私、箱入りスライムでした
「(出られないってどういうことじゃ? 先ほどの話ではスライムは外の世界にも一般的に居るという話じゃったが)」
イエロースライムは確かに珍しい部類ではあるけどスライムには違いない。
街中の至る所にスライムがいるのならば一匹混ざった所で問題はないはずなんだけどな。
「(えっとまず勘違いしているみたいだから一つづつ説明していくわ」
キャサリンが白い板に何かを書き始めた。
黒板の代わりみたいな物かな?
キャサリンはまず、一般的なペットスライムという文字を書いてそれを丸で囲む。
「(まず現代に居るスライムの殆どがペットよ。愛玩魔物ね)」
「(妾は違うのか?)」
「(その説明はあとで)」
キャサリンはペットスライムの下に廉価と書く。
「(ペット用スライムにはいくつか種類があるけど、肝心な部分は二つ、能力の大幅劣化と性格の軟化よ)」
スライムと言っても魔物、生活圏を脅かされれば戦うし、戯れに体当たりをしてくることもある。
小さなスライムなら兎も角大きなスライムだと威力の馬鹿にならないから、ペットにするなら性格を大人しくさせるのは必要だろうね。
スライムの種族的に人間に依存しないと暮らしていけなくなるだろうけど。
「(物理耐性、酸を吐く能力、あと種類ごとの特殊能力なんかは殆ど使えないわ)」
「(なんじゃと……それでは攻撃されたら一たまりもないじゃろうに)」
「(ペット用スライムを面白半分に倒しちゃうことは一つの問題になっているわね。そして性格も大人しいから滅多なことでは人間に反撃しないわ)」
「(稀にはある訳じゃな)」
単一存在の性格の矯正なら兎も角、種族全体となれば多少はイレギュラーが出るよね。
実際私は泥棒をコテンパンに出来るくらい攻撃的だし。
私は転生した存在だから特別かもしれないけど。
「(そういう存在は警察……現代の守備兵みたいなものね、彼らに駆逐されるわ……そりゃ性格が凶暴でも攻撃能力がほとんどないから、出現しても窓ガラス一枚割るくらいが精々ね)」
「(かなしいのう)」
スライムと言う存在は現代では相当弱いらしい。
いや昔もそれほど強い種族ではなかったけども。
「(そしてペットは外に連れ出す時は専用の容器か、鎖を付けないといけないからまず自由には歩けない……スライムって歩くの?)」
「(話が逸れとる……這うか跳ねるじゃな)」
キャサリンは前世から疑問に思うと口に出さずにはいられないたちだから困る。
さらに思いついた謎が解明するまで話が逸れることが多い、さっさと答えを教えて先に進もう。
「(そして勝手にうろついているスライムは問答無用で警察が駆除する。そういう世界よ)」
「(道に居るだけで殺される世界……スライムにとっては地獄じゃな)」
そういうと残りの二人は困ったように顔を見合わせた。
え? 何? これよりもひどいことがあるの?
「(地獄、確かにそうかもね。残りの二種類はもっと悲惨だから)」
キャサリンが処理用と文字を書いて丸で囲み、隣で材料と書いて丸で囲む。
「(酸……正確には消化吸収能力を特化されたスライムは、処理用に使われているわ)」
「(グリーンスライムとかじゃな)」
初心者が装備を溶かされるで有名だった。
しかし処理とはいったい?
スライムが歩いているだけで駆除されてしまう世界じゃし他の生き物を処理するのに使っているのかな?
食べたくもないモノを強制されるのか、辛いね。
「(他の動物を処理したりするのかの?)」
「(いいえ、正確には廃棄物と汚物)」
え? なんだって?
「(廃棄物と汚物)」
「(……それは笑えないジョークじゃよな?)」
「(事実よ)」
ゴミとう○こを食べさせられているだって!?
いや、スライムは大抵に物は溶かして処理できるし、そういう使い方をしていた魔王もいたけどさ。
今は世界に敵にそれが主流なの?
え? 人間てこわい。
「(当人たちは反乱を起こしたり文句を言ったりは……)」
「(そんな知能もなければ知恵もない。ついでにそれが好物になる様に品種改良されているから、むしろ当人たちは喜んでいるんじゃない?)」
思いの外地獄だった。
ペットオアごみ処理。
スライムになったことを少し後悔し始めている。
「(確かにこれは地獄じゃな)」
「(あ、材料の方がひどいわよ? スライムゼリーってあるでしょ?)」
「(スライムの死体から取れるゼリー状の物質じゃな。柔らかい位しかとりえのない物質じゃったと思ったが、それがどうした?)」
「(今はその柔らかさが大注目されていて、小さなものはペンの持ち手部分から大きなものは乗り物のクッションや緩衝材まであらゆる需要があるから、今この瞬間も何処かの工場ではスライムを生ませては潰し生ませては潰しを繰り返し―――)」
「(もうよい! なにもいうな!)」
怖い、現代人間怖い。
「(つまり妾もそのうち潰されたり、ゴミを喰う様に強要されたりするのか?)」
そうなったならば仕方ない。
現世ではなるべく穏便に行きたかったけど、人間が私にゴミを喰えよスライムやろうと言ってくるならば。
最上級魔法を撃つこともいとわない。
「(なに怖いこと考えているんですか、少なくとも黄色ちゃんは大丈夫です。三つのうちどれにも当てはまりませんから)」
「(なんと!?)」
「(キャサリンったら怖がらせるためにわざと説明を省いたわね)」
ジョセフィーヌが太い腕に似合わぬ綺麗な文字で
『研究用』
と書いて、そこに黄色ちゃんという文字を付けたす。
「(……黄色ちゃんは人類が世界で初めて人工的にイエロースライムに産ませた子供なので、研究価値が凄く高いわ、ここに居れば衣食住に困ることなくのんびり暮らせるわよ。私たちも守りやすいし)」
キャサリンめ、最後が本音だな。
つまり私はこの建物にいる限り……前回のような不法侵入者を除いて……安心ってことらしい。
でもせっかく生まれ変わったのだから今の世界を見てみたいというのも事実だ。
当面はこの場所にいるとしてもいつかは外に出られるようになりたい。
「(外には出られんのか?)」
「(外に出るというか……外を見ることは出来ると思うわよ? そのうちここの展示に回るだろうし)」
「(展示?)」
私としたことがうっかりしていた。
いろいろ聞きたいことが有ってすっかり忘れていたけど、もっと早くに聞いてこくべきことが有った。
「(そういえばここはどこじゃ?)」
「(すっごい今更ね)」
キャサリンは苦笑いをしながら、白い板に地名を書いていく。
「(ここは大日本帝国の帝都が誇る下野動魔園の研究棟よ)」
訳合ってこの世界戦では大日本帝国のままです。
ただし国名以外は大体現代と同じです。




