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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
漆黒の廃夢
7/25

忘却された夢の跡


翌日、金曜日。


今日の放課後は、私にとって初めての廃墟部での活動がある。(火曜と金曜が活動日だ。)



…何が言いたいかって?


つまり、ちぇるしー先輩に会えるということ!


ここ最近毎日会えて、ときめきが止まらない。



金曜の講義…英語、文学入門、社会学調査入門、メディア論を受け終わると、私は指定された教室へと駆け出した。


教室は、8号館501。



ガラッ


「お疲れ様でーす!」


「お疲れ。」


「お疲れ様♡」


「……。」



皆さんお揃いだが、星野さんは隅っこの席で黙々と読書していて、挨拶を返してくれなかった。


私は、大学でまだ同年代の友達があまりいないので、まずは星野さんと仲良くなりたいと思った。



「星野さん、隣いい?」


勇気を振り絞って声をかけてみた。



しかし、星野さんは微笑さえしない。


冷たい視線でこちらを見ると、氷のような絶対零度の言葉を言い放った。



「私、あなたとは違いますから。


…慣れ合うつもりはありません。」



「…。」


「……。」



(え?)


今、何て言った…?


まさか、昨日の自分による憶測が本当だったとは。


ショックを受けた私は、ブルブルと震えていた。



「詩織ちゃん、こっち来る?」


薫さんが、荷物を置いていた隣の席を空けてくれた。



「では、そろそろ廃墟部の活動を始める。」


ちぇるしーが言った。


「まずは、お互いの自己紹介といこう。ニックネームも決めたいから、よろしく。」


(ニックネーム、か…。)



「まずは、俺からいくね。


桜谷(おうこく)大学法学部2回生、智瑠 孝だ。呼び方は、…ちぇるしーでもちえたでもご自由にどーぞ。


廃墟部に入ったきっかけは、簡単に言うと、過去を消し去ることは、人々の苦労をもなかったことにするのと同じことだと思ったからだ。…また、後々話すけど。


ってことでよろしく!」



ちぇるしーの次は、薫さんだ。



「同じく桜谷大学国際学部2回生、橘 薫よ♡


私は、留学先で廃墟を見て、その活用方法の面から興味を持ったわね。廃墟ってグローバルなものだと思うの。


詳しくは、また話しましょう!


呼び方は、薫姉さんでも、薫でも何でもいいわよ♡」



続いて、その隣に座っている私の番である。



「社会学部1回生 春灯 詩織です!


廃墟部で、これから頑張りたいです!


呼び方は、何でもOKです。高校の時は、"しおりん"って呼ばれてました。


よろしくお願いします!」



最後は、冷血女…星野さんだ。



「文学部1回生 星野 風子です。


廃墟は、私の生きがいです。その忘却された過去と廃棄されてしまった未来に、何とも言えないノスタルジアを感じます。


呼び方は、…そういうの興味ないんで。


私は、この部活で廃墟について、愛と理解を深めようと思います。」



「……。」


無表情で淡々と語る星野さんに、私達は唖然とした。



「自己紹介、ありがと。」


沈黙を破ったのは、ちぇるしーの言葉だった。


「じゃ、今日からの主な活動は、"廃墟地図作り"だから、よろしく。


日本でも、世界規模でもいいよ。


廃墟部は、1年に1回、活動の集大成として"廃墟ブック"を作成してるんだ。


その1ページ目に貼る地図ってことな。」


(なるほど…!)



そもそも廃墟って、どんなものなのだろうか。


イメージとしては、心霊スポットのような、排他的でゾクゾクする暗い場所だ。



私は、そこに置かれていた廃墟の写真集を手に取ってみた。


そして、息をのんだ。



(き、綺麗…!)


ナミビアのコールマンスコップ、スコット隊の小屋、ブルガリア共産党ホール、軍艦島、炭鉱、化女沼レジャーランド…。


ページをめくる手が止まらない。



私の中で、眠っていた何かが目を覚ましたような気がした。



廃墟は、思っていたような心霊スポットとはどこか違っているようだ。


美しくて、儚くて、どこか切なく哀しい…。けれど、何だか懐かしい雰囲気のものもある。



その中でも、特に気になったのが「裏野ドリームランド」。


廃遊園地であるが、閉館となった理由が特殊だ。――それは、恐怖の7不思議。


私は、それらをぶつぶつと読み上げる。



「1.時として消える、来園した子供。


2.ジェットコースターで起こった、謎の事故。


3.アクアツアーで今も現れる、謎の生物の影。


4.ミラーハウスで起こった、人間の中身の入れ替わり。


5.ドリームキャッスルの地下にある、謎の拷問部屋。


6.独りでに廻る、無人のメリーゴーラウンド。


7.観覧車から聞こえる、助けを求める謎の声。」



ゾッと背筋が凍った。


(でも、こんなの本当なの…?)


半信半疑だ。



すると、薫さんが口を開いた。


「地図作りにあたって、それらの廃墟を実際に探索してほしいの。やっぱりリアルな方がいいでしょう?


でも、廃墟への立ち入りは危険だから、規制されていることも多いの。


だから、たまに行われる廃墟ツアーに参加する方法が手っ取り早いわね!」


「なるほど…!」


私は、真っ先に裏野ドリームランドを訪れてみたい。



◇◆◇◆


廃墟に少し興味がわいたところで、その日の活動は終わった。


「しおりん、星野さん。ご飯行くわよ♡」


(薫さん、早速"しおりん"って呼んでくれた…!)


金曜の活動後は、ゆっくりとサークル仲間でご飯を食べに行くというのが決まりらしい。



「すみません、それは強制参加ですか?」



冷めた目で星野さんが言った。



「そうよ。相互親睦も、サークルの大切な課題なの。」



堂々と言い返した薫さんに、しぶしぶ星野さんはついてきた。


その日は大学近辺にあるうどん&そばの店、"わっほ"という店に行った。(変な名前)



そして、1人の帰り道、私は残酷な現実に気付いてしまった。


…財布の残金が、32円だということに。


(やばい。バイトしないと一文無しになってしまう…!)

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