私、絵本を読んでもらいました。
17日36時なので一週間以内です。
嘘です寝過ごしましたごめんなさい。
無事予算が増額されたらしいよ。
三人の給料もちょっと上がったらしい。
いいことだらけだね。
当然私にも新しいものが与えられた。
「次はこれですよ黄色ちゃん。『柿太郎』です」
数十冊の絵本がね!
なんでも
「いきなりマジックビジョンをみせると情報量に混乱してしまうのではないかね? 人間の赤子に対して接するように情報を増やしていくべきだと思うがね」
という所長の一声で、マジックビジョンが却下されたからだそうだ。
あのおっさん私に何か恨みでもあるのかな?
見たいものが見られなかったのは残念だけど、絵本は絵本で面白いかもしれない。
こういう昔話やおとぎ話には過去の出来事や、重要な教訓が含まれていることが多い。
今の世界のかけらにちょっとだけ触れられるかもしれないし。
あと私読書家だったから、こういうお話にも興味津々だった。
そう、だったんだけど
「昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました」
「(そりゃ、どこかに老人の夫婦くらいいるじゃろ)」
「お爺さんは山へ芝刈りに」
「(山と言えばキノコ狩りじゃなぁ。毒キノコとキノコの魔獣との戦いじゃった)」
「お婆さんは川へ洗濯へ行きました」
「(川を汚すと水生魔人から苦情がこぬか?)」
「(……飽きたからって茶々いれるのやめてもらえます?)」
だって飽きたんだもん。
あ、別に出だしが飽きたって訳じゃないよ? そのことについてはあとで説明するけど。
今私は人に近い姿になって園香の膝の上で絵本を読んでもらっている。
園香は防護服着用しながらだけどね。
服装と見た目を気にしなければ年の離れた姉妹とか親子には見えたかもしれないね。
川の上からデカい柿が流れてきて、お婆さんはそれは思って帰った。
馬鹿デカい柿を持って帰れるとはこのお婆さん唯者じゃないな?
そして柿を切ろうとすると中から男の子が……と話は進んでいく。
下記から生まれてくるなんてドライアドの一種かな?
「私が都で暴れている魔王を倒してまいります」
「(また魔王が悪者なのじゃなぁ)」
飽きたことの一つ目、敵役として魔王が出てくる。
竜種だったり、蛇種だったり、鬼種だったり種族は様々だけど悪いのは魔王! ってことになっているんだ。
魔王は『魔法種族の領主、支配者』の意味であって魔の親玉って意味じゃないんだけどなぁ。
人間の魔王だっていたんだし。
「道を歩いていると、スライムに出会いました。『柿太郎さん柿太郎さん、貴女の勇気に感服しました、下等なスライムですがどうか手下にしてください』柿太郎はウッドウルフ、バットに続いてスライムを手下にしました」
その2人間以外の連中が卑屈過ぎる。
他の話でも恩返しに来たペガサスが
「馬畜生の羽で編んだ反物で恩返しをしてきましたが、見られては仕方ありません。私のお肉を美味しくお召し上がりください」
とか言い出してた。
お前もっと生に執着しろ。
ちなみに先ほどの下僕三種が今の多く生き残っている魔物たちだ。
主にペットとして。
ウッドウルフは、木と狼の両方の特性を持った魔物で、普段は木や茂みに擬態して獲物を狩る種族……だったんだけど、今は品種改良されて水と光だけで生きていける。
排泄もしないし、鉢植えと土さえあれば小屋もいらない。
鼻の良さと物覚えの良さを買われて、災害救助や捜索にも大活躍なのだそうだ。
おいおい、スライムとの差があり過ぎない?
バットって言うのは、つまりデカい蝙蝠の魔物だ。
主食は花、つぶらな瞳と鳴き声が意外とかわいい。
空も飛べるし小さな荷物なら運べる。
……昔は結構厄介な魔物だったんだけどお前もそんな感じか。
ウルフ派かバット派かで世間はよくケンカするんだそうだ。
スライム? マニア向けだってさ。
「柿太郎は、長い旅の末ついに魔王島にたどり着きました。しかし魔王島の周囲の海は酷く荒れていて普通の船では通ることができません。柿太郎は困ってしまいました」
私が昨今のペット事情について考えている間に、物語は佳境に入っていた。
主人公はついに魔王のいる島の近くまでたどり着いたが、進む手立てがないみたいだ。
はいでたよ主人公の危機、いや物語としてはよくある展開だけどさ。
問題は子の後なんだよね。
「柿太郎が途方に暮れて天に祈っていると。空からまばゆい光と清浄なる魔力が溢れ、御使い様が現れました」
「(やっぱり出よった! どれだけ出しゃばりなんじゃこいつ等!)」
その3にして最大の問題。
御使いという存在だ。
なんだか神様の使いみたいなノリで登場するこいつらは他の話にももれなく出てくる。
サンデレラにも出て来たし、ペガサスの恩返しにも出て来たし、アラーシュと魔法の小瓶にも出てきた。
どこか一国とか地域の特色なら分かるけどさ、この物語明らかに地方とか時代が違うんだよ。
それなのに主人公が困るとしゃしゃり出てくる。
聖なるドレスを渡したり、ペガサスを人間に変えたり、姫の居場所を教えたりする。
おい、お前らが黒幕なんじゃないのか? と思えるくらい丁度いいタイミングで出てくる。
そして主人公たちは決まって
「御使い様が腕を振ると、海が二つに避けて道ができました。柿太郎は跪いて御使い様に感謝を示します」
この通り何の疑いもなく感謝するのだ。
なにこいつら、人間にそこまで敬われているの?
御使いとやらの姿は、美しい人間に真っ白な羽を背中に付けている。
見覚えのない種族だ。
最初はハーピー種かと思ったけど、彼女達ならば腕の部分に羽がないと不自然だ。
背中から羽を生やす魔法もあるにはあるけど、種族として定着するはずはない。
第一生える羽の色は毛の色と一緒のはずだけど、御使い様とやらは綺麗な色のついた髪をしているように描かれている。
まさか染めているってこともないだろうし。
「柿太郎は魔王を懲らしめました、すると魔王は平伏し二度と悪さをしないと誓いましたが、柿太郎はそのような嘘には騙されません。魔王をしっかりと暗闇の彼方へと消し去りました」
御使いに比べて魔王の信用の無さ、泣けてくる。
ただ反論は出来ない、魔王って言うのは一筋縄ではいかない存在なのは間違いないからね。
「柿太郎は、魔王のため込んでいた宝を持ってぶじ、お爺さんとお婆さんのもとへ帰りました。めでたしめでたし)」
「(めでたくないじゃろ。魔王の一族滅ぼされておるぞ? 完全に強盗ではないか)」
「(……記憶が戻るまでは何とも思っていませんでしたけど、そう言われればそうですよね)」
「(大体、この御使いとやらでしゃばり過ぎじゃろ。どれだけ目立ちたいんじゃこいつら)」
「(あーまあ教会指定の絵本だから仕方ないです)」
園香が本を裏返して納得したような顔をする。
彼女の持っている絵本の裏表紙、すべてに同じようなマークがくっついている。
これはえっと
「(歯車と羽かの?)」
「(ええ、糸車の女神の紋章ですね。女神教のシンボルです)」
はて? 女神教とな?
ちなみに
柿太郎=桃太郎 サンデレラ=シンデレラ ペガサスの恩返し=鶴の恩返し アラーシュと魔法の小瓶=アラジンと魔法のランプ と大体同じだと思っていただいて構わないです。
違うのは本編通り『御使い様』が介入してくることだけです。




