私、観察されました
今日の私観察され日記
私の観察は朝8時から朝の8時まで続きます。
有体に言えば24時間体制、悪く言うとプライベートまるでなし。
ご飯は朝と昼と夜の3回で、ミネラル調整されたお水がきっかり0.5リットル。
おやつはない、酷い。
3人が交代で観察しているとはいうけど、実際見つめたり観察したりするのは1日3時間くらい。
あとはフラフラしていようがふにふにしていようが怒られない。
楽なお仕事で羨ましい。
明かりがついているのは朝の6時から夜の8時まであとは真っ暗なお部屋で独りぼっち。
なんで観察され日記なんて言い出したかと言えば暇だから。
やることが何もない。
「ぴゅふー」
研究対象とはいっても実験するようなことはほとんどないんだってさ。
定期的と体重と体積を量るだけ。
実験部屋には暇をつぶす者が何もないから本当に暇だ。
このままだと暇すぎて死ぬかもしれない。
せっかく生まれ変わって死因が暇すぎて死ぬとか笑えない。
「黄色ちゃん、ご飯だよー」
今日も朝のご飯の時間だ。
園香が私のための水500ミリットルを持ってきてくれた。
ここが勝負だ。
この瞬間私の能力の一つを発動する。
生まれ変わる前はそれはもう数え切れないほどの能力を持っていた。
物理攻撃無効とか魔法攻撃無効とか異常状態無効とか。
ん? いやそんな便利な能力はなかったかな?
記憶があいまいになるくらい沢山の能力を持っていた訳だけど、それでも間違いなく持っていたと言える能力がある。
『獣会話』『擬態』『夜目』の3つだ。
この3つは私の前世の種族『狐獣人』が生まれた時から持っている能力だったから。
『獣会話』は獣とお話ができる、ただし自分の種族とあまりにもかけ離れた生き物とは難しい。
犬くらいならどうにかなったけどトカゲとかとはお話しできなかったっけ、たしか。
『夜目』は読んで字の通りかな、暗闇でも人間よりは明るく見えた。
完全なる暗闇や魔法で作った暗闇は流石に無理だったけどね。
夜狩りをする時なんかは凄く役に立ったよ。
『擬態』もしくは化けるともいうかな? 見た目や姿とかを変えることができる。
制約も多かったけどね、極端に自分とサイズが違う存在、重さが違う存在には変化できない。
ほかにも細々とした制約があったけどあんまり覚えてないかな。
そして今持っている能力
正確に言えば『イエロースライム』として生まれながらの能力かな。
『金属精製』『物理耐性(微)』『完全擬態』の3つだ。
『金属精製』はイエロースライムが狩られる原因となった能力、この力を使ってイエロースライムは暇つぶしに金属を作る。
ん? 暇つぶし?
まさか私を意図的に暇にさせているのは、私が金属を作るかどうか見定める為じゃないだろうね?
「(ま……まっさかぁ。そんな訳ないじゃないですか)」
「(園香……後で覚えておれ?)」
裏切者には後でお仕置きをするとして。
『物理耐性(微)』も文字の通り、物理攻撃にほんの少しだけ強くなる。
パーセンテージでいうと5パーセントくらいかな?
気休めにもならないね、これも人類の品種改良の結果らしいよ?
完全に消せなかったのは、この能力を消そうとすると『金属精製』も消えてしまうかららしい。
他のスライムは5%すらないんだからあるだけましかもしれないけど。
重要なのは最後の一つ。
『完全擬態』
この能力は人間にはあまり知られてないらしいけど凄い能力だ。
なぜ人間に知られていないのかと言うと使いこなせるスライムがいないから。
この能力は『擬態』の完全上位互換で最上位の能力で、この能力による変化は一切の制約がない。
大きさ、重さ、成分、色、身体能力、そのすべてを完全にコピー、さらに時間制限もない。
すごい能力だと思うでしょ?
じゃあなんでスライムはその能力を活用できないのかって?
スライム程度の頭脳だとまず変化しようと思うことができない。
万が一変身できたとして、元に戻れないからそれはスライムじゃなくなる。
偉そうに説明している私も実はこんな能力があるなんて知らなかったけど。
さてなんで私が態々長々と時間を使って能力の説明なんかをしたかと言えば、最後の『完全擬態』を使って私の待遇を改善しようと思うからだ。
「……キャサリンさん! カメラ持ってきてください!」
園香が驚いたような声で……うん、ちょっと棒読みっぽかったけどそれはしょうがないね。
昔から腹芸は苦手な子だったから。
園香が驚いた演技をしてキャサリンにカメラを持ってこさせる。
キャサリンがカメラを私の方に向けてくる。
「特別監察3日目、以前にもまして……いえ、我々に似せるかのように形を変化させています。観察を開始したのは3日目ですが、或いは観察前から判断できないレベルで体を変化させていたのかもしれません」
キャサリンがレポートを音声で付けながら私を撮影している。
撮影している私は多分人型に見えなくもないかな? 3歳児くらいの泥人形にそっくりだね? って感じの形に変化している。
『完全擬態』の賜物だね。
やろうと思えば数十秒で前世と同じ絶世の狐美女に変身することだってできる。
なんならジョセフィーヌそっくりにだって慣れるし、やりたくはないけど現代では伝説のドラゴンにだって変化できる。
でもそれじゃあ意味がない。
私が気ままに外に出歩けるようになるためには、私の研究対象としての価値を示しつつ外を自由に歩く口実が必要。
そこで考えたストーリーが
「(世界で初めて人に育てられたイエロースライムが、人間のマネをし始めて遂には人間そっくりに変身するようになった作戦!)」
というわけ。
我ながら黄色の脳細胞がぐにゅんぐにゅん働いていると思うよ。
「(私は無理があると思うけどね、前例がないし多分今後2度と起こらないし)」
「(それならそれで希少価値がでて妾は安泰じゃ)」
「(私はてっきり全人類の敵になりつつ魔法をぶっ放して好き勝手生きるのかと思っていたわ)」
キャサリンがにこやかにレポートしつつ、冷たい目線を送るという器用な真似をしてきた。
よーし、私をどう思っているのかはよくわかった。
後で纏めてお仕置きしてやる。
ちなみにお仕置き内容は、彼女たちに完全擬態して恥ずかしいポーズをとる刑だよ。
説明が大体終わったので、魔王様はいよいよ外に出るために動き出します。




