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桜色の忘却①―郷愁の足音―  作者: 星利
春一番の淡恋
6/25

春と夏


学習会館を出ると、ちぇるしーが伸びをしながらこちらを見た。


「あー、腹減ったなー!


飯でも食いに行くか。」


「はっ、はい!


今、お母さんに連絡しますね。」


(先輩とご飯に行けるなんて…!大学サイコー!)



「春灯さん、何食べたい?」


「うーん…、ここら辺に何があるんですか?」


「そうだなー。ラーメンとかどう?」


「ラーメン!」


私は目を輝かせた。


(そういや、ちぇるしーは塾で「好物はラーメン」って言ってたな。)



「ラーメン屋なら、"大山家(おおやまけ)"ってとこがオススメだよ。」


ちぇるしーの提案で、私達は大学の近くにある"大山家"に行くことになった。



◇◆◇◆


"ラーメン"と赤い文字で書かれた黄色ののれんをくぐると、美味しそうな匂いが充満している。



「ラッシャーーイ!ご注文はお決まりッスか?」


そう言って出てきた店員さんを見て、私はのけぞり返った。



「玲夜、何でこんなところにいるのよ!」


「それはこっちのセリフや!」



スポーツ刈りに、素朴な顔立ち。


ラーメン屋の制服がよく似合っているその部活男子は、私の幼馴染み・園田(そのだ) 玲夜(なつき)である。



「何やお前、もう彼氏できたん?


…まったく、大学を何やと思ってるんや。」


呆れたような玲夜の顔を、私は蹴りたくなった。



「ちょ、この人は彼氏じゃないッ!


同じサークルの先輩。」


「はじめまして、法学部2回生、智瑠 孝といいます。」


律儀にぺこりとお辞儀するちぇるしー。



「ふぅーん。オレは、この鳥女の幼馴染み、園田 玲夜っていいます。」



「いっつもいっつも鳥女って、何よ!一言多いのよ!


何ならお前はマントヒヒだ!」


「なんやと!」


ギャアギャア言い争いをする私達。ちぇるしーは困惑した顔をしてるし、周りのお客さんも迷惑そうに見ている。



「あんたは大人しくオーダー聞きなさいよ!」


私が大声でそう叫ぶと、玲夜は商売用のすました顔に戻った。



「では、ご注文はどちらになさいますか?」


私は、先輩オススメのネギたっぷりラーメンを選んだ。ちぇるしーは、チャーシュー大入り麺。



オーダーを聞き終わり、厨房へと戻っていく玲夜は、何か言いたげに振り返った。


「オレ、もう今日は上がりやし、お供するわ。


あぁ~、ハラヘッタ!」


「…ハァ?!」



そんなこんなで、玲夜は私達のテーブル席に加わってきた。



(あぁ…、せっかくの先輩とのラーメンタイムが!玲夜、邪魔!)



イライラする私をよそに、2人は美味しそうにラーメンをすすっている。


「やっぱ、労働後のラーメンはええなぁ!」


「うん、美味い。」


(何、仲良くなってんのよ…。)



「あれ、お前チャーシュー食わんの?


じゃあ俺が…」


玲夜の箸が伸びてきた!


「もうっ!」


私は、ラーメンを抱えて立ち上がった。



◇◆◇◆


そうしてラーメンを食べ終えると、ちぇるしーが口を開いた。


「もう遅いから、春灯さん最寄り駅まで送ろうと思ってたんだけど…」


「心配ご無用ッス!


下宿の方に1時間半かけて送ってもらうわけにいかないんで。


ここは、俺に任せて下さい!」


「そうだな。」


ちぇるしーは片手をサッと上げて、去っていった。



(何で、こうなるのよ…!)


家が隣同士の私達は、もちろん帰宅ルートも同じだ。



「いやぁ、びびったで。まさかお前と同じ大学やったなんて。」


まんざらでもない顔をしている玲夜に、私はツンとする。


「はいはいそーですか。」


「何やお前?


もしかしてあの先輩のこと…。」


みるみるうちに自分の顔が熱を帯びていく。


「なるほどなるほど。」


玲夜は、不敵な笑みを浮かべている。



「もう、放っといてよ!」


半泣きの私に、玲夜は小さい声で何かを呟いた。


「……から。」


「え?」


「いや、何でもない。


今夜は、月が綺麗やなと思って。」


「あっそ。」



玲夜の自然観測趣味なんてどうでもいい私はそっぽを向いた。



ぼんやりと灯る街灯が、夜道を歩く2人の影を映し出していた。

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