまって? 空間破壊を圧縮詠唱する何か? 研究所なんかにそんな存在がいるわけないでしょ!)」
「(紫クラスの魔法使いと同レベル……しかも連続使用してくるってことはそこそこの魔力持ちですよね? 前世の従軍魔法使いでも十分通用するレベルじゃないですか)」
「(そんなものが暴れ出したら国が亡ぶどころか人類が滅ぶわん……でも言い方は悪いけどよく調教されているみたいねん)」
どうやら私と三人の認識は一緒だったみたい。
この時代の魔法のレベルを考えれば研究対象としてはレベルが高すぎるし。
そのレベルは前世で通じるレベルの魔法使いと同等で。
そしてそれが暴れ出したら確実に国が亡ぶ。
そんな存在が研究所の機械一つ壊さない様な慎重な攻撃をしてくる……恐らく所長の言うことをよく聞いているということ。
どうやら私が勘違いしている訳じゃないみたい。
「(そんな存在がこの近くにおる……おるのじゃがそれをどうするかじゃな?)」
「(……触らぬ魔王に何とやらだと思います。幸いその『何か』は所長の言うことをよく聞いているみたいですし、無視でよいのでは?)」
「(……そうね、いざとなればアンタが何とかすればいいでしょ? 元魔王様)」
園香とエリザベスは様子見した方がいいって意見らしい。
確かに今の所私たちに関係はないんだよね、人間で例えるならば
「お隣さんが人間どころかドラゴンなんだけど生涯一度も起きたことない」
みたいな状態だ。
起こそうとしなければ何も起こることはないし、これから先も起きる可能性は低い。
だけど何か起こる可能性もある、そんな感じ。
「(どうかしらん。流石に無関係ではいられない気がするんだけどん)」
私もジョセフィーヌに同意見、同じ施設にいる以上無関係ではいられない気がするんだよね。
所長さんは私とアレの関係性を疑っているみたいだし。
「(誰も正体を知らぬし、手が撃てるわけでもない。今は傍観じゃな)」
今は様子を見るしかないみたいだね。
いよいよきな臭くなってまいります。




