私、魔法の衰退を知りました。
如何にか土曜日更新。
二度目のお披露目の時間が近づいてきた。
前回のお披露目から対して時間は経っていないけどね、ひと月くらいかな?
スライムが発達する速度にしては早すぎる。
私たちの時代でも、スライム種が言葉を交わせるようになるまで半年から一年はかかったはず。
「(さすがに慌て過ぎじゃない? じっくり腰を据えて進化しているようにみせればいいと思うけど?)」
キャサリンに苦笑い交じりに小言を言われたけれど、私の考えは変わらなかった。
「(暇なんじゃもん。絵本もさすがに飽きた)」
「(……そりゃまあ、見た目は子供というか赤ん坊でも中身は成熟しているものね)」
絵本を読み聞かせてもらう生活にも飽きて来たんだもん。
最初は面白かったよ? 聞いたことない物語やら伝説を知ることは幾つになっても楽しい。
でも段々と内容が重複してくるんだもん。
どこかで聞いたことのあるお話だなぁって思いながら聞いていたら、前聞いたことのある物語だったり。
最初は聞いたことない感じだったのに途中から展開が一緒になったり。
そもそも絵本の七割くらいが『糸車印』だからさ?
だからさ、どうせスライム種が喋り出す時期なんて分かりっこないだろうし早めに喋ってもいいかなぁって。
「(そもそもスライムが喋るって発想は現代にありませんよね)」
「(そういえばそうね……喋るのは高位の魔物と人間だけっていうのが常識よね)」
「(……常識っていえばん。翻訳魔法なんかもないわよねん、それは仕方のないことなんだろうけど)」
ん? いま彼じゃない彼女変なこと言わなかった?
「(翻訳魔法が無いってどういうことじゃ? そこまで難易度の高い魔法じゃないじゃろ、同種族同士で黄色級、異種でも精々緑級じゃー――)」
「(あー、元魔王様にはまだ言ってなかったかしらん?)」
ごんぞ……じゃなくてジョセフィーヌが愛らしく首をかしげる。
仕草は完ぺきなんだけど、見た目が見た目なんだよね。
本人には言えないけどね、うっかり気持ち悪いなんて口を滑らせようものなら物凄く落ち込むから。
一回あったんだけど罪悪感が半端なかった。
「(酷いわん! こんな見た目でも心は繊細な乙女なんですからねん)」
前世もそんな口調だったのかな、前世は殆ど喋らなかったから。
『はい』『いいえ』『殺しますか?』『偉大なるご主人様の思うままに』『フワフワ』
くらいしか聞いて事なかったし。
ちなみに最後の一言は私の尻尾を触らせてあげた時の感想ね。
おっとジョセフィーヌのことは置いておこう、考えない方が良さそうだ。
問題は言ってなかったことだ。
「(言っていないことはなんじゃ?)」
「(今の人間種族は魔法をほとんど使えないのん。赤級を使えればいい方で、橙まで行けば一流。《イエロー》まで行けば希代の天才と呼ばれるわん)」
「(それじゃあ、主流の大規模浄化魔法や収納魔法とか空間魔法とか使えぬじゃろ! あの辺は最低でも青級じゃぞ?)」
昔々は魔法に階級なんて存在しなかった。
そのせいで魔力が足りてないのに大魔法を使おうとして盛大に自爆する馬鹿が後を絶たなかった。
だから私は研究者たちに交じって魔力を測定する方法と装置、そして階級を定めたんだ。
下から順番に赤級橙黄色級緑級青級藍級紫級の七階級。
人と魔法では意味合いが違っていて、魔法に対する階級は『使用難易度』人に対する階級は『魔力量と魔力制御力の両方から割り出した魔法使いとしての技量』になってる。
前世の人間だったら学校で黄色級までは学んでそれ以降は専門で学ぶ感じだった。
それでも十人に一人くらいは青級だったし当時の宮廷魔法使いの長とかになれば紫は当たり前、それくらいのレベルだった。
ちなみに魔王は下の下クラスであっても紫以上が当たり前、これに関しては別の理由があるんだけどそれは今は関係ないね。
この階級制度を作ったことも私の功績の一つだったんだけどなぁ。
「(だからそのあたりは魔道機械が代用してるわん。今の時代魔法を使うよりも、魔道機械を作った方が効率がいいとか思われているみたいねん。だから純粋な魔法使いも少ないわ、その殆どが赤級から橙級ねん。黄色は100人もいないわん。辛うじて緑や青の一部が集団で再現されている程度ねん)」
「(魔道機械というとあれかの? マジックビジョンや上のかんしかめら? じゃったか? あれのことかの?)」
「(そうよん)」
確かに遠くの映像を映す魔法は難易度が高かったし、一定個所を監視する魔法も中々に高難易度の上一定期間で再使用が必要だったはず。
それを考えれば誰でも使えて持続時間も長いとなれば廃れるのも無理はないのかもしれないなぁ。
「(藍以上の魔法はどうなっておるのじゃ? 知識も失われたのか?)」
「(そうねん、そのあたりの魔法は伝説の魔法とか、想像上の魔法とか……あと)」
「(あと……なんじゃ?)」
ジョセフィーヌがなにやら言いづらそうに口を閉ざして目をそらした。
気遣いのできる子だから、私が傷つく内容なんだろうね。
でも多分知っておかないといけないことだ。
「(気にせず言ってみよ)」
「(御使いにしか使えない魔法だと思われているわ、彼らが伝えた魔法だとも)」
「なんじゃってー!」
「ちょ!? 黄色ちゃん声に出てます!」
流石にこれはちょっとショックだ、思わず声が出ちゃうほどには。
「(だから言いたくなかったのよん)」
「(そりゃショックじゃよ。その階級の魔法は、当時の魔法使い達が切磋琢磨して編み出した魔法ばかりじゃからな……所で人間の魔法が衰退しているのは分かったのじゃが主等はどうなんじゃ?)」
「(私は……元々魔法は補助程度でしたから……使えなくとも問題は……使えそうですけど)」
「(私を誰だと思っているのかしら? 記憶を取り戻してからはすらすら使えているわ。紫以上でもね)」
「(わたくしも問題ないわん。逆に今までどうして使えなかったのか分からないくらいねん)」
うーん環境的に魔法が使えなくなったわけじゃないんだね、なんでかな?
時間はあるからこっちはゆっくりと調べることにして、今は研究発表会に集中しよう。
今度こそマジックビジョンを設置してもらわなくちゃ。
魔法の階級は虹になぞらえてます。




