私、お散歩してました。
一日遅刻した上に戦闘まで到達できず。
こつんこつんと静かな廊下に足音が響き渡る。
彼はいつも通りの順路でいつも通りの見回りをしている最中だろう。
その足取りも普段通りの一定のリズム、暗闇を恐れる様子もない。
ところがその足が一瞬止まる、彼は何かに怯えたようにゆっくりと天井に向けてライトを向けた。
しばらく恐る恐ると言った様子で天井を照らしていたライトは
「……気のせいか……暇だからって怪談話を聞きながら警備なんてするもんじゃないな」
恐怖を誤魔化す様に彼はつぶやくと、足早にこの場所を去って行った。
「(実は気のせいじゃあないんじゃ、命拾いしたな名もなき警備の人よ。これがもし暗殺者か道の怪物であったらお主の首と胴体は永遠の分かれするところじゃったな)」
私はライトが当てられた後もじっと彼が立ち去っていくのを確認した後、再び『天井』を進み始めた。
かっこつけて永遠の分かれとか言ってみたけど、実はかなりびっくりした。
ここまで『勘』のいい人間が現代にもいるなんて。
『勘』っていうのは意外と侮れない。
天性の直感能力持ちもいれば、経験則に基づく無意識の選択であったりその中身にもいろいろあるけれど、ひとこと言わせてもらえればこれはかなり厄介。
相手が勘がいいかどうか? なんて噂と前評判くらいでしか判断できないもん。
一回相手が勘がいいかどうか分かる魔法を創ろうとしてみたけど上手くいかなかったし。
それでいて勘のいいやつは罠には気づく、奇襲にも気づく、私の機嫌が悪い事も気づく。
必殺の一撃を躱す、牽制の一撃を見抜く、隠し玉を台無しにする。
戦うにはとことん厄介な相手だったなぁ。
|閑話休題《思い出話は置いておいて》
私がなぜこんな所、お部屋の外の天井をお散歩しているかと言うと。
前回の所長様の怪しげな会話が気になったので、暇つぶしに偵察に出ることにしたのであった、まる。
実はお出かけするかどうか最後まで迷っていたんだよ。
何故なら例の『かんしかめら』さんとやらがどうやってこっちを監視しているのか分からなかったから。
私の時代には魔力の動きを監視する魔法具とか、その場所に少しでも変化があれば通報する魔法具とか隠密泣かせの装置がいっぱいあったから警戒していたんだよ。
それでそのあたり詳しそうな人に聞いてみることにした。
「(のう、偽乳)」
「(ほんものですー! じまえですー! 何なら脱いで見せてやろうかこら)」
「(冗談じゃ、それよりも聞きたいことが有るんじゃが)」
普段の私は人の悪口を言ったりしないけど。
私はこの前笑いまくっていた彼女をまだ許してないからね!
そんなわけで仕事終わりで帰ろうとしていたのエリザベスに声をかけることにした。
今の世の中では天才学者らしいけど、前世では魔法研究者、そして魔法具の研究では右に出る物はいないとされた天才魔法使いだからね、道具のことを尋ねるなら彼女以上の適任はいない。
「(なに? この前のことなら悪かったって言ってるじゃない)」
「(そうではない、あの『かんしかめら』のことを聞きたいのじゃ)」
私は天井を見上げる、客観的にはちょっと伸びをした感じになるかな?
エリザベスも釣られるように天井を見つめた。
「(ああ、アレがどうかしたの?)」
「(あれが何をもって監視をしておるのか知りたい。もし七覚監視レベルじゃったら誤魔化すのが苦労しそうじゃし)」
ちなみに七覚監視は私とエリザベスが前世で開発した監視魔法具ね。
映像、音、匂い、接触、温度、魔力、空間変性、七つの観点から対称点を監視することのできる私たちの傑作のひとつ。
この監視魔法具を設置した後に私の魔王城に侵入で来た不届き者はいない。
不審者は速攻で捕まる、どんなに足音を忍ばせても心音で気付かれる。
薬を使っても匂いや魔力が感知されて警報が鳴る。
姿を消しても魔力と温度で見つけることができる。
勿論直接破壊をしても警報で、魔力での隠ぺいも勿論監視範囲内。
強引に抜ける方法ないことはないんだけどね。
「(はぁ? 監視カメラがあの絶対防衛システムと同等? ふざけたこと言わないでくれる?)」
何故か憤怒の表情で怒られた。
「(いやその……すまぬ)」
「(監視カメラなんて所詮映像を取るだけの単純なシステムよ。今のアンタの能力を使えば簡単に乗り切れるわ……今の失言でこの前の件は帳消しってことでいいわね?)」
「(……よかろう)」
何故かこの前のことを許す流れになっちゃったけど、知りたいことは分かった。
映像しかないなら誤魔化すのは簡単。
『完全擬態』で透明になってしまえばいい。
そんなわけで今私は透明になって廊下の天井に張り付いているわけ。
目指すは第一研究室、所長様がしまい込んでいる『何か』だ。
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